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病院の事業承継、出資持分の放棄だけでは承継できない(解決編)

出資金を放棄するということの意味を、私と息子では、違う捉え方をしている。

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「渡井さん、申し訳ないのですが、このまま持分放棄するのは、ちょっと待ってほしい。」

突然の心変わりでした。

しかし、渡井は驚きませんでした。これまで全く口出しされてこなかった理事長なので、ピンと来ました。

「迷っておられるのですね。」

「出資持分を放棄したほうがよいことは、もちろん分かっています。しかし、出資持分を放棄すれば事業が承継できるかというと、そうではない。放棄するということの意味を、私と息子では、違う捉え方をしていると思うのです。」

「実は、そういうお話が、もう少し前に出てくるのではないか、と思っていました。」

「予測していたのですか?」

「いえ、順調に進み過ぎでした。普通であれば、もっと葛藤があるものです。」

理事長はコーヒーを口にし、声のトーンを落としました。

「このまま持分を放棄して、息子にどこかのタイミングで理事長をバトンタッチする。それで果たしてよいのかどうか。私の中にある事業承継は、この息子なら同じような気持ちでやってくれるな、何の心配もないな。そう思えるかどうかなのです。しかし、私はまだ何も息子に語っていません。息子も、何も私に語っていません。本音での話し合いを、出来ていないのです。だから、いまは同じものを見ていても、違う見え方をしているのだと思います。」

 

全てを注いで育ててきた事業の何十億という財産を放棄する。財産を放棄して、事業を遺す。

渡井は慎重に言葉を選びながら、答えました。

「私はこれまで、多くの病院の事業承継に関わらせていただいてきました。しかし多くのオーナー家で、後継者は先代の本当の思いを知らないままです。稀に、本音でぶつかり合うケースもあります。それは、なにか問題が起こったときです。『そんな話は聞いていない』と争いになって初めて、お互いの本音を理解するのです。それは、本当に残念なことだと思います。」

理事長は黙っておられます。

「ましてや今回、理事長が全てを注いで育ててきた事業の何十億という財産を放棄するわけです。財産を放棄して、事業を遺すわけです。オーナー家にとって、財産の放棄はこの1回限りの意思決定です。どれだけの思いでそこまでされるのか、私はその思いは、お孫さんやその次の、子々孫々の方々にまで、語り継がれるべきものだと思います。なぜなら、そのことこそが事業の本質だからです。ただ放棄して終わり、あとは代々、理事長が交代するだけで事業承継できる、ではないのだと思います。」

「しかし、本音を言えば伝わるかというと、多くの場合、そうではありませんよね。本音を言ったがために、修復できない関係になってしまうことがある。むしろ、そのほうが多い。」

「いまは、分からないかもしれません。それでいいのです。いつか、どんな思いで親父がそう言っていたのか、分かるときが来るものです。親父がどんな思いだったのか、聞けないことのほうが多い。それを直に聞くことができる。息子さんにとって、かけがえのない財産になるはずです。全て話す必要はありません。全て話さなくても、全て伝わるはずです。」

その日の話し合いは、数時間にも及びました。

「理事長、私がそのお話をお聞きできることは、とても光栄なことです。しかし、それは私が聞くべきものではありません。奥様や息子さん、親族の方々に語っていただくべきものです。それに、奥様や息子さんも、実は理事長に尋ねておきたいことがあるのではないでしょうか。」

理事長はハッとして渡井を見ました。そして、時間をかけてでも、医療法人Y会の親族会議を開催すると意思決定されたのでした。

 

医療法人の親族会議、二度と再現できない空気感。

親族会議を開くと言われて、奥様も息子さんも少し戸惑われたようです。

理事長から、何か難しいことを言われるのではないか。

そんな不安を払拭するため、ファシリテーター役は渡井が担当することになりました。

手元のメモを見ながら、幼少期からどんな人生を歩んできたのか語り始めた理事長の言葉を、奥様も息子さんも黙って聞いています。しかし話があちこちに飛んだりして、本当に大切なところに、なかなかたどり着きません。

渡井は少し休憩を入れることにしました。

しばらくして再開すると、少しトーンを変えて、重要なテーマを理事長に投げかけてみました。それでも遠回りしてしまう理事長に、奥様が絶妙のタイミングで助け舟を出します。

息子さんも、ようやくこの親族会議の意味が分かられたようです。神妙な面持ちになっていました。

初回の親族会議は、三時間で一旦、終わらせました。

渡井から見ても、大成功でした。それは、二度と再現できない空気感だったのです。

二回目からは、息子さんは奥様も同席させました。父親である理事長に尋ねたいことを書き出して、これまで聞けなかったことを尋ねます。

何度も親族会議を繰り返し、理事長の思いは、息子さんご夫婦に確かに口伝されたのでした。渡井から見ても、そのことはよく分かりました。

並行して、医療法人Y会の新認定医療法人に向けた財産の組み換え・ガバナンスの整備は、事務長の旗振りの下、順調に進められました。

「結局、私たちが本当に困っていたことは、出資金をどうするかではなく、一族としてこの事業をどうしていくのか、ということだったのです。親族会議で、私は初めて、事業に対する本当の気持ちを夫の口から聞けました。私たちにとって、あの時間はかけがえのないものになっています。」

後日、渡井は奥様から、そう感謝と労いの言葉を頂いたのでした。

(この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは、一切関係ありません。

 

 

この物語の中で、渡井がファシリテートした解決方法

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(コンサルタント、システム会社など同業の方はお断りします)

 

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