事例紹介

病院建て替えで過大投資、経営困難に陥った事例

医業収益45億円に対して、借入金が75億円。過剰投資で事業再生に。

「事業再生を進めるために、経営改善の可能性を含めた経営改善計画を作成してもらえないだろうか。」
金融機関から紹介を受けたA病院は、年間の医業収益45億円に対して、借入金が75億円に達している状態でした。

問題の要因は明らかで、「病院建築時の過大投資」でした。
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誰も何も異を唱えないまま、建物だけが出来上がっていった

通常、土地の取得費用は総事業費のうち大きな割合を占めるケースが多いので、総事業費を試算してから購入の意思決定をします。

しかし、A病院の場合は逆でした。不動産会社から場所が良く広い土地が見つかったと紹介され、十分な検討をしないまま購入。その勢いで、建物の建築費用にも過剰な投資をしていました。

なぜ、誰も何も異を唱えないまま意思決定されてしまったのか。冷静に考えると、あり得ない過剰投資ですが、このようなケースは実は少なくありません。

建て替え当時の話をお聞きすると、A病院の経営状態は非常に悪化していました。

医師数の不足などにより急性期機能に課題があり、そのような中で、建物や医療機器に起死回生の大きな投資を行ったのです。

しかし、それは全く計画性のない投資でした。予定どおりに稼働せず、キャッシュフローと借入金返済のバランスがたちまち崩れてしまいました。

病院内部の関係者に確認すると、次のような回答が返ってきます。

「当時は建て替えることが目的となっていて、建てた後のことまで、あまり考えていなかった」

「建築の計画途中での数値に関しては、ほとんど認識していなかった」

不動産会社から土地を購入した後は、設計会社、建築会社と設計から施工へ次から次へと計画が進みました。

金融機関の担当者も積極的に融資を提案し、事業計画の検討が十分に行えないまま、あれよあれよという間に、建物だけが出来上がっていったのです。

事業再生に向けた、デューデリジェンス

A病院は残念ながら、事業再生という手段をとることになります。

そのためには、金融機関の支援をとりつけなければなりません。

私たちは経営改善の可能性を把握するため、事業DDと財務DD(DD:デューデリジェンス)を行いました。

事業DDの結果、次のような結論がでました。

A病院は透析やリハビリテーションになどに強みがある一方、急性期系の機能には特徴がない。多額の設備投資によって当初目指した急性期機能の拡充と、現状の実態として有する機能との乖離が大きいことが課題である。

また、予測されたことですが、財務DDの結果、A病院の実態に近い決算書は、もとの帳簿データよりかなり悪いものであることが判明しました。

これら不都合なことを明確にしたうえで、実現性のある経営改善計画を策定することになります。

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経営改善計画を策定する

A病院の経営改善活動は主に3つの観点となりました。①診療単価の向上②病床稼働率の向上③費用削減

具体的には、診療密度分析で一般入院基本料7:1を算定している患者の内約半数が、回復期および療養程度の医療投下資源しかないことがわかったので、地域包括ケア病棟の病床稼働率向上を提案しました。

また、現時点の緩和ケア病棟の看護職員は患者数に対して相当に余裕がある上に、複数名の看護補助者まで配置していたため、緩和ケア病棟の病床稼働率向上も提言しました。

その他の診療単価の向上に関しては、各種リハビリテーション料・薬剤管理指導料の算定適正化、新たな施設基準の届出などが挙げられ、これらの検討を提言しました。  

主な費用削減に関しては医薬品や委託費などのコスト削減、人件費の適正化等を挙げました。

ここで私たちが人件費の削減にまで言及したのは、現状では増収施策を行っても必要な利益を確保できない可能性が高かったためです。

なぜなら、病床の稼働も地域包括ケアなどの病棟も、全体では比較的高く維持されており、強みである透析や人間ドッグは、ほぼ定員に達している状態。収益面では大幅な改善が見込める状態ではありませんでした。

さらに経営改善をするためには、現在の状態から人件費を含めた費用の削減が必要との結論に至ったからです。

金融機関との交渉と条件提示

ところで再生にあたっては、借入金に関する返済条件を緩和する代わりに、金融機関から様々な条件を出される場合があります。

A病院の場合は、金融機関との交渉の結果、役員報酬の30%カット、スタッフの賞与支給額の減額、年間の設備投資枠4,000万円の設定などの条件が出されました。それらを含めて経営計画を作成し直します。

経営が正常化するまでに、10年程度の期間を有する見込みです。その間は役員だけでなく多くのスタッフが影響を受けてしまいます。特に人件費面の制限や設備投資の条件額は大きな影響を及ぼします。

設備に関しては、高度な医療機器が故障してしまうケースが考えられますが、診療に直接影響するため、金融機関への事前の相談により上限額を超えて購入することが出来るケースもあります。

ただし、その際には必要性や生産性に関してかなり詳細な説明を求められるでしょう。

今回の事例のように、いったんA病院のような状態になってしまえば、金融機関との条件に縛られながら経営を継続していかなければなりません。

しかし、建て替え時の返済計画が予定通りに進まないため、銀行から相談が寄せられるケースは少なくないのが現実です。

もちろん融資にあたっては、銀行側も入念なチェックをしますが、大口の融資案件に見込みが甘くなることもあります。もちろん、そもそもの計画の責任は病院側にあります。

ゼネコンの建築担当者は、極端な言い方をすれば、建築費用さえ支払われればダメージは受けません。設計事務所も同様です。

つまり、甘い計画であっても、関係者である金融機関や建築関係者のいずれも途中で引き返す動機がなく、ひたすら前に進めて走っていく状態になってしまうのです。これが病院建て替えの現実です。A病院のような過大投資の失敗例は、いくつもあります。

あえて、「建て替えではなく、違う方法を考えましょう」「今はストップして、時期を待ちましょう」、そう言える立場のメンバー、それは顧問税理士かもしれませんし、コンサルタントかもしれません。そのような方を建て替えのプロジェクトメンバーの中に入れておくことを、 ぜひともお勧めしたいと思います。

そして単に反対するだけでなく、私たちは具体的な根拠や対案を提示して、建て替えもしっかりと前に進んでいくようにサポートさせて頂きたいと思います。

「建て替えのことだけ知っていればよい」というものではありません。

本事例は掲載時点の情報に基づき、一般的な内容をご紹介したものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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