収益改善にあたり経営感覚や危機感を腹落ちさせる

病院経営には、うまくいく要因が必ずある

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「佐藤さん、大変なことになりました。」

S事務長の声はうわずっています。

「どうされたのですか?」

「理事長が、病院の経営指標を開示すると言い出したのです。」

聞くと、病院経営シミュレーションゲームの報告を聞いた理事長が、「よく分かった。せっかくだから、今後の役職者ミーティングは、きちんと数字を開示して行おう」と言い出されたのだそうです。

理事長のこの英断で、医療法人T会の会議では、より詳細な数字や指標が開示されるようになりました。

シミュレーションゲームの実施は、収益改善プロジェクトにも大きな影響を及ぼしました。参加メンバーの発言が変わったのです。

「多くのメンバーが、ただ施策を考えるのではなく、『うまくいくやり方かどうか』ということを考えるようになりました。努力さえすれば経営がうまくいくのではない。うまくいくやり方が必ずある。ツボを押さえなければならない。そう信じて、一人ひとりが考えるようになったことが、大きな成果ですね。」

「病院を倒産させてしまったメンバーは、特にそう感じたのでしょうね。自分たちの選択の何が間違っていたのか。チームワークがよくて盛り上がっていたのに、最初から間違った方向に向かってしまって、一度も浮かび上がらず倒産してしまったチームもありましたからね。」

チームワークがよければ、病院経営はよくなるのか

事務長は畳み掛けます。

「チームワークがよければ、必ず経営はよくなると、私は思っていました。そうではないのですか?」

「チームワークやメンバーのモチベーションは、最も重要な要因の1つだと思います。しかし、ただ仲がよいというだけでは、ダメなのだと思います。経営がうまく行っているうちは、お互いの本音を知らなくても、問題を先送りにして仲良くやっていけます。しかし、経営がうまく行かなくなると、お互いの本性が出てきます。そこで初めて激しいやり取りをして、お互いの本音を知ることになります。そういうことが、往々にしてあります。組織も経営も、それではダメなのだと思います。それでは、遅いのです。」

事務長は何度も頷かれました。

「確かに、お互いに迫りきれていない、見て見ぬ振りをしているということがありますね。ただ、日本経営さんの収益改善プロジェクトが、それを打破してくれるのではないかと期待しているのです。経営施策を実施しているつもりが、実は収益に繋がらない支出ばかり繰り返しているということが、病院経営の中ではよくあるのだと思います。採用や昇給もそうです。採用や昇給によって、その何倍もの収益を上げてそれが継続できて、初めて『よい施策』と言えるわけです。しかし、なかなかそこまでは迫れない。そういうことに気づいたメンバーが、増えたと思います。数ヶ月が経過して、いろいろな部署が収益改善プロジェクトと連携しようという動きも出始めています。」

バーチャルの場で病院経営のリアリティを議論する

一年が経過しました。

約束どおり、年に一度はシミュレーションゲームをしようということになり、2回目のゲームが開催されました。

今度こそは雪辱を果たそうと参加したメンバーでしたが、2回目はさらに多くのチームが、途中で倒産してしまいました。

ルールやハプニングカードをバージョンアップし、全国の病院で実際に起きている問題を入れ込んで、ゲームのリアルさを増したからです。難易度は上がりましたが、参加メンバーの「体験した感」は、確実に上がりました。

バーチャルな場を通して、リアルな経営・リアルな失敗について自分のこととして体感し、意見を出し合えた。3年目は、医療法人T会が抱えるテーマに、よりフォーカスしてもらえないか。

S事務長からは、そのようにコメントをいただきました。

(この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは、一切関係ありません。

 

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