病院人事評価コンサルティング事例/評価では問題は解決しない
300人の病院職員の人事評価を、自前で設計して運用する。
応接室に通されると、分厚いファイルを抱えて事務長が現われました。
「ご相談というのは、その分厚いファイルのことですか?」
「そうなんです。⼈事評価制度の運⽤で、根本的に困っているのです。」
「職員数は300人ほどでしたよね?評価の実施時期は、評価者や特に事務の方々は大変ではないですか?」
「まさにそのことなんです。評価表は何とか自分たちで作成したものの、その運用がこんなに大変だとは思いませんでした。」
「評価は年2回ですか?」
「はい。年に2回、所定のフォーマットに本⼈が⾃⼰評価し、上司の評価を加えて、最終、理事会に上げられます。」
「評価は紙でされているのですか?」
「最初は紙でやっていました。しかし、全てのデータを⼈事部がエクセルに⼊⼒して、役員会資料を作成しなければなりませんの で、すぐにエクセルに変更しました。本⼈がエクセルに⼊⼒して、部署ごとに⼈事部に提出してもらっています。」
「年に2回、エクセルのファイルが300枚、事務部に集まるわけですね?」
「そうなのです。エクセルでも⼤変な作業です。コピー&ペーストで済むようになったものの、⼀つひとつ開かないといけないので、 集計するだけで精⼀杯です。」
評価でなく、一人ひとりの貢献や成長を可視化したい
「本⼈が⼊⼒したデータを誤って上司が上書きしたり、フォームが変更されていて思うように集計作業が進まなかったりなど、エクセルでの運⽤も大変だという話は、よくお聞きします。」
「覚悟していたものの想像以上に大変でした。しかし、私どもの困っていることはもっと本質的なことなのです。」
⾼園は出されたコーヒーを⼝にしました。とても美味しく煎れられています。
「うちの病院で困っていること、深刻な悩みというのは、『評価をする』ということに対する、手ごたえ感なのです。人事評価制度は人材育成にも繋がるということで、導入することにしました。理事長の強い後押しもあり、考課者研修も随分やってきたので、評価者自身は評価をするスキルも随分備わってきました。評価を行ったら、きちんと部下にフィードバックもしています。しかし、人材育成に繋がっているかというと、どの評価者も首をかしげるのです。実際に私自身も部下の人事評価を行っていますが、どうも実感が得にくいところがあるんです。」
「なるほど。それでも、理事⻑は強く後押ししてくださったのですよね?」
「そうです。『人材を育てることが法人の未来を創る』。これが、理事⻑の一貫した考えです。『入職してくれたからには、⼀⼈ひとりの貢献や成⻑を上司がしっかりと⾒て可視化していこう。適性を見ながら、適材適所に人を配置していこう』。そう、発信されています。」
「それが、できていないと?」
「出来ていませんね。評価をするだけになっています。このファイルの山をご覧下さい。過去の評価結果を全部とり溜めているんですよ。これだけ現場は真面目にやってくれているんです。でも、これだけやっても、人材育成に繋がっているか、毎年評価の点数が上がってきているかというと、そう言い切れないのです。」
「理事⻑は何と⾔われているのですか?」
「何も⾔われません。評価シートは⼀通り⽬を通されますが、膨⼤な時間をかけて個別に確認されています。誰がどのように成長しているか、評価シートだけでは分からないのだと思います。昇格者を推薦する際も、『彼の人事評価結果はどうだったかな』とはつぶやかれるのですが、会議に人事評価の資料があるわけでもないので、活かされていないのです。」
「事務⻑は、理事⻑に何か相談をされたのですか?」
「していません。解決策がなければ、何の解決にもなりません。だから、⾼園さんに思い切ってご相談したのです。」