コンサルタントの視座・着眼「私たちは事実に基づかない経営判断をしているという現実」

2019.06.05

私たちは事実に基づかない経営判断をしているという現実

NKGRコンサルティング株式会社  執行役員 渡井紳一郎

近年、自然災害による被害のニュースをたびたび目にするようになりました。

では、過去100年間、自然災害で亡くなる方の数はどのように変化してきたでしょうか。

①2倍以上 ②変化なし ③半分以下になった

このクイズの答えをご存知の方は、今話題となっている名著「ファクトフルネス」(ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド 著/発行元 日経BP社)をすでに読まれた方かもしれません。

常識から考えれば、①です。

しかし、答えは①ではありません。②でも③でもありません。

③はおろか、統計データではなんと、25%に減少しているのだそうです。

事実に基づかずに思い込みで判断をしている

このように、私たちは事実に基づかずに思い込みで世界を見ているのです。

「ファクトフルネス」という言葉は、著者による造語です。

事実とデータに基づき、様々な事象を理解していく必要があると説き、ビル・ゲイツほか多くの著名人が大絶賛したといいます。

確かに言われてみれば、私たちの判断は大部分が感覚的、心理的で、事実とはかけ離れたものになっています。

人生においても、経営においても、「事実に基づかない判断をしている」という現実があります。

事実に基づかない判断をしたために、期待以上の成果を出せた、という場合ももちろんあるでしょう。

しかし多くの場合、事実に基づかないミスジャッジは、不効率な対策や不合理な判断に繋がるはずです。

財務諸表のデータが生かされず、思い込みの意思決定をしてしまう

経営における「事実とデータ」の一つが、財務諸表です。

経営を俯瞰しつつ、変化を数値化して見るもので、経営において不可欠な判断材料となります。

しかし、この財務諸表のデータが生かされず、思い込みの意思決定をしてしまうケースが散見されます。

それは、難しい分析や理論の話ではなく、たった2つのことをやり続けることができるかどうかにかかっていると、私は思うのです。

一つは、「タイムリーなデータであること」

すべての指標が必要なのではなく、日次、週次、月次、年次で、それぞれ押さえるべきデータがあります。

それぞれ、極力タイムリーに把握すること。

月次で言えば、月次試算表です。月次試算表がタイムリーに報告されているからこそ、事実に基づく判断・軌道修正ができます。

二つ目は、「変化を可視化し、データを直感的に把握できるようにすること」

数字の羅列では気づけないことが多々あります。

グラフ化や指標との比較差異分析を行い、変化に敏感に反応してフォーカスできるようすることがポイントです。

たったこれだけのことかと言われるかもしれませんが、やり続けるのはなかなか大変です。

手間をかけずに効率的にデータを集積し、継続していける仕組みをつくる必要があります。

権限のある方や経験のある方ほど、ミスジャッジする

私たちを取り巻く経営環境は、「変化のスピードが速く、過去の延長では未来を見出しにくい」という真っ只中にあります。

だからこそ、権限のある方や経験のある方ほど、ミスジャッジのリスクが高まっていきます。

自社・自院の経営状態を、本当に把握できているか。

事実とデータをスピーディーに正確にとらえられる仕組みがあるか。

現場の生の声や事実・データを検討する場が設けられているか。

決算報告で経営状況が明確になったタイミングに、ぜひとも見直しされることをお勧めします。 

(6月18日、新潟・山形で地震が発生しました。被害に遭われた方々には、謹んでお見舞い申し上げます。一日も早い復旧を心よりお祈り申し上げます。)

本稿の執筆者

渡井紳一郎(わたい しんいちろう)
NKGRコンサルティング株式会社 執行役員

事業計画策定、事業承継業務、金融支援を含む事業再生業務等が専門分野。顧客の組織に深く入り込み事業・財務の改善を行う。2013年からは東京の財務会計部門の立上げを行い、東日本への展開を担っている。

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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