専門家の視座・着眼「人材育成の考え方」

2020.01.10

氷を張った井戸、組織として支援する許容力

NKGRコンサルティング 株式会社
執行役員 松本 亮

 

今回は、人材育成の考え方について、お話させて頂きます。

多くの企業や病院で、どうすれば社員が育ってくれるかと試行錯誤し、キャリアラダーの設計や、メンター制度の導入等をされます。

しかし、少し成長したと思うとすぐに辞めてしまう社員も多く、報われずに諦めてしまいそうになる、このような経験のある管理職の方は多いと思います。

そのような方々に、私自身が人材育成に際して大切にしている、2つの言葉をお贈りします。

 

担雪埋井(たんせつまいせい)

まず、担雪埋井(たんせつまいせい)という言葉です。ご存知でしょうか。

臨済宗の僧、白隠禅師の言葉だといわれています。意味は文字の通り「雪を担って井戸を埋める」ですが、いくら懸命に雪を担っても溶けてしまい、いつまで経っても井戸は埋まりません。

一見報われない愚かな行為の様に見えます。

しかし、たとえ上手くいかないことでも、努力を怠ることなく続けることが大切なのだ、と解釈することができます。

まさに、人材育成。一見報われないように感じることを、続ける根気がいるものだと思います。

 

また、この「担雪埋井」という言葉は、生き方の極意という異なった解釈もできます。

一見報われそうにないことでも、我を忘れて夢中になれるものが見つかった人は、とてつもない行動力と成果を生むことがあります。

夢中になれるということは、とても清冽な精神状態です。ただひたすらすべきこと、せずにはいられないことに全力で打ち込む、これが努力の秘訣だと説いているとも解釈することができます。

これも人材育成のポイントだと思います。

 

啐啄同時(そったくどうじ)

もう一つは、「啐啄同時」という言葉です。こちらも禅語です。

啐啄同時とは、鶏の雛が卵から産まれ出ようとするとき、殻の中から卵の殻をつついて音をたてます。これを「啐」と言います。

そのとき、すかさず親鳥が外から殻をついばんで破る、これを「啄」と言います。

そしてこの「啐」と「啄」が同時であってはじめて、殻が破れて雛が産まれるわけです。

これを「啐啄同時」と言います。これは鶏に限らず、上司と部下、家庭では親と子の関係にも学ぶべき大切な言葉だと思っています。

早過ぎてもダメ、遅過ぎてもダメ、これは部下に対する指導や、仕事を任せることにも似ています。人材育成には、そのタイミングと意思が大事だということです。

上司が部下にやるべきことをすべて決めて、その進捗だけを管理していれば、部下は思考省略をし、自立することができなくなります。意志ある「啐」を促さなければなりません。

逆に、部下が試行錯誤して自分自身の意志でやろうとしたことを上司が否定してしまえば、成長の芽を摘んでしまいます。「啄」を行う受容力が必要です。

 

打ち込むべきものを見つけた人のよう

井戸の水も雪を担い続ければ0℃になり、氷を張ります。氷を張った井戸は、打ち込むべきものを見つけた人のようです。

氷が張った瞬間は、正に「啐啄」が一致したタイミングです。

そこからの目標は明確であり、努力の成果が出やすい状態となります。それを組織として支援する許容力が、人材に火を付ける環境をつくることになり得ます。

昔から聞いて知っていた言葉ですが、最近になりまさにそうだと思うことが多くなりました。

人材育成にしても、自分自身の会計人としての仕事にしても大切なことだと思います。

言葉の解釈論を述べましたが、それだけでは何の効果もありません。

相手から、恐れ入りましたと敬服される段階まで、突き詰めて実践していきたいものです。

 

 

メッセージの執筆者

松本亮松本 亮(まつもとりょう)
NKGRコンサルティング 株式会社 執行役員


大学院修了後、2003年4月入社。企業の資金調達やM&Aアドバイザリー業務、オーナーの資産保全業務などに従事した後、コンプライアンス部門を経て、病院・診療所向け業務に従事、新商品開発など各プロジェクトを統括。2019年よりNKGRコンサルティング株式会社執行役員。事業承継・M&A・個人の資産保全・相続税対策など、ご家族との面談まで含めたトータルソリューションを得意とする。 趣味は海外旅行、世界100カ国訪問が目標。1級船舶操縦士、大型四輪・二輪、MBA(京都大学)。

 

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