コンサルタントの視座・着眼「やめる決断ができるリーダー」

2019.11.09

「やめる決断」ができるリーダー

株式会社 日本経営 取締役 橋本竜也

ギリギリのタイミングでの変更、中止の判断

東京オリンピックのマラソンと競歩の開催地が、札幌に移る決定がなされました。開催時期の東京の暑さはもともと重要な問題として指摘されていましたが、選手と観客の安全を考慮して、結局会場変更になりました。小池知事は強く反発しましたが、JOCに押し切られた形です。

大学入試の英語の民間試験導入が、直前で中止になりました。受験生の金銭的負担や地域差の問題などはもともと課題として指摘されていましたが、結局大きな世論の反発により、中止に追い込まれました。文科省としては、すでに決定したことだからということで押し切ろうとしたようですが、さすがに無理筋だったようです。このまま実施されていたらどうなっていたことでしょうか。

走り出したら中止の決断をするのは、容易ではない

どちらも、ギリギリのタイミングでの変更、中止の判断でした。これらの報道を見聞きしていて特に気になったのは、問題が指摘されていてもそのまま進めようとした理由です。

「オリンピックの象徴であるマラソンを東京でやらなければ意味がない。」
「すでに決定事項だ。」
「もう進んでいて、今更止められない。」

メンツ、決定事項、進行中といった類のことですが、冷静に考えて、これらは何かを中止できない理由になるでしょうか。恐らくならないと思います。

しかし、企業においても同様のことは多々起きています。

「会議で決めたことだから。」
「みんなが賛成したことだ。」
「当社だけやらないわけにはいかない。」
「すでに進めている。」
「今までもこうしてきた。」

こうして、うまくいかない可能性が高くなっていることでも、走り出したら誰も止められないということはよくあることです。もしかしたら、当事者も心の中では「誰か止めて」と思っているかもしれませんが、走り出したら中止の決断をするのは、容易ではありません。

勇気を持って中止・撤退の決断ができるかどうか

取り組む以上、最善を尽くすことは当然のことです。不退転の気持ちや、成功するまであきらめないという信念は、事業を作るうえで欠かせません。ただ、本当に無理だとなった場合に中止や見直しの決断ができるかどうかは、トップやリーダーの器量が問われるのではないでしょうか。その決断は、トップやリーダーしかできないということが多々あります。

事業を撤退する基準を設定している企業もあります。それでも、そこに関わる人々の夢や情熱、想い、願い、担っている責任などがあり、簡単には中止のカードは切れません。

そうしたことを背負って、勇気を持って中止・撤退の決断ができるかどうか。極めて重要なトップやリーダーの器量だと思います。

しかし、器量だけでも中止や見直しの決断はできません。こうしたネガティブな意思決定をする上においては、根底に本質や目的を見抜く目、強いメンタルや再チャレンジする情熱、失敗をリカバリーできる実力や自信等が必要でしょう。それらなくして中止の決定をすれば、ただの無責任な決定になってしまいます。

変化が激しく、先の見通しも極めて難しい時代です。成功が約束されていなくても、次々にチャレンジしていかなければ生き残れない時代です。多くのチャレンジをするためには、資金力、人材などに加えて、中止・撤退の決断ができるトップやリーダーの器量も欠かせないでしょう。実現可能性の低い事業を途中でやめられず、倒産にまで至るというケースは少なくありません。

多くのチャレンジをし、事業を成長発展させていくために、必要とあれば中止・撤退の判断ができる器量と決断力が必要であり、また、その根底にはその穴を埋められるだけの事業力、資金力、人材力、そしてトップの実力と自信、執念が不可欠だと強く思います。

本稿の執筆者

橋本竜也(はしもとたつや)
株式会社 日本経営 取締役

入社以来、人事コンサルティング部門にて、一貫して病院・企業の人事制度改革に携わる。2006年には調剤薬局に出向し、収益改善と組織改革を実現。コンサルティングにおいては、人事改革、組織改革のほか、赤字病院の経営再建にも従事。2013年1月福岡オフィス長に就任。2017年10月より株式会社日本経営取締役。

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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