納得感を醸成する!データドリブンな医師マネジメント

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業種
病院・診療所・歯科
- 種別 レポート
医師マネジメントの必要性と導入の難所
昨年、弊社お役立ち情報の以下のレポートで医師マネジメント導入の必要性について解説しました。
【医師マネジメントシステム導入・改定の最大のチャンス】
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-finance-organization-quality-105918/
このレポートのように、医師の働き方改革施行とあわせて、令和6年度診療報酬改定では「処置・手術の休日加算1」等の要件見直しとして、交代勤務制またはチーム制のいずれかを満たすことが必要となりました。つまり、診療部のマネージャー医師には、部下の医師のシフト管理など、より高度なマネジメントが求められる時代となっています。
加えて、病院経営の厳しさも増しています。令和6年度診療報酬改定の本体改定率は0.88%ですが、令和6年度の消費者物価指数(総数)は3.0%となっており、病院経営は構造的な厳しさを抱えています。そこで、病院業績に大きな影響を与える医師のパフォーマンスを最大化するために、医師マネジメントの必要性が高まっています。
これまで、医師の供給は大学医局からの派遣に依存してきた背景があり、病院経営における組織マネジメントの中で医師は「聖域」として扱われてきました。医師の不満が生じれば、大学医局からの医師の引き上げや直接雇用医師の離職につながるリスクがあるため、聖域としてマネジメントの対象外としてきた病院が多くなっていました。その結果、医師マネジメントに関する知見が十分に蓄積されていない病院も散見されます。
一方、弊社では、医師のマネジメントは病院経営の核心と考え、2000年頃より医師の人事制度構築支援に取り組んできました。当初は医師供給が潤沢な大規模急性期病院の顧客ばかりでした。しかし、地方公務員法改正により、2016年度から全国の地方公共団体で人事評価制度を導入することが義務づけられたことで、医師を含む全ての自治体病院の職員は人事評価制度の対象となりました。この前後から中小規模病院でも医師の人事制度導入が増えはじめ、前述した医師の働き方改革施行前後からは、医師マネジメントに関するご相談が急増しています。2024年4月現在で弊社は200病院以上において医師人事制度構築を行ってきました。
難所を越えるには医師の“納得感”が大事
前述した医師供給の背景を踏まえて、医局派遣医師の引き上げや離職のリスクを最小化することが医師マネジメントにおいて最重要事項とされたため、医師の“納得感”の醸成は必須事項となります。そこで、弊社ではデータドリブンな医師マネジメントに取り組んでいます。
前述した地方公務員法における人事評価では、能力評価と業績評価の2種類を導入することになっています。弊社では、能力評価を「定性的な評価」、業績評価を「定量的な評価」と捉えて定性評価と定量評価をバランスよく併用することをお勧めしています。これにより、民間病院でも公立・公的病院でも活用可能な医師マネジメントシステムとしての人事評価制度を構築しています。こうした人事評価における定性評価・定量評価の双方をデータドリブンにすることで医師の納得感を醸成しています。
N数を増やし客観化することで納得感を高める
定性評価については以前、弊社お役立ち情報で以下のレポートを公開しています。
【多職種協働を実現する医師マネジメント】
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-organization-91195/
このレポートのように定性評価については、医師以外も含む多職種による多面評価(360度評価)としています。多面評価を取り入れることで評価者数を増やし、一定以上のN数を確保することでデータの客観性を高め、医師の納得感を高めています。
詳細は上記レポートに詳述していますが、単にN数を増やして客観化するだけでなく、医師の働きぶりを見ている様々な職種からの情報を集約することで、まさに多面的な貢献を把握できるようになります。実際に制度を導入いただいた病院では、多職種による多面評価の結果をご覧になり、「本当にその通りの結果」「良い医師と問題のある医師が浮かび上がる」との声を頂戴します。
多面評価はN数が医師単位で明確に分かるので、統計的な信頼性も高まります。そのため、評価された医師本人にフィードバックする際も「院内の〇〇人の意見です」とエビデンスが伴うことで納得感を醸成しやすくなります。一部の病院では、この多面評価結果を派遣元の大学医局に提示して、今後の医師派遣に関する相談の根拠資料にしているところもあります。
2軸のデータで妥当性と納得感を高める
定量評価については以前、弊社お役立ち情報で以下のレポートを公開しています。
【物価上昇に対応する“損益”を軸にした医師マネジメント】
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-organization-113337/
このレポートのように定量評価については、「内的妥当性」と「外的妥当性」の2軸で設計しています。内的妥当性としては、弊社グループが提供するクラウド型の財務・管理会計システムKEYbirdを活用し、診療科別原価計算における損益分岐点を実現する患者数を参考値とします。
また、外的妥当性としては、弊社が提供するクラウド型の病院分析システムLibraを活用し、同一診療科の(同規模・同機能)他院と比較した医師一人当たり労働生産性指標を参考値とします。この「黒字化に必要な内的な水準」と「類似したベンチマークの外的な水準」の2種を併用することで、定量目標の妥当性について医師の納得感を高めています。
どちらか一つであれば、「原価計算の費用の配賦基準に疑義がある」や「ベンチマーク他院の設定に疑義がある」など、データに対する医師の反論が出るケースがあります。しかし、2種のデータを併用し、内的妥当性と外的妥当性の双方から信頼性を高めることで、取り組みに対する疑義や疑念を抑制することが可能となります。
・【管理会計システムKEYbird】
・【病院分析システムLibra】
定性評価は「N数を確保した客観化したデータ」を活用し、定量評価には「『黒字化に必要な内的な水準』と『類似したベンチマークの外的な水準』の2種を併用する」など、データドリブンな医師マネジメントを行うことが、医師の納得感を醸成します。
昨今の厳しい病院経営環境を踏まえれば、医師マネジメントへ踏み込むことは必須です。その際には、こうした医師の納得感を配慮したマネジメントシステムが求められるでしょう。
なお、前述したように弊社では累計200病院以上で医師マネジメントシステムの構築支援を行ってきました。ご相談があれば、下記特設サイトをご覧ください。
「医師マネジメントシステム構築支援」特設サイトはこちら
本稿の執筆者

太田昇蔵(おおた しょうぞう)
株式会社日本経営 部長
大規模民間急性期病院の医事課を経て、2007 年入社。電子カルテなど医療情報システム導入支援を経て、2012 年病院経営コンサルティング部門に異動。
現在、医師マネジメントが特に求められる医師数の多いグループ病院・中核病院のコンサルティングを統括。2005年西南学院大学大学院経営学研究科博士前期課程修了、 2017 年グロービス経営大学院 MBA コース修了。
株式会社日本経営
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