話題のジョブ型人事制度は本当に必要?中堅・中小企業が「社員の成長」と「事業成長」を両立させる人事制度のヒント

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業種
企業経営
- 種別 レポート
近年、耳にする機会が増えた「ジョブ型人事制度」は、メディアで注目される一方で、その本質が正しく理解されていないことも少なくありません。従来の日本型雇用である「メンバーシップ型」と対比されがちですが、一般社団法人 日本経済団体連合会が提唱した報告書によると、単純にジョブ型へ移行するのではなく、両者の良い点を組み合わせることが現実的な解だと示唆されています。
この背景には、ビジネスモデルの変化や政府の賃上げ方針、そして働き手のキャリア形成への意識変化など、さまざまな要因が複雑に絡み合っています。本レポートでは、ジョブ型人事制度がなぜ注目されているのか、その本質やメンバーシップ型との違い、そして日本企業、特に中小企業にとって最適な人事制度のあり方を、具体的な運用ポイントとともに解説します。自社に合った人事制度を構築するためのヒントを見つけてください。
注目されるジョブ型人事制度の背景と本質的な理解
「ジョブ型人事」が注目された背景には、主に以下の3つの社会的な変化が影響しています。
ビジネスモデルの変化と新規事業の開拓
従来の日本企業は、一つの製品を大量生産・大量消費するビジネスモデルが主流でした。しかし、変化の激しい現代では、製品のライフサイクルが短くなり、グローバル化や多様な人材の登用が不可欠となっています。従来のビジネスモデルだけでは勝ち残ることが難しくなり、新たな事業の創出や海外展開を視野に入れた人材登用の仕組みが求められています。
構造的な賃上げを目指す政府の方針
政府は、職務内容に応じて給与水準を決定する「ジョブ型」を推進することで、どの企業にいても、同じ職務であれば適正な賃金を得られる社会を目指しています。これにより、高度なスキルを持つ人材は、転職や社内異動を通じて賃金のアップを図ることが可能になります。
キャリア形成に対する考え方の変化
これまでの日本は、新卒採用において職務を限定しない「メンバーシップ型」が主流でした。そのため、職務内容を細かく定義する「ジョブディスクリプション」の作成は一般的ではありませんでした。しかし今後は、職務ごとに必要なスキルを明確にし、従業員が自律的にスキルを習得する「リスキリング」を促すことが重要になります。
こうした背景からジョブ型人事が注目されていますが、一般社団法人 日本経済団体連合会が2020年に提唱した「経営労働政策特別委員会報告報告書」を読み解くと、その本質が少し異なることが分かります。報告書では、ジョブ型に完全に移行することではなく、従来の日本型雇用である「メンバーシップ型」を基盤としながら、高度人材向けに「ジョブ型」の要素を補助的に取り入れていくことが提言されています。
つまり、ジョブ型人事という言葉が先行している部分もありますが、単純に職務一本化を目指すのではなく、メンバーシップ型の良さも取り入れつつ、ジョブ型のエッセンスを加えていくことが、今の日本企業にとって現実的な選択肢であると言えます。
メンバーシップ型とジョブ型の違いとそれぞれのメリット・デメリット
日本における従来の雇用体系である「メンバーシップ型」と、注目されている「ジョブ型」には、採用、評価、昇進、賃金の4つの視点において明確な違いがあります。
項目 | メンバーシップ型 | ジョブ型 |
採用 | 自社の社風に合うかを基準に採用します。 | ポストにマッチする人材を採用します。 |
評価 | マインドや能力が評価の中心となります。 | 役割の実現度や成果が評価の中心となります。 |
昇進 | 年功序列や能力選抜が一般的です。 | ポストが空いた場合に昇進できます。 |
賃金 | 勤続年数や能力に応じて定期的に昇給します。 | 職務内容によって賃金が決まります。 |
メンバーシップ型のメリット・デメリット
メンバーシップ型は、企業が社員の能力やマインドを評価し、長期的な人材育成を行うため、社員の企業への帰属意識が高まり、チームワークを育みやすいというメリットがあります。これは、組織の一員として一体感や助け合いの文化を醸成しやすい特徴と言えます。
一方で、年功序列的な運用になりやすく、個人のスキルや成果が給与に反映されにくいというデメリットもあります。この課題への対応が、モチベーション維持の鍵となります。
ジョブ型のメリット・デメリット
ジョブ型人事は、職務ごとに給与を設定できるため、高度な専門人材を確保しやすいというメリットがあります。また、戦略に応じて機動的な人材配置が可能となり、人件費の管理がしやすい点も魅力です。しかし、職務に特化するがゆえに、組織の縦割り化や従業員の帰属意識の低下といった課題を抱えがちです。ここで鍵となるのが「役割意識」です。戦略を完遂するといった、職務の枠を超えた主体的な行動(役割)こそが企業の成長を支えます。
したがって、ジョブ型を成功させる上では、職務の遂行にとどまらず、役割意識を高めることが重要となります。
中小企業に必要な人事制度の考え方
メンバーシップ型とジョブ型は、それぞれメリットとデメリットを持つため、どちらか一方に限定するのではなく、両者の良い点を組み合わせ、自社の事業モデルに合わせた最適な人事制度を構築することが成功の鍵となります。特に中小企業では、大企業のように職務を細分化して設定することが難しいため、役割を軸とした等級制度の導入が推奨されます。これにより、メンバーシップ型の持つ組織の一体感を保ちつつ、ジョブ型が重視する個人の役割と成果を適正に評価する仕組みを構築し、事業成長を効果的に後押しすることが可能になります。
役割等級制度が適している企業
以下のような企業では、厳格な職務を定義するジョブ型は向いていません。そこで、「職能資格制度」と「職務等級制度」の中間的な位置づけである「役割等級制度」が効果を発揮します。
- 職務が混合的に編成される企業
- チームでの成果創出を重視する企業
- 柔軟な異動や配置転換が必要な企業
- 新卒一括採用で、時間をかけて人材を育成する文化がある企業
役割等級制度とは
役割等級制度は、個々の「役割(=使命)」を軸に、本人の能力も考慮して等級を定める制度です。
例えば、ただ「部下を指導する」という「職務」を評価するのではなく、「部下を育成し、後継者を育てる」という「役割」を評価の基準とします。これにより、従業員は指示された業務をこなすだけでなく、その先の目的や会社の成長に貢献するための行動を意識するようになります。役割等級制度は、特にチームワークや柔軟性を重視する企業において、従業員の主体性と企業の成長を両立させる有効な手段となります。
企業成長につながる人事制度のポイント
人事制度を設計する際には、以下の4つの視点で制度の骨子を整理することがポイントです。これらを制度に反映させることで効果的な運用を実現します。
- 1.トップ方針 経営者の思いや企業文化といった重要な要素を整理します。会社として「大切な価値観」「大事にする行動」を明確にします。また、評価項目にも反映させることで、従業員の行動を方向づけます。
- 2.戦略・計画 トップ方針を実現するための成長戦略を整理します。戦略が具体化されることで、必要な組織体制も描きやすくなり、重点的に取り組む事項を従業員と共有できます。
- 3.役割・権限 戦略を実現するため、各階層ごとに求められる役割や責任を整理します。これによって、従業員一人ひとりが、自分の役割を理解し、自律的に取り組むことができるようになります。評価項目にも反映することで、より意識づけできます。
- 4.実行プロセス 日々の業務で成果を上げるための重要なポイントを整理します。戦略や役割を効果的に実行するため、会社全体や従業員個々人が取り組むことを明確にできます。
人材育成サイクルを回すための人事評価の活用
人事評価は、従業員の成長を促すための重要なツールです。適切な評価項目を設定することで、以下のような効果が期待できます。
- 成長の実感:具体的な行動レベルで評価することで、従業員は自身がどのレベルまで成長したかを客観的に振り返ることができ、次の目標に向けた意欲を高められます。
- 方針の共有:上司と部下が共通の認識を持つことで、次期の行動指針を共に考えられます。
- 公平性の確保:評価者による基準のばらつきを防ぎ、企業の方針が現場に浸透しやすくなります。
人事評価システム「人事評価ナビゲーター」を活用した運用の効率化
人事評価制度の運用を紙やExcelで管理すると、多くの手間とコストが発生します。そこで、人事評価システム「人事評価ナビゲーター」を導入することで、以下のようなメリットが得られます。
- 運用の効率化と低コスト化:評価プロセスの自動化により、運用にかかる時間とコストを大幅に削減します。特に、業界トップクラスの低価格で導入できるため、長期的なコストを抑えられます。
※「人事評価ナビゲーター」の料金プランや他社との料金比較については「こちら」
- 適切な評価の実現:評価の評価の甘辛調整や分析レポート機能により、客観的なデータに基づいた公平な評価が可能になります。
- 人材育成の推進:評価者研修や面談者研修などの動画コンテンツが用意されており、評価者全体のスキルを向上させ、適切な人材育成を促します。
- 使いやすさ:直感的な操作性で、パソコンに不慣れな従業員でも簡単に利用できます。
人事評価システム「人事評価ナビゲーター」は、人事評価制度の運用における手間やコストを大幅に削減し、企業の成長を支援するクラウドサービスです。人事評価システムは、単なる業務効率化にとどまらず、戦略的な人材マネジメントを可能にし、企業の成長を力強く後押しします。
信頼関係を深め、企業を成長させる人材育成
人事制度は、単なる評価や報酬を決めるものではなく、企業の成長を加速させるためのツールです。
「トップ方針」に基づいた「戦略」を立て、それを実現するための「役割」を明確にし、日々の「実践」を評価に反映させます。そして、その評価結果をもとに振り返りを行い、次なる育成計画を立てていきます。このサイクルを回すことで、役割を果たすことが事業戦略の実現につながり、結果として企業全体の成長につながるという好循環を生み出すことができます。
事業成長を加速させるオーダーメイドの人事制度
企業の成長を加速させるためには、教科書通りの人事制度ではなく、事業戦略や従業員の特性に合わせた最適な制度を設計することが重要です。
例えば、幹部層には「ジョブ型」の考え方で成果を重視し、一般社員には「メンバーシップ型」の要素を取り入れてじっくりと育成するなど、事業戦略と現状を分析し、オーダーメイドの人事制度を設計します。そのように設計することで、従業員との信頼関係を深め、企業成長という共通の目標に向かって一丸となることができます。
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