病院組織に「日々の小さな実感」を灯す 〜日本経営の組織人事コンサルタント 3つの信念〜
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業種
病院・診療所・歯科
- 種別 レポート
株式会社日本経営/組織人事コンサルタント
病院経営の荒波の中、私たちは人事制度の導入ではなく、働く一人ひとりの「日々の小さな実感」を創出することを使命としています。
この「小さな実感」の積み重ねこそが、職員の働きがいを引き出し、組織の活力を最大化し、病院を持続的な成長へと導く最強の経営基盤になると信じています。
本レポートでは、『勝つための人事』を実現するために、私たちが大切にする3つの信念をお伝えします。
はじめに:「勝つための人事」と私たちの「使命」
病院経営は今、未曾有の荒波の中にあります。2024年度から本格施行された医師の働き方改革、診療報酬の継続的かつ流動的な改定、そして採用難と定着率の低下。これらは、日々のオペレーションの維持だけでも精一杯の状況を生み出しており、多くの病院経営幹部の皆様が、いかにして医療の質と組織の活力を両立させるか、苦心されていることと拝察します。
こうした状況下で、私たち組織人事コンサルタントは何をすべきか。
「人事コンサルタントの仕事は?」と問われたとき、「人事制度という『仕組み』を作り、その運用を支援することです」と答えるのは簡単です。しかし私たちは、それは単なる手段であって、私たちの使命ではないと強く感じています。
私たちが信じる使命。
それは、院長や理事長、事務長といった経営幹部の皆様が心に抱いておられる「職員への思い」や「こうありたいという病院の未来像」という、目には見えない”約束”を、対話を通じて一つひとつ丁寧に「形にする」こと。
そして、そのプロセスと結果を通じて、病院組織に何かしらの「良いこと」がもたらされること。これこそが私たちの仕事であり、使命だと考えています。
例えば、「少し働きやすくなった」「他部署と協力しあえるようになった」「前向きに頑張ろうと思えるようになった」「組織が変わった」。経営層から現場まで、一人ひとりの「日々の小さな実感」を創り出すことが、私たちの最大の願いであり、存在意義だと考えています。
なぜなら、その「小さな実感」の積み重ねこそが、職員の働きがいを引き出し、組織全体のパフォーマンスを最大化させると考えているからです。そしてそれが、医療の質と患者満足度の向上につながり、最終的には「持続的な経営の向上」に直結すると信じています。
「美しい仕組み」が機能しない理由
多くの病院が、組織変革を目指して新人事制度の導入に取り組みます。先進的とされるクリニカルラダー、目標管理制度(MBO)、あるいは緻密に設計された役割等級制度など。しかし、コンサルタントとして多くのお話を伺う中で、「導入したものの、当初の目的が忘れられ、ただ形式的な運用になっている」あるいは「そもそも現場の実態と合わず、うまく運用できない」といったケースに幾度も遭遇してきました。
どんなに論理的に正しく、先進的で美しい仕組みであっても、それが経営層から現場まで、一人ひとりの実感として何らかの「良いこと」につながらなければ、制度はあっという間に形骸化します。
「また新しいことをやらされる」
「ただでさえ忙しいのに、評価シートを書く時間がどこにあるのか」
「こんな制度で、私たちの仕事の何が分かるというのか」
こうした現場の本音を無視して導入された仕組みは、「タスク」となり、やがて「やらされ仕事」として、組織の活力を奪うことさえあるのです。
私たちが創りたいのは「実感」
だからこそ、私たちは制度設計そのものを目的とすることを、固く戒めています。私たちの仕事は、精緻な制度という「箱」を作ることではありません。
私たちが本当に創りたいのは、その制度(あるいは制度導入のプロセス)を通じて生まれる、現場のポジティブな「実感」です。
それは、「新しい評価シートは、師長が自分の頑張りをちゃんと見てくれるきっかけになった」「制度が変わって、他部署との連携が少しスムーズになった気がする」「目標設定の面談を通じて、自分がこの病院でどう成長したいか、少し前向きに考えられた」といった、日々の業務の中で生まれる本当にささやかで、でも具体的な「実感」です。
組織変革とは、こうした日々の小さな実感の積み重ねによってのみ、成し遂げられるものだと信じています。
「実感」から逆算する制度設計
では、どうすればその「実感」を生み出せるのか。
私たちは、まず経営幹部の皆様が抱く「職員にこうなってほしい」「病院としてこうありたい」という考えを、徹底的にお聞きします。
そして、現場の職員が今、何を願い、どのような「実感」を求めているのかにも耳を傾けます。場合によっては、すでに経営幹部の方自ら、意見を収集されていることもあります。
コンサルタントの役割は、経営陣の思いと、現場が求める実感とを、丁寧な対話を通じてつなぎ合わせる「翻訳者」であり「設計者」であることです。
「どうすれば『実感』が生まれるか?」
この問いをすべての基点に据え、評価項目の一つひとつ、面談の進め方、給与への反映ロジックといった制度の細部を、病院の皆様と一緒に構築していきます。経営の思いを形にし、現場の実感を生む。それこそが、私たちの考える、生きた制度設計です。
第2章 役割の前に、「一人の社会人」として向き合う
2-1. 病院組織の特性への配慮
医療機関という組織は、極めて高度な専門性と、生命倫理への深い責任を土台としています。その結果、他業種と比べても、職種間の専門性に基づく明確な役割分担や、指示命令系統の厳格さ、いわゆる「ヒエラルキー」が色濃く存在する組織であることは、私たちも深く認識しています。
したがって、プロジェクトを進める上で、組織の構造や力学を無視することはできません。誰に、どのような順番で、どのタイミングで話を通すべきか。どの部門のキーパーソンを巻き込むべきか。こうした組織的な「配慮」は、コンサルタントとして当然備えるべき基本スキルです。
2-2. 私たちが持つ「フラットな視点」
しかし私たちは、その配慮の前に、決して忘れてはならないもう一つの大切な視点(スタンス)を持っています。
それは、「医師も、看護師も、コメディカルも、事務職員も、私たちコンサルタントも、等しく使命感を持って働く『一人の社会人』である」という、極めてフラットな視点です。
ある人が「階層」のどこに位置するか、院内でどのような力を持っているか、という「役割」の前に、その人個人が存在します。医療というフィールドで患者を救うことを使命とする「働く個人」がいる。
打ち合わせに参加される方、ヒアリングに協力くださった方、研修や説明会に参加される現場職員の方に対して、私たちは「社会の中の一員」を感じ、敬意を持ってフラットに向き合いたいのです。
私たちは、コンサルティングというフィールドで病院を支援することを使命としています。それと同じように、支援をする組織の一人ひとりは、医療というフィールドで人を助けることを使命とする「社会人」です。評価制度や賃金制度という、個人の人生に深く関わる仕組みを設計する際、この「働く個人へのリスペクト」という視点を、私たちは決して無視することはできません。
2-3. 「最適解」はこの姿勢から生まれる
多くのコンサルティングが失敗する理由の一つに、唯一解(他院の成功事例)をそのまま持ち込もうとすることが挙げられます。なぜそれが失敗するのか。それは、その病院固有の歴史、風土、そして何より、そこで働く一人ひとりの思いを無視しているからです。
私たちが目指すのは「唯一解」の押し付けではありません。その病院にとっての「最適解」を、「一緒に考える」ことです。
そして、その「最適解」は、私たちが第2-2節で述べた「フラットな視点」に立ち、一人ひとりを「社会人」としてリスペクトし、その声に真摯に耳を傾ける対話の中からしか生まれてこないと確信しています。 コンサルタントに言われたからやるのではなく、「自分たちで考え、決めたからやる」。組織体制への配慮と、個人へのフラットなリスペクト。
この両輪を回しながら、一緒に考えるプロセスを経ることで、初めて組織に「当事者意識(オーナーシップ)」が生まれ、制度は「自分たちのもの」として動き出すのです。
第3章 「外部の風」を届け、「元気」を灯す
3-1. 日々の重圧と戦うリーダーたち
経営層や各部門のリーダーの皆様は、日々のオペレーション維持、医療安全の確保、さらに冒頭に述べたような数々の経営課題という重圧に、日々向き合っています。
私たちコンサルタントが訪問する際、気がかりな問題が重なったせいか、あるいは激務の影響 か、表情に陰りが見えたり、疲労の色が濃く浮かんでいるリーダーの方にお会いすることは、決して少なくありません。
3-2. 外部コンサルタントだからこそできること
もちろん、院内で発生している「問題」に目を向け、その解決策を一緒に考えることは、私たちの本分です。
しかし、コンサルタントが院内の問題点ばかりを指摘し、ロジカルな「べき論」だけを振りかざしていては、組織はますます疲弊し、内向きになってしまいます。
私たちは、外部の人間だからこそ果たせる、もう一つの重要な役割があると信じています。それは、院内にポジティブな「外部の風」を届けることです。
日々、院内の課題と向き合っていると、どうしても視野は内側へ向き、思考は目の前の問題へと集中しがちです。私たちはそのようなときにこそ、ほんの少し「窓を開ける」お手伝いをしたいのです。
3-3. 対話を通じて「顔が明るくなる」瞬間
ある病院の事務長が、定例の打ち合わせ後に、少しお話しする時間をくださったときのことです。事務長は、何か気をもまれることがあったのか、表情がすぐれませんでした。
お話を進める中で、弊社が携わったピッチイベントの話、ある敏腕病院経営者との興味深いエピソード、他院で進む画期的な取り組みなどの話題をお届けしました。
すると事務長は大変興味を持たれ、身を乗り出してお話くださり、対話が終わる頃には、見違えるような笑顔になられたのです。
この瞬間こそ、私たちが「元気を届ける」ことの重要性を実感するときです。それは、「事務長」という役割(ロール)を担うリーダーを奮い立たせるという意味合いだけでなく、その役割を背負いながら日々奮闘している「一人の社会人」の心が、再び活力を取り戻す瞬間でもあります。
コンサルタントが提供できる元気は、話題であることもあれば、コンサルタント自身の明るさであることもあります。「あなたが来たらなんか元気が出る」と言っていただいたコンサルタントもいます。
支援を通して関わる時間・機会すべてのどこかで、お客様を元気づけ、ひいては組織を変える活力を生むことも、私たちの信念であるのです。
おわりに:伴走者として、組織の「実感」に貢献する
本レポートでは、私たちが組織人事コンサルタントとしてご支援する際の、3つの信念についてお伝えしてきました。
- 第一に、仕組み(制度)という「箱」の設計に終始するのではなく、そこで働く一人ひとりの「日々の小さな実感」を創り出すことから逆算すること。
- 第二に、病院ならではの組織体制に配慮しつつも、その前に、医師も看護師も、私たちと同じ使命感を持った「一人の社会人」としてフラットに敬意を払い、対話を通じて「最適解」を共創すること。
- 第三に、院内の問題解決だけでなく、ポジティブな「外部の風」を届けること。それによって、役割(ロール)と向き合う「一人の社会人」の心に、変革のエネルギーとなる元気を灯す触媒であること。
私たちは、これらのスタンスを貫き、病院経営の伴走者として、これからも皆様と関わっていきたいと考えています。
「仕組み」で医療従事者を縛るのではなく、「人」が活きる組織を創る。
本レポートでお伝えした私たちの思いが、皆様の組織変革のヒントとなり、一人ひとりの「日々の小さな実感」に貢献できること。
そして、その「実感」の総和こそが、厳しい外部環境の中で病院が『勝ち続け、良い組織として成長していく』ための最強の経営基盤となると、私たちは信じています。
「人」が活きれば、戦略は実現する。
眠れる組織の力を呼び覚まし、理念と実行力が循環する「勝ち続ける病院」へ
本稿の監修者
森口 由貴子(もりぐち ゆきこ)
株式会社日本経営 組織人事コンサルティング部
クリニックをはじめ、200床~400床の病院の人事評価制度構築・導入支援に携わる。法人の方針・戦略からあるべき人材像を明確にし、職員の育成にまでつなげる評価制度構築に強みを持つ。
本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。


