コロナ禍において私たちの「関わりあい」はどのように変化していくべきなのか。
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業種
病院・診療所・歯科
介護福祉施設
企業経営
- 種別 レポート
「経験」ではなく「想像力」
インタビュー/神戸大学大学院教授 鈴木竜太 氏
- コロナウイルスという未曾有の事態によって、これほどにも組織・チームの「自律性」が問われたこともないだろう。
- メンバーから主体的に「こうします」「ああします」「これをやってもいいですか」という相談が上がり、リーダーは都度判断をしながら、スピーディーに対応できた組織もあれば、「どうしたらいいですか?」「会社はどう考えているのですか?」「指示がないので待っています」という話ばかりで スピーディー に動けなかった職場もある。
- 神戸大学大学院教授 鈴木竜太氏 はこれまで、自分のすべきことを実行したり、主体的にメンバー同士で助け合ったり、自分なりに仕事を工夫したりといった、自律的な行動をメンバーが実施するためには職場での「関わりあい」が重要であることを指摘されてきた。
- 今回は、このコロナ禍において私たちの「関わりあい」はどのように変化していくべきなのか、鈴木先生にインタビューをした。
スタートは利己的でないと人は動かない
― 先生は今のコロナ禍で多くの企業が「働き方」の変革を強いられている状況をどのようにみられていますか?
鈴木氏 多くの組織では新たな分岐点を迫られている状況ではないでしょうか。「分岐点」というのは、環境変化の中で「できる限り元と同じように戻そうとする」のか「全く新しい形」を模索するのかという分岐点です。ただ、こういうと「どちらが良いのでしょうか?」という質問がありますが、当然、どちらが正解なんていうのはなくて、その組織が目指す姿によって何が良いのかは変わります。まずは自分たちの組織が目指す成果を明確にした上でどういう在り方が必要なのかを考えなくてはいけません。
― これまで先生は、自律的職場における「関わりあい」の重要性を指摘されてきていますが、多くの組織にとってはリモートワークの導入など「関わりあい」をもつことが難しい状況にもなっていると思います。何かポイントはあるのでしょうか?
鈴木氏 「関わりあい」においても目的を何とするのかがとても重要なことです。研究していると確かに自律化・活性化している職場は「関わり合いが強い」という特徴がみえてきます。なので、よく「どうやったらもっと関わりあう職場をつくれるか」という質問を頂くのですが、一ついえることは「関わり合う事」だけを目的にすると上手くいかないということです。
ダイエットや禁煙なんかでもそうだと思うのですが、それらが健康にとって「良いこと」であることは皆理解している。でも、だからといって、みんながダイエットや禁煙をする訳ではないですよね。
やはり、自律的行動を生むためには、スタートは利己的でないと人は動かない。「そうした方が得」「そうしないと損」という環境をつくってあげることが必要で、「関わりあうこと」を目的にすると上手くいかない。「関わり合いが強い職場」というのは、関わり合わないと自分の仕事ができないような「仕組み」になっているということなのです。
そうすると、関わり合わないと自分の仕事が進まない訳ですから、自然と関わり合いが生まれ、そして実際に関わり合うことで、その必要性や良さを「実感」し、関わりあいが定着していくという仕組みが大切なのだと思います。
― 「そうしないと損」という環境ということは、先生は「厳しいルール」といった規範も効果があるとお考えですか?
鈴木氏 これは注意が必要だと思います。「規範」というのは圧力にもなります。また「つながりが強い」というのは見方によれば、閉鎖的な組織という見方もできます。だからこそ「これに従わなくていけない」ということではなく「規範」に対しても見直しをしていけるような開放的な関わり合い性が必要でしょう。
コロナ禍における人材像について
― 先生は「リーダーは優れた問いで人を動かす」とおっしゃっていますが、良い問いのポイントというのはあるでしょうか。
鈴木氏 それこそセンスを磨かなければなりませんが、成果に向かわせるような問いが重要であって、ただ問えばいいということではないでしょう。その中では、「Why」は重要だと思っています。なぜやるのか、なぜそうなるのか、何のためにやるのかといった問いです。
― なるほど。また、先生は自分たちが経験したことのない世界にいくその時、頼りにすべきは「経験」ではなく「想像力」と仰っていますが、最近はインターネットの普及もあり、若い社員の「想像力」も低下しているように感じます。
鈴木氏 私は「頭でっかち」になってしまっているといいますか「勉強しすぎの弊害」だと考えています。どんなに恋愛の必勝法に関する本を読んだって「じゃあ恋愛の達人になれるのか?」と言ったらそうではなくて、やはり実践を積むことが大切でしょうし、やってみないとわからないということがたくさんあると思います。しかし、学生をみていても思いますが、「失敗を必要以上に恐れている」と感じます。
ただ、よく日本人は「自由にやりなさい」といわれるとどうしていいか分からずうまく行動できないと言われますが、私は、日本人は逆に制限・制約がある中で何かを創り上げることには長けているのではないかと思うんです。そういった意味では、コロナウイルスという制約下の中で日本は意外と上手に力を発揮していくのではないかと思っています。
― 「日本」という点に注目すると、一気に日本でもテレワークが広がったものの、欧米に比べるとまだまだと言われます。また、日本では人と人とのつながりを大事にするため、テレワークだとつながりが作りにくいため、進みにくいとも言われますが、どうでしょうか。
鈴木氏 日本はつながりを大切にしていて、アメリカをはじめとする欧米はドライだというのは間違った認識だと思います。例えば、アメリカ人もつながりをとても大事にしているけれど、アメリカは努力をしないとつながりが生まれない。だから、つながりを作るために一生懸命になる。例えば、ホームパーティーを開くというのも一つのつながり作りですが、実際にやろうと思えば、招待したり、準備したり、運営したり、片づけたり、大変な手間がかかる。つながりのために努力をするんです。
日本の場合は、自然につながりあうような前提があって、特に努力しなくてもつながりが作れるような環境がある。阿吽の呼吸などもそう。だから、テレワークになれば、つながるための努力が必要になるわけですが、その努力の必要性が理解されれば、日本人はそういうことに適応できると思っているし、悲観はしていないです。
― この未曾有の事態に私たちの真の力が試されているのかしれませんね。この度は貴重なお話をありがとうございました。
(聞き手:株式会社日本経営 植田なつき)
神戸大学大学院教授
鈴木竜太 氏
神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了後、静岡県立大学経営情報学部専任講師、神戸大学大学院経営学経営科准教授を経て、同研究科教授。著書に「関わりあう職場のマネジメント」(有斐閣、2013年)「経営組織論」(東洋経済新報社、2018年)「組織行動-組織の中の人間行動を探る」(有斐閣、2019年)など多数。「関わりあう職場のマネジメント」は第56回日経・経済図書文化賞を受賞している。