早稲田ブルー・オーシャン戦略研究所の創設記念シンポジウム
-
業種
病院・診療所・歯科
- 種別 レポート
|
― まず、ブルー・オーシャン戦略とは一言でいうとどのような理論なのか。なぜ多くのマーケティングの理論がある中で、川上教授はブルー・オーシャン戦略にフォーカスしたのか。
川上 ブルー・オーシャン戦略は、一言で言えば「競争のない新市場の創出を目指す理論」です。競争市場でいかに勝つか、勝つための戦略も実行しつつ、他方で、競争のない市場も創り出していく。実務ではこのバランスが必要です。しかし競争のない新市場の創出は、簡単なことではありません。ブルー・オーシャン戦略を学ぶ意味は、ここにあります。セオリーがあるのであれば、少なくとも知らないよりは知っていたほうがはるかに近道を行けます。
ブルー・オーシャン戦略の素晴らしいところは、理論のスタートが「買い手にとっての効用」から始まっているという点です。「勝つ」ことがスタートではない。このことに、私はまず共感できました。さらに、次のステップはコストではなく「価格」。その次に、はじめて「コスト」なのです。そして最後に「手立て」。マーケティングだけではなく、それを実現していくためのヒューマンリソースやリーダーシップ、組織論などに展開していく点も実務的だと思います。なにより、どうすればそれを実践できるか、ツールが提供されています。完成した美味しい料理だけを見せるのではなく、レシピも公開してくれている。私のこれまでの研究テーマであるマーケティングとイノベーションを繋ぐものとして、まさにライフワークだと思えたのです。
― 早稲田ブルー・オーシャン戦略研究所、通称WABOSIが設立されているが、その設立経緯と今後のプランについて教えてほしい。
川上 どこからお話しすればいいのか、私が早稲田大学 大学院経営管理研究科に赴任したのが2015年4月です。その年から設立準備をスタートしていたのですが、チャン・キム教授とのプロジェクトは4年半越しになります。10年前に発刊された「ブルー・オーシャン戦略」はあまりにインパクトが強く、しかし中身を詳しく読み込んだビジネスマンはそれほど多くはなかったのではないかと残念に思っていました。それに、ブルー・オーシャン戦略がマレーシアの国家戦略でも応用されていることは有名ですが、どのような理論もその国やその組織に応じてアレンジしなければならない部分があります。日本でより実務レベルで適用するためには何が必要か。私がキム教授にお会いしてそんな話をしたところ、「あなたが日本でのケーススタディを書いてみないか」と言われました。しかし、ブルー・オーシャン戦略では、10年くらい競争優位が続かなければケースと呼べません。一人で事例を集めて研究しても、うまくいかないのです。日本での事例・ケース教材を蓄積するプラットフォームが必要だと言うと、教授は快く承諾くださいました。そのような経緯で、多くの方のご支援・協賛などを頂いて「WABOSI」が設立されました。ちなみに、インシアードのINSEAD Blue Ocean Strategy Instituteは、通称「IBOSI」。私どもは、日本の「和」という言葉にもかけてWABOSIと名乗っています。これは、日本発の最前線のブルー・オーシャン戦略を発信していきたいという強い願いでもあります。
― 経営者は実際に経営で成果を出すために、ブルー・オーシャン戦略やWABOSIの研究活動から何を学べばよいか。
川上 経営者の方の中には、ブルー・オーシャン戦略を実際に使ってみて思うようにいかなかったという方もあるかもしれません。それは、レシピどおりに料理すれば必ず一流シェフと同じ味を再現できるかというと、そうならないのと同じです。それでも一から自分で考えてやるよりは、はるかに近道です。ブルー・オーシャン戦略は、完成度は非常に高い理論だと思います。ツールだけつまみ食いするという使い方ではなく、まずは全体を深く知っていただきたい。その上で、実際にやろうとしたときにわからないこと、中には意図的に書いていないと思われることもあるわけですが、そこに本当の値打ちがあるのだと思います。受身ではなく、よし、私がやってやろうという気持ちで参加いただけることで、レシピをどう使えばいいのか生きたケーススタディが蓄積されるのではないでしょうか。これが、日本発のブルー・オーシャン戦略に繋がっていくのだと考えます。
― 理論に沿ってアクションとケーススタディを積み重ねれば、ブルー・オーシャンはやがて誰にでも発見できるのか。
川上 ブルー・オーシャンは「発見」するものではないと思います。この点が重要なのです。「創造」するものなのです。どこに狙いを定めるかではなく、既存市場の境界を越えて今までにない市場を創造することです。ピーター・ドラッカーの言葉の中に、「顧客創造」「マーケティング」「イノベーション」という言葉があります。私はこの3つの言葉を「ゴールデン・トライアングル」と勝手に名づけているのですが、ブルー・オーシャン戦略は、まさにこの3つを同時に実現するものです。
― 3月10日のWABOSI創設記念シンポジウムでは、第一部で、川上教授初め第一人者の方々が講演、第二部では実業家・経営者によるパネル・ディスカッションが予定されている。どのような問題意識のある方が参加されると有益か。
川上 株式会社日本経営の平井社長には設立当初から力になっていただき、また当日もパネラーの一人として登壇いただけます。学術的な研究・知の蓄積と共有は、産業界の発展にも寄与するはずだという設立趣旨に気持ちよく賛同いただき、感謝しています。
日本は「ものづくり」大国として、伝統的に技術志向が強い傾向にあります。しかし、顧客にとっては、「機能」よりも「情緒」のほうが値打ちがある、購買意欲に繋がっているということは多々あります。例えば、ウェアラブル端末。私どもの研究では、高齢者の場合、健康を維持するためという機能よりも、いつでも誰かと繋がっているという安心感のほうが購買意欲を高めることがわかっています。よいものを作ることはもちろん重要ですが、人間の経験の質を高めるために市場構造や市場行動を変革するということが、今後の資本主義経済の希望となるのではないでしょうか。
ブルー・オーシャンの創造は、企業から見れば競争のない市場の創出です。しかし、社会にとってはいままで無かった市場を創るということ、顧客にとっては、いままで無かった値打ちを得られるということです。あらゆる人々の共通の願いで、人類の進歩発展そのものです。ですので、トップマネジメントの方々はもちろん、現場で毎日お客様と接している方も、商品・サービス開発に当たられている方も、その商品を販売しサービスを提供している方も・・・どのような方にとっても、ブルー・オーシャンは共通のテーマだと思います。
ぜひとも多くの方々にご参加いただいて、ブルー・オーシャン戦略の意味をまず知っていただきたい。そして、理論と実践を共有する場として皆様にご活用いただき、新市場創出の知的プラットフォームとして育んでいただきたいと思います。温かいご支援とお力添えのほど、何卒よろしくお願い申し上げます。
早稲田ブルー・オーシャン戦略研究所(WABOSI)
創設記念シンポジウムのお申し込みは、こちらから
研究所のホームページは、こちらから