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エビデンスに基づいた科学的な介護「クオリティ・マネジメント」

2018.12.28

  • 2018年11月、第5期介護サービスクオリティ・マネジメント研究会がスタートした。
  • 同研究会は、現場の困難事例に対して、データ検証・症例検討・具体的なマネジメント手法など、参加施設それぞれの実践と成果を共有・討論して互いに学びを深め合う、実践型の研究会。
  • プロデューサーの宮島 渡 氏と日本経営の坂佑樹に、研究会の特徴・成果・活用方法について尋ねた。
宮島 渡 氏

社会福祉法人恵仁福祉協会 高齢者総合福祉施設 アザレアンさなだ 総合施設長、日本社会事業大学専門職大学院 福祉マネジメント研究科 特任教授、全国小規模多機能型居宅介護事業者連絡会 理事長

坂佑樹 株式会社日本経営 介護福祉コンサルティング事業部 副部長

 

平均要介護度4.6の特養のユニットで、2年半もの間、入院者0、年間平均稼働率99.6%の衝撃

早速ですが、介護サービスクオリティ・マネジメント研究会を設立した経緯についてお聞かせください


介護サービスクオリティマネジメント研究会 数年前、縁あって宮島先生との出逢いをいただき、「アザレアンさなだ」を訪問させていただきました。当時、特別養護老人ホームにおいては、原則「要介護3以上」の高齢者でなければ入居できないことになりました(2015年改正介護保険法)。重度対応、認知症対応、看取りが必須になると予見される一方、クライアントである特別養護老人ホームでは、入院者数が増加し、稼働率の低下が目立ち始めて、有効な改善策について悩んでおられました。

入居者の方の要介護度が高くなり入院されることが多くなってくると、施設はショートステイでこれを埋めようとします。入院されて、空室を営業して埋めて、退院されて受け入れて・・・この繰り返しが現場の業務を大混乱させて、スタッフも疲弊、頑張れば頑張るほど、負のスパイラルに陥っていきます。経営の改善はもちろん必要ですが、もっと介護職員の方々に介護という仕事の面白さを感じてもらいモチベーションを高めてもらわなければ離職が止まらないと、私は危機感を感じていました。

そんな中、ご縁をいただき「アザレアンさなだ」を見学させていただいたときの衝撃は、忘れることはできません。平均要介護度4.6の特養のユニットで、2年半もの間、入院者0、年間平均稼働率は99.6%。衝撃的な数字です。さらに、どうすればそのような満室に向けた運用ができるのか、「満室対策」のツールとノウハウがしっかりと整備されていたのです。

「満室対策」とは、施設を満室経営するためのあらゆる施策を多角的に検討し、不足している部分を補っていく対策手法です。ご利用者を増やす営業手法も重要ですが、むしろそれ以上にご利用者を減らさない。入院防止策が最も重要であることを教えていただきました。

こんな素晴らしいツールとノウハウがあるのなら、ぜひ多くのお客様に取り入れていただきたい。そう思い立って、宮島先生に協力依頼をしました。従来のようなコンサルティング形式ではなく、自分たち自身で実践して、検証して、学びを深めていく、実践的な「研究会」をぜひスタートしたい。その場で先生にご相談しました。先生もご快諾いただき、ツールとノウハウ、症例・事例を提供していただいて、2016年9月、「介護サービスクオリティマネジメント研究会」がスタートしたのです。


介護サービスクオリティマネジメント研究会宮島氏 介護・福祉の業界では、何をどう教えていいのか、まだまだ体系化できていないという現実があります。原因の1つとして、「介護では、利用者の方々からサービスについての評価を頂くことがない」ということが挙げられます。

本来、あらゆるサービスはエビデンスに基づいて提供されるべきものです。事象に対して仮説を立て、情報収集と検証を通して対策が打たれる。つまり、クオリティマネジメントです。しかし介護については、提供しているサービスに対して、利用者の方々から評価がされることがない。働く職員も、自分たちがよいケアを提供しているのか、よくないよいケアを提供しているのか、分からない。現場の経験は積み上がらず、サービス品質は改善されず、要介護度は高くなり、入院と空所日数が増加し、現場は混乱し職員は疲弊するという悪循環に陥っていきます。

「アザレアンさなだ」では、一つのバロメーターとして「入院」ということに着目しました。困難ケースであっても、科学的なよいケアを提供していれば、急激な機能低下に陥って「入院」ということには簡単にはならないはずだ。取り組みが奏功し結果が数字として明確に出たことで、やはり介護にとってクオリティ・マネジメントは必要不可欠だという確信を得ました。何より、現場スタッフにとって、自分たちの取り組みでこんなにも成果が違うということを実体験できたことは、大きな自信・励みになりました。

 

困難事例のケーススタディを通して、「介護」という仕事の面白さを再認識できる

「介護サービスクオリティ・マネジメント研究会」では、そのまま使えるツールとノウハウが提供されるということですが、カリキュラムはどのように進むのですか? 何を習得できるのでしょうか?


 研究会は4ヶ月で1クールとなっています。初回の研究会でツールやノウハウなどをもとに、クオリティマネジメントの運用方法についてレクチャーします。それと、事前に困難ケースに関する基本情報を所定の様式にてお持ちいただき、症例検討形式で、困難ケースの発生要因や必要な情報収集、対策などの仮説立てを行うケースワークを行います。

それぞれの施設で取り組む目標・施策を設定した後、3ヵ月後(4ヶ月目)に修了研修として実践発表会を行います。その間、実践発表に向けて、不明点・疑問点を解消するために1ヶ月ごとのフォローアップのゼミナールを実施します。

研究会では「総合記録シート」を共有し、困難事例の情報を持ち寄って、なぜそれが発生するのかケーススタディするのですが、ほとんどの参加者の方が、いかに今まで感覚的に、勘と経験で仕事をしてきたのかに気づいて愕然とされます。あるいは、利用者の健康管理情報をもとに根拠を持って仮説立てと対策立案を行うという、本来の「介護」という仕事の面白さを再認識されたりします。

困難ケースと思われていたものが、実はその症状や現象に一定の兆候があったり、疾病や薬の影響であることが少なくありません。疾病を生活機能障害と捉えると、対応の仕方も変わってきます。夜寝ない、体重低下、食事量減少、徘徊 等の困難ケースに対して、お年寄りだから、認知症だから、重度だから・・・だから仕方がないといったように最初から諦めるのではなく、必要な情報を収集し、共有し、仮説を立てて、打ち手(対策)を明確にする。このケアのプロセスを回して、多職種に連携して、多職種の専門性を活かしていけるのは、利用者の日常生活を24時間365日把握している介護職のスタッフだけです。

現場の課題は、確かに無くならないかもしれません。だからといって「できない」「難しい」と諦めて終わらせるのではなく、健康管理情報という根拠となるデータに基づき課題要因を特定し、解決策(仮説)を考え続けることができる。それが「介護の仕事そのものである」・・・このことに気づいた職員さんが一人二人と増えてくれば、その職場が確実に変わっていきます。


宮島氏 研究会には、それぞれの施設から複数で参加いただくことをお勧めしているのですが、お互いに競い合うことで、職場のチームの力が確実に上がっています。

私たちはどんなに頑張っても、自分が利用者様と対応している時間が全て、その範囲でしか事実を認識することができません。24時間365日のことを知ろうと思えば、お互いに情報を共有しなければなりません。しかし、現実には、食事は食事、処置は処置、バイタルはバイタルといった具合にバラバラに記録されている。しかもそれぞれの職種で使っている言葉も違う。これでは、利用者様の行動や反応の意味は、見えてこないのです。

「総合記録シート」で、水分・食事・運動・睡眠・排便・排尿などの要素を総合的に記録し、24時間の変化と1週間の変化をもとに、予後予測を立てる。これまで感覚(勘と経験)で言っていたことを、データに基づいて皆で一緒に考える。異常があった場合には、医療と連携して重篤な状態を予防する。チームの経験を学習に変えていくサイクルが回り始めると、現場の運営も成果も全く違ったものになっていきます。

 

研究会の脱落ケースに見る、科学的なケアを阻害する要因

科学的なケアの重要性はよく理解できましたが、現場でそれを阻害している要因があるとすれば、どこにあるとお考えですか?


介護サービスクオリティマネジメント研究会坂 過去4回の研究会の中で、途中で脱落された施設様も実はありました。そのような施設では、経営層から職員に「ぜひ現場でやってみたら」と勧めていただき、参加してくださっていたのですが、何がダメだったのかを考えてみると、「クオリティの問題を、現場に任せてしまっていた」ということです。

ただでさえ忙しい中で、現場が新しいやり方を取り入れて勝手に動いていくケースはほとんどありません。仕組みが定着するまでは、トップダウンで進める。理事長、施設長といった組織のトップの強い姿勢があるからこそ、初めて現場も動けるのだと、改めて気づかされました。

もう一つ、基礎トレーニングができていないことも、阻害要因として挙げられると思います。「介護サービスクオリティマネジメント研究会」は、ケアを科学的に実践する応用的なプログラムです。しかし、それを支えるのは1つ1つケアの基本です。例えば食事介助であれば、食事前の準備として「覚醒を確認する」という行為があると思います。覚醒を確認するという行為は徹底されているが、「なぜ、覚醒を確認する必要があるのか」というケアの意義・目的が明確になっていない、または一人ひとりの回答が異なるという場合も本研究会のプログラムの導入が進んでいかないことが多いです。


宮島氏
 基礎トレをしていない状態で、いきなりクオリティマネジメントから入ると、恐らく使いこなせないでしょう。本研究会で提供している実践的なツールを活用するためには、土台となるケアの基本を統一させていくことは必要不可欠です。

研究会の中では「介護手引書」を提供しています。辞典のようなものであり、現場での実践での困難事例に対する対策方法が数多く記載されています。介護の現場では、本で勉強したこと、研修会で学んだことと、現場で毎日やっていることは、必ずしも繋がっていません。ケーススタディを通じて、実際の困難事例とテキストに記載している対策との繋がりを意識してもらい、それらの知識を現場で活かせるようにサポートしています。

 

両親のときの経験・失敗は自分たちはしたくない、そう考える利用者が増える

経営者の姿勢と、現場の基礎トレーニングというお話が出ました。実際には介護というカテゴリをはるかに越えているという印象もあります。それでも、経営にとって、あるいは現場の職員にとって、報われるものになるのでしょうか?


坂 
入院による空床が減って稼働率が安定化すれば、現場のオペレーションに余裕ができます。施設の収入が安定化するのはもちろん、スタッフもよりサービスの向上に集中できるようになります。データに基づいて仮説を立てて、打ち手が外れることもありますが、利用者さんの変化が如実に現われるときが必ずきます。そのときの喜びは計り知れません。大きな誇りになります。それを実感できると確信しています。


介護サービスクオリティマネジメント研究会宮島氏 例えば医療では、優秀な専門職を沢山集めて、ドクターがかなり頑張って対応していても、インフォームド・コンセントの問題はなくなりません。利用者の費用負担が増加し、職員の確保が難しくなる中で、隣接する医療業界の動向を見れば、タイムラグはあるとしても、世の中がどのような方向に進んでいくのかは明らかです。介護だけ、サービスの品質は問われないということはあり得ません。ましてや介護保険制度がスタートして20年弱、自分の親を預けた方々が、今度は自分が入所する年代になってきています。両親のときの経験・失敗は自分たちはしたくない。そう考えるのは、当然です。

しかし一方で、他の施設を辞めたという介護職から、「施設の取り組みを変えていきたいと上司に願い出ても、受け入れてくれなかった」という話を聞くことがあります。なぜ、こんな優秀な人を手放すのかなあ、と愕然とするのです。人材とサービスは、ジャブのように確実に効いていきます。利用者の皆さんが教えてくれることはありません。その恐ろしさに気づいていないのは、私たちだけかもしれません。

 

クオリティ・マネジメントこそが自分たちがしたいことを実現する手段だと、ご理解いただける

最後に、どのような施設の方に参加いただき、どのような活用の仕方をしてもらうと、より早く成果を実感できるとお考えですか?


 経験をいくら積み重ねても、それだけではクオリティは高まりません。何よりも大切なのは、仮説を立てる能力です。仮説をもとに打ち手を考えて、それがどう結果に結びついたのか。うまくいかなかった場合は、どこに問題があったのか。立場が異なる様々な人から、自分自身が気づかないような視点で意見をもらうことで、仮説を立てる能力は高まっていきます。研究会では、参加していただいているそれぞれの施設の取り組みに対して、お互いに議論をし合います。同じ職種なのに自分たちの施設では気づかなかった視点で質問がされると、大きな衝撃だと思います。

しかし、それを施設に持ち帰っても、なかなか施設長や現場の同僚達に伝わらない。そこで説得や調整に時間がかかっていると、物事が進まないわけです。ですので、初回は必ず、経営層や施設長にご参加いただいています。一度ご参加いただければ、クオリティマネジメントこそが自分たちがしたいことを実現する手段だと、ご理解いただけると思います。そんなものは要らないとおっしゃる経営層は、まずおられないと思います。


宮島氏
 また、国や市区町村は、1の投入をしたら、5のアウトプットを期待します。政策動向にだけ合わせていても、そうはなりません。私たちが見るのは、あくまでもユーザーです。自分たちが選ばれる存在になるためには、建物の美しさやアメニティも確かに重要かもしれませんが、あくまでも本質はサービスのクオリティ、職員のクオリティです。

支出をひたすら抑えて、内部留保だけはたくさんあれば、よい経営をしているように思えるかもしれません。しかし、決してそのようなことはありません。何故なら、クオリティはお金を払って買えるものではないからです。システムを変えて、人を育てて、初めてクオリティが組織の資産となるのです。10年スパンの話です。それに気づいて、火のついた施設長・現場の皆さんと出逢い、切磋琢磨することを心より楽しみにしています。

 

介護に限らず、サービス業においては、クオリティ・マネジメントこそが事業を左右する戦略であるということの意味が、よく理解できました。本日は、まことにありがとうございました。

 

 

介護のクオリティ・マネジメントを実践する研究会。

サービスのクオリティを高めていきたい。

品質向上に取り組むことで、組織風土を改善したい。

介護・福祉の経営層、幹部層の方に最適です。

お問い合わせは「こちら」

 

 

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