職員定着のカギは「やりがい」と「帰属意識」!
職員の満足度を上げる評価・賃金、人事制度の作り方を事例を交えて考える

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業種
介護福祉施設
- 種別 レポート
このレポートを読んでいる介護・障がい者福祉施設・事業所のみなさまの中には、次のようなお悩みを抱える方も多いのではないでしょうか。
・優秀な人材に定着してほしいが、改革に踏み切れない
・人件費は増える一方なのに給与への不満が解消されない
・職員満足度を高める評価・賃金制度の作り方がわからない
労働集約型産業である介護・福祉業界では、人材が最も重要な資産です 。そのため、人手不足は経営上最も致命的なリスクとなっています 。この人手不足を解消する策として、まず「給与水準を上げること」を考えがちです 。しかし、売上に上限がある中で、賃金だけで競うには限界があります。
本レポートでは、職員の長期定着を促すためのカギとなる「評価と賃金の連動」について、具体的なデータと事例を交えて解説します。
1. 離職率の現状と賃金以外の職員定着を促進する要因
厚生労働省のデータ ※1によると、令和5年3月時点での介護関係職種の有効求人倍率は3.63倍です 。これは全職種平均の1.13倍と比較すると、非常に高い水準です 。また、令和5年度は介護保険制度が始まって以来、初めて介護職員数が減少に転じました。 ※2
この状況下では、新規採用だけでなく、すでに働いている職員の定着率をいかに高めるのかが重要です。
さらに離職理由で先述の厚生労働省のデータ ※1で最も多く挙げられたのは「職場の人間関係」でした 。次いで「法人・事業所の理念や運営のあり方」、「他に良い仕事・職場があったため」と続き、4位にようやく「収入が少なかったため」が登場します。
また、事業所側に聞いた、「早期離職防止や職員の定着促進に最も効果があった施策」として挙がったのは、「残業を少なくする、有給休暇を取りやすくする」といった働き方に関する施策でした。こちらも、賃金水準の向上は4位でした。
これらのデータは、賃金以上に定着に影響する要素があることを示しています。売上の上限が決まっている介護・福祉業界では、賃金以外の要素で他法人との差別化を図り、優秀な職員の長期定着を促す必要があります。
2. 職員定着を促進する5つの要素と人事制度への活用
職員の長期定着を実現するためには、以下の5つの要素をバランス良く組み合わせることが重要です。
- 処遇(報酬・待遇の納得感)
- 働きやすさ(職場環境・柔軟性)
- キャリア展望(将来性の見通し)
- やりがい(仕事への満足感)
- 帰属意識(組織との一体感)
このうち、人事制度と直接連動させやすい「処遇」「働きやすさ」「キャリア展望」に加え、「やりがい」と「帰属意識」も人事制度に組み込むことが可能です。
「やりがい」を醸成する仕組み
「やりがい」は、「自分はこの仕事をする意味がある」「成長や社会貢献を実感できる」と感じられる状態です。これを育むためには、以下のサイクルを繰り返すことが重要です。
- 明確な目標設定:
組織の求める役割に基づいた目標を個人に設定します - 成果と成長の実感:
目標を達成することで、職員は自身の成果と成長を実感できます - 自己効力感の醸成:
成功体験が積み重なることで、「自分はできる」という自信(自己効力感)が生まれます - 組織効力感の醸成:
個人の自己効力感が組織全体に広まると、「この組織なら困難も乗り越えられる」という「組織効力感」が育まれ、組織への愛着とモチベーションが高まります
「帰属意識」を高める仕組み
「帰属意識」は「自分はこの組織の一員だ」という一体感を持つ心理状態です。これが高いと、困難があっても組織に留まろうとする気持ちが強まり、離職リスクを抑制できます。
帰属意識を高める構成要素は、以下の4つです。
- 人間関係の良さ(心理的安全性):
安心して自由に発言できるチーム環境 - コミュニケーションの活発さ:
情報共有や相談が活発に行われる環境 - 会社の理念や信頼感:
個人の価値観と組織の価値観が一致している感覚 - 公正さと信頼感:
組織から大切にされ、尊重されているという感覚
これらの要素を人事制度に組み込むことで、職員は「組織から大切にされている」と感じ、長期定着を促すことができるのです。
3. 評価制度と賃金制度の連動事例
実際に、職員の「やりがい」と「帰属意識」を高めながら、人件費の適正化を両立させた法人の事例をご紹介します 。
【法人の課題】
- 稼働率低下と年功的な賃金体系、職員の高齢化による人件費増で赤字に転落
- 新卒採用がうまくいかず、派遣からの採用で紹介料負担が増大し、職員の離職も止められない状況
- 評価と処遇が連動しておらず、役職間での賃金逆転が発生
毎年、一定額の昇給があるため、人件費率が高まりやすい構造 - 評価制度が形骸化し、評価の質のバラつきやフィードバック不足が課題に
【改革のポイント】
この法人が直面していた課題の本質は、「育成としての評価が機能しておらず、職員のやりがいや帰属意識を育むことが難しい制度になっていた」ことでした 。そこで、評価制度の改革を本質的な課題の解決策として捉え、以下の施策を実施しました。
1.評価制度の再構築
- 評価目的の明確化:
評価の目的を「査定」ではなく「育成」と明確に設定 - 役割連動型評価の導入:
職員の階層ごとの役割や専門性、自律性/自発性を評価する仕組みを構築 - 行動評価表の作成:
役割を果たすために必要な行動を具体的に定義した行動評価表を作成し、評価のバラつきを抑える - 面談制度の運用強化:
目標達成シートを活用し、期初に目標を設定し、期中に進捗を確認、期末に達成度を測るという面談の仕組みを導入。これにより、職員は自身の現状と目標とのギャップを明確に認識し、納得感のある評価と一貫性のあるフィードバックが可能に
2.賃金制度の見直し
- 賃金ポリシーの明確化:
「何を評価して賃金を決めるのか」という方針を明確化 - 成果・役割重視の賃金決定:
年功序列ではなく、個人の「成果や評価」、「担う役割」を重視する方針を採用 - 昇給制度の変更:
毎年の業績に応じて昇給単価を変動させる「ポイント制昇給表」を導入し、高騰し続ける人件費を抑えながら、評価結果を昇給に反映可能に - 業績連動型賞与の導入:
法人の業績に応じて賞与額を変動させる仕組みを導入し、経営状態が悪くても賞与の支給が原資を上回ることを防ぎ、人件費をコントロール
これらの制度を連携させることで、職員は「頑張りが正当に評価され、それが昇給や賞与額の増加に結びつく」という仕組みを構築しました。頑張りが正当に評価されることは職員の成功体験となり、「自己効力感」を獲得した職員は業務やチャレンジに一層前向きに取り組むことができるようになる仕組みであるともいえます。同時に、法人は人件費を適正に配分し、無駄な支出を抑えることに成功しています。
4.まとめ 今こそ、改革に向けて一歩踏み出す時!
「わかっているけど、忙しくて…」、「いざ改善しようとすると反発が…」組織や制度の改革には大きなストレスが生じます。しかし、業績にまだ余裕があるうちに、選択肢が多い段階で早めに取り組むことが最も望ましいと考えます。
私たちは、人事制度の構築・見直し、人事評価のクラウドサービス、人材採用支援など、組織・人事に関する幅広いサービスを提供しています。「コスト削減について相談したい」 、「人材定着の課題について、自分の施設に当てはめて詳しく知りたい」 、「人事制度を改革したい、しかし何から手をつけていいかわからない」、どんな些細なことでも構いません。まずは、あなたの施設・事業所の課題をお聞かせください。
参考資料:
※1 厚生労働省「介護人材の処遇改善等(介護人材の確保と介護現場の生産性の向上)」
※2 厚生労働省「別紙 介護職員数の推移」
ぜひ一度、お気軽にご連絡ください!
本稿の監修者

油谷 光喜(あぶらたに こうき)
株式会社日本経営
介護福祉コンサルティング部
医療機関や介護・障害事業所のコンサルティングを専門とし『「誰もがその人らしく暮らすことを 選択できる」社会の実現に貢献する』ことを目指している。
特に介護・障害事業所向けの支援を得意とし、キャリアパス構築、賃金制度構築、人事考課制度の構築や、外国人材の導入に関するコンサルティングを得意としている。
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