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インドネシア海外人材現地視察レポート:共に成長していける「共創の場」をデザインする

  • 業種 介護福祉施設
  • 種別 レポート

介護専門学校の閉校が続く日本、出生数6倍の国で見つけた「教育手法」。言語・宗教・家族・キャリア観——異文化理解を「人材確保戦略」に活かし、次の10年をデザインする。

イントロ:日本の介護教育の限界と、海の向こうの圧倒的活気

日本の出生数は、2024年の統計開始以来初めて70万人を下回りました。生産年齢人口が減少し、高齢化に歯止めがかからない中、国内の労働市場はますます厳しさを増しています。国内の介護専門学校が相次いで閉校を余儀なくされ、新卒採用はおろか、キャリア採用においても紹介会社頼みの状況です。高い採用コストをかけて内定を出しても、入職前に離脱されてしまう……。

そんな「人材確保の限界」を感じる国内情勢の中、私は2025年7月と2026年1月、インドネシアのジャカルタへと向かいました。インドネシアは、日本の約6.5倍、年間約450万人が生まれる圧倒的な「出生数」の勢いがあります。それだけではなく、そこには日本が忘れかけている「人を育てる本質」と、それに基づく強固な人材確保の仕組みがありました。

今回の視察は、単なる送り出し機関の選定や面接の場に留まらない、特別な学びの機会となりました。その知見を現地の様子とともに皆様にお届けいたします。

選考脱落率80%、なぜ彼らはそこまで「本気」になれるのか

送り出し機関の一つ「JOYCARE」では、面接にたどり着く前のオンライン学習段階で、志望者の約8割が脱落します。残った2割は、厳しい自律学習をやり抜いた、極めて就業意欲の高い精鋭たちです。

また、「LPK Gunamandiri」では、独自の心理評価システムや適性検査を用いて、うつや学習障害の傾向を事前に除外する厳格なスクリーニングを行っていました。

「来てくれるだけでありがたい」と妥協する採用ではなく、教育と選抜によって「質の高い人材だけが残る」仕組みが、現地にはすでに確立されています。

「死」を学び、「家族」を守る。人格形成の根底にあるもの

私立の一貫校「Darussalam」で出会った子供たちの目は、驚くほど生き生きとしていました。驚くべきことに、彼らは小学校から「死」についての教育を受け、土葬の儀式を学びます。

  • 死を日常として学ぶ:死を恐怖と捉えがちな日本とは対照的に、生と死を日常の延長線上で学びます。
  • 親への感謝:「親が亡くなったら、自分が主体となって葬儀を出す」という教えは、親への深い感謝と、高齢者を敬う心を醸成しています。
  • キャリアとしての介護:彼らにとって介護は単なる作業ではなく、家族を守り、善行を積むための尊い「キャリア」なのです。

異文化理解を「リスク」から「最強の投資」へ

「断食(ラマダン)中に体調を崩されたら困る」「礼拝の時間に仕事が止まる」こうした日本側の懸念は、視察を通じて大きな「誤解」であったと痛感しました。

断食の本質は、単なる空腹の我慢ではありません。アラーの使命を果たすべく「自らの欲を制する」精神鍛錬です。

言語、宗教、家族、キャリア観。これらを「制約」ではなく、彼らの「軸」として正しく理解し、リスペクトすること。それこそが、現場のコミュニケーションエラーを根絶し、早期離職をゼロに近づける「最も効率的な人材確保戦略」となります。

視察から得た考察

1.イスラム教育と人格形成

  • 学びへの姿勢:私立一貫校の子供たちは、学習環境への純粋な感謝と喜びが全身から溢れていました。
  • 多言語教育の浸透:幼少期からインドネシア語、アラビア語、英語の3カ国語に触れています。この「耳で聞き、目で学び、意味を知る」習慣化が、日本での高い言語習得能力に繋がっています。
  • キャリア観:彼らにとっての仕事とは「家族を守り、大事にする」ための手段であり、それが自身のキャリア形成と強く結びついています。

2.「死生観」がもたらす介護への親和性

  • 死の教育:小学校から「死」を学ぶ機会があり、土葬の儀式(葬儀の準備等)についても教育を受けています。遺体の扱いに備え、親を亡くした際には子供が主体で葬式を出すという教えは、親への感謝を醸成し、高齢者のお世話をすることへの抵抗感を無くしています。
  • 日本との差異:死を恐怖と捉えがちな日本とは対照的に、生と死を日常として学ぶ姿勢は、日本の介護現場において非常に貴重な素養となります。

3.異文化理解の本質:精神性へのリスペクト

  • 断食(ラマダン)の真意:断食は単なる空腹の我慢ではなく、「欲を制する」というアラーの神から与えられた強い使命です。日本側は「入浴介助中の体調不良」といった自社の都合を優先しがちですが、彼らがどこにいても自分を律してやるべきことを全うするという、この「軸のある生き方」そのものを理解し、尊重することが、定着率向上の鍵となります。
  • しなやかな強さと自律性:「人間はすべてアラーの作り物同士」という教えが、穏やかな人間関係と高い協調性の根源となっています。互いに悪いことはせず、自分は自分のすべきことをするという自律的な考えが根底にあります。

エピローグ:視察を終えて、いま思うこと

私はこれまで、看護師としての臨床経験、海外人材事業の立ち上げを通じ、数多くの送り出し機関や教育現場を視察し、日本経営に入社してからは受け入れ先のコンサルティングに携わってまいりました。いかに将来の危機に正しく備え、精度の高い計画づくり、質の高い教育を行い、定着支援や本人の望みをキャッチするかという受け入れ側のご支援に熱を燃やしてまいりました。

しかし今回の視察は、私にとって大きな転換点となりました。

これまでは送り出し機関という「点」の視察が中心でしたが、今回初めて、彼らの誕生から死、家族のあり方、そして「ルーツ(根源)」である宗教教育に深く触れる機会を得ました。

「なぜ、あれほどまでに質の高い介護を提供できるのか」。その答えは数ヶ月の研修ではなく、彼らが歩んできたバックグラウンドの中にありました。このルーツに触れたことで、私の知見は「点と点」が繋がり、一つの大きな確信へと変わりました。

次の10年、人材獲得競争を勝ち抜くのは、最新システムを導入した法人ではなく、彼らの「志」の源泉であるルーツに敬意を払い、共に歩む覚悟を決めた法人です。

私たちがデザインすべきは、単なる採用計画ではありません。海を越えてやってくる彼らが誇りを持って働ける環境・成しえたい仕事をつくり、私たち日本側も彼らの純粋な想いに刺激を受け、共に成長していける「共創の場」そのものです。

ジャカルタで出会ったあのキラキラした瞳が、日本の介護現場でも輝き続け、それを見た私たちもまた、自分たちの仕事の尊さを再発見する。そんな、お互いが高め合い、共に成長し続けられる新しい時代を、皆様と共にデザインしていきたいと強く願っています。

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本レポートの執筆者

郷 美由季(ごう みゆき)
株式会社日本経営 介護福祉コンサルティング部

看護師として医療・介護現場や講師を経験。その後、事業会社にて介護職向け教育商材の教務企画や、海外人材事業の立ち上げを担い、日本経営に入社。医療・介護業界における人材の採用・育成・定着の促進や、海外人材の導入支援を専門とする。

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本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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