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権限委譲 /日本経営のケイエイ

  • 業種 企業経営
  • 種別 レポート

(株)日本経営での取り組みや私が考えていることなどを発信しています。
皆様の経営のヒントや新たなアイデアなどにつながれば幸いです。

権限委譲

株式会社 日本経営 / 代表取締役社長 橋本竜也

1. 権限委譲は永遠のテーマ

組織運営において、権限委譲の重要性と難しさはよく話題となるテーマの一つです。経営層からは、どこまで任せてよいのかというご相談をいただくことが多く、従業員からは権限の範囲が狭いとか、権限がないといった声がよく聞かれます。
権限委譲の重要性は誰もが認識しているということではありますが、そもそもどうして権限委譲が必要なのでしょうか。その理由としてよく挙がるのは次のようなことです。

  • 意思決定や行動のスピードを上げるため。
  • 従業員のやりがいを高めるため。
  • 従業員の成長を促すため。

いずれも大事なことですが、上記のようなことを目的とすると、「誰に」「どれくらい」権限を付与するかといった、基準を作ることの困難さに気づくのではないでしょうか。実は上記に挙げたことは目的ではなく、権限委譲を進めることによって得られる“効果”です。ですから、上記のような事項を目的とした場合、基準が設定できないのです。このワナにはまってしまうと、権限委譲はなかなか進まないテーマになってしまいます。

2. 権限設定の基準はシンプル

しかし、権限設定は、いたってシンプルな考え方で導き出すことができます。例えば、営業クロージングの責任者であれば一定の値引きを決められる権限が必要かもしれませんし、人材を育成する責任があるなら研修費を決済する権限が必要かもしれません。役割を果たすためには、権限が必要です。つまり、権限設定の基準は、果たすべき役割に基づいて設定するべきなのです。

このような考え方に基づくと、誰に、どのような権限を付与するのかを考える前に、誰に、どのような役割を果たしてもらうのかを明確にする必要があるということになります。一般的にこの役割は、役職階層別に定める、部門ごとに定める、ということになるでしょう。

経営陣は各部門、各役職が果たすべき役割を明確にして、それを実現するために必要な権限を考えていく。従業員側にしても自分の役割を果たすために必要な権限を求めていく。これらをすり合わせて必要な権限を設定していくことが理想的です。

3. (株)日本経営の権限設定

当社の管理職は、同規模の他社と比較すると割と大きな権限が付与されているほうだと思います。1回あたりの決裁金額、従業員採用、物品選定、交際費などについて、当社の管理職はかなりの権限を持っており、部門や部署の通常の運営において社長や役員の決裁や判断を仰がなければならないということはほとんどありません。

当社の基本的な考え方は、「役割を果たすことを会社が求める以上、その実現に必要な権限は付与する」ということです。逆に、何か会社や上司から新たな役割を求められたら、それを実現するために必要な条件(権限や予算など)を主張するようにと促しています。「新たな権限や予算が必要なチャレンジ」をしてほしい し、その要求がなく安易に「引き受けます」と承諾するようでは、場合によっては無責任だとも伝えています。とにかく、役割と権限はセットだということです。

では、決裁権の範囲はどのように設定すればよいのでしょうか。これも既述の通りですので、あいまいに思われるかもしれませんが、それは担っている役割によるということになりますし、会社の考えにもよるということになります。

例えば、当社ではジョブ型で部門別採用をしていますが、新卒・第二新卒の採用権限を事業部長に設定しています。社長も役員も関わりません。事業部長は事業部の目標達成責任がありますが、コンサルの場合は業績に与える人的要因のウエイトが非常に大きいため、事業部長が責任を果たすためには採用権限が必要だと考えているからです。事業部長に採用権があることで権限が大きいとか、小さいということではなく、会社の事業内容や規模、状況によるのです。一つの考え方の例としてみていただければと思います。

4. 戦略的包括権限

日々の業務においては、上記を踏まえた権限設定で支障なく会社は動いていくわけですが、例えば、新たな営業施策の推進、多額の費用が必要な新規開発、業務改善の推進、そのほかのプロジェクトの新設などにより、通常とは別の予算や権限が必要になることがあります。
当社では上記のような施策を新年度の事業計画作成時に洗い出し、その施策が承認されたら、その施策自体の推進権限を付与するという仕組みにしており、それを戦略的包括権限制度と呼んでいます。

例えば、部長の1回あたりの決裁権限が50万円だとします。営業部門で大きな受注目標を達成するために、新たな営業施策としてビジネス商談会に年6回参加するという企画を立てたとします。1回あたりの参加費が100万円だとすると、通常の権限の範囲であれば、毎回上長の承認や稟議作成が必要になりますが、それでは時間がかかり、タイムリーな出展ができなくなります。また、判断する上長にしても、戦略全体を踏まえた判断よりも、1回ごとの出展についての可否の判断に偏ってしまい、適切な判断ができない恐れもあります。

そこで、まずは営業施策自体の戦略的妥当性、合理性を十分に検討し、その施策が承認されたら、6回分の600万円を決裁権として責任者に付与するというのが包括権限制度です。基本の権限だと毎回50万円を超えるので個別稟議が必要ですが、包括権限が付与されているので、1回100万円でも上長承認は不要です。支払い根拠を残すために稟議申請は求めますが、「包括予算承認済み」と記載されていれば上長承認がなくても進めることができます。

当社では戦略的包括権限制度を設定してから、戦略的ストーリー自体と戦略的ストーリーに基づいた費用支出の妥当性をより深く検討できるようになりました。単発的な支出判断で木を見て森を見ずといったことが常態化していたことに気づくことができました。 そして、事業推進のスピードも大幅に向上しました。

権限付与について皆様の会社でも参考にしていただければ幸いです。権限設定は常に見直し続ける必要があると思います。当社でも常に見直しを図りながら、力強く事業推進していくとともに、従業員がやりがいを高めてもらえるようにしたいと思っています。

※これまでの記事は、こちらからご確認いただけます

このレポートの執筆者

橋本竜也
株式会社 日本経営 代表取締役社長
組織人事コンサルタント

1999年入社以来、人事コンサルティング部門にて、クライアントの人事制度改革に携わるほか、不採算企業の経営再建にも従事。コンサルティング実績は上場企業から中堅・中小企業まで150社を超える。「良い経営は人を幸せにする、悪い経営は人を不幸にする」を基本スタンスに、人事コンサルティングや経営顧問を行っている。
<著書>
「チームパフォーマンスの科学」幻冬舎2021年12月
「中小企業の未来戦略を具現化する!組織マネジメント実践論」プレジデント社2022年10月

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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