管理職立候補制度/日本経営のケイエイ
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業種
企業経営
- 種別 レポート

「株式会社 日本経営」での取り組みや私が考えていることなどを発信しています。
皆様の経営のヒントや新たなアイデアなどにつながれば幸いです。
管理職立候補制度
株式会社 日本経営 / 代表取締役社長 橋本竜也
主体性を発揮できる組織を目指して
私は組織で働くことの価値の一つは、多くのチャンスに恵まれることだと考えています。それらには、ビジネスチャンス、ジョブチェンジのチャンス、成長のチャンス、学習のチャンスなど様々なものがあり、そうしたチャンスが多様であることは、その組織にとって魅力になると考えています。
おかげさまで当社もそれなりの規模に成長し、今では色々な機会を従業員に提供できるようになってきました。例えば、大学院・ビジネススクールの留学制度、海外視察、外部研修受講、他社への出向、新規プロジェクト、新規事業などです。
こうした機会を提供できるようになってきた一方、その機会を誰に与えるのかが次のポイントとなります。以前までは、会社が選出していました。しかし、それでは受け身的ですし、不公平を感じる人も出てきかねません。そこで、数年前から先述のようなあらゆる機会を、原則として公募制にしました。
例えば、大学院に行きたいという人は会社に申請を出し、認められれば学費は会社が負担しています。出向の案件があれば、出向者に求められる要件を整理したうえで公募をかけています。チャレンジングな新規プロジェクトを立ち上げる際も、出向と同様に要件を定めて公募しています。もちろん、手を挙げれば全員認められるということではなく、要件を踏まえて役員会で審査して採否を決定していますが、大学院や社外研修など、定員を設けていないものについては、要件をクリアしていれば基本的に誰でも認められます。
もちろん、案件や内容によっては会社から対象者に打診・指示することはありますし、部下のキャリアを考えてビジネススクールや社外研修に行くように上司が促したり、動機づけたりすることもありますが、できる限り公募や立候補制にしています。責任者は会社が指名して、メンバーは公募というケースもあります。
自分のキャリアは自分で作る、チャンスは自らつかみ取るということを重視し、会社としてはそうした機会をできる限り多く作り、主体性を発揮できる環境を作りたいと考えてきました。ありがたいことに多くの従業員があらゆる場面で手を挙げてくれており、多くの従業員がビジネススクールや社外研修に通ってくれたり、自ら新規プロジェクトにチャレンジしたりしてくれています。
管理職も立候補制に
こうした取り組みを通じて、当社では主体性が尊重されるという風土が根付いてきたと感じられるようになってきたので、2025年から管理職の昇格を立候補制にすることにしました。
当社の役職は主任→チームリーダー→課長代理→課長→次長→副部長→部長となっていますが、マネジメント職については課長代理以上を管理職としています。つまり、課長代理以上への昇格を立候補制にしました。主任とチームリーダーは、本人の習熟度合いを評価して会社が任命します。
以前までは昇格要件をクリアしている従業員の中から、部長が昇格者を推薦し、役員会で審査して決定するというプロセスでした。割と一般的な仕組みだと思います。
立候補制では、上司推薦は不要としました。部長に推薦されなければ昇格できないとなると、部長と部下の関係性が健全ではなくなる恐れもありますし、相性が合わないというケースもあり得ます。また、部下が「推薦されなかった」という不満を持つケースもあり得ます。そのため、立候補制では、上司推薦をなくし、本人が直接人事部に申請するという形にしました。
具体的な手続きをご紹介します。前提として、各役職に求められる役割と昇格要件は明確にし、全従業員に公開しています。それを踏まえて、次の通り進めます。
① 本人が申請書を人事部に提出する。
(申請書には、昇格基準ごとの達成状況、昇格して実現したいこと・取り組みたいことを記載)
② 人事部から通知し、昇格申請者の部長が対象者に対する考えを提出。
③ 本人の申請書と部長のコメントを踏まえて、役員会にて昇格の採否を審査。
この進め方が完璧だということではなく、今後も改善していくことが必要ですが、初年度は約20名が昇格してくれました。チームリーダーから課長代理への昇格だけでなく、例えば課長から次長への昇格など、管理職内での昇格も含めてです。
手を挙げる人がいなかったら・・・という不安
主体性が大事だ、自らキャリアを切り開こう、と言って管理職立候補制を導入したものの、立候補期間が近づくにつれて、私は内心、心配で仕方がありませんでした。管理職になりたくない従業員が圧倒的に多いという調査をよく目にする昨今、誰も手を挙げないということもあり得るわけです。正直なところ、一気に進めすぎたかなと多少の後悔もしました。そのため、立候補をじっと待つのではなく、実際のところはそれなりの動機づけもしました。
まず、毎週全従業員に配信している動画メッセージで、管理職になる魅力、意義を複数回伝えました。また、昇格時期に来ている従業員にはその上長や担当役員からぜひ手を挙げてほしいという動機づけをしたケースもあります。私から話をしたケースもあります。「もちろん手を挙げますよ」という人もいれば、最後まで悩んで手を挙げたという人もいたようです。中には部下から「〇〇さん、ぜひ昇格してください!」と背中を押された人もいたようです。
このように立候補制と言いながら、かなり動機づけをした部分もありますが、最終的には本人が決めたことです。私はそれが素晴らしいことだと思っています。
ただ、結果的に今年は多くの人が手を挙げてくれましたが、だからといって来年もそうなるとは限りません。手を挙げる人がいなかったらという不安は毎年続くのかなと思っています。
管理職の魅力を高めるために
管理職に立候補してもらうためには、やはり魅力がなければならないでしょう。「責任だけ持たされて・・・」といったメリットのなさ、「管理職はつらそう」といったイメージなどを減らしていかなければなりません。立候補制の導入は、管理職の魅力を高めるという会社側の決意でもあります。
管理職の仕事面での魅力は裁量権でしょう。当社では管理職の裁量権・決裁権を拡充してきました。日々の業務や部門・チームの運営においては、ほとんどのことが自分の裁量で進められます。これはさらに拡充していきたいと考えています。
管理職の待遇面での魅力は、やはり年収です。当社では昇格時に大きく年収が増える仕組みにしています。ただ、年収水準もまだまだ引き上げていく必要があります。年収水準を高めるためには、もちろん管理職の力を発揮してもらい更なる顧客貢献、業績向上に取り組んでいかなければなりません。
もう一点、管理職はとても忙しいという課題があります。当社においても、それは同様です。そこで、管理職業務の軽減を経営方針の一つに入れました。DXも進んでいるので、勤怠管理、資料チェックなどの負担を大きく削減することにチャレンジしていきます。
管理職がイキイキと仕事をしていて、待遇も十分であることが理想です。なかなか簡単ではありませんが、引き続き努力していきたいと考えています。
管理職立候補制に込めた想い
当社はオーナー企業ではありません。私も言うなればサラリーマン社長です。このような体制なので、私より良い状態で次の経営陣にバトンをつなぐためにはどうすればよいかを考え続けています。
ガバナンスの健全性を保ちながら組織の活性度を高めていくための方法の一つとして、管理職立候補制を導入しました。私をはじめ、これまでの役員、管理職はすべて会社から任命を受けてその役に就いています。今年度の昇格者は「会社に昇格させてもらった」のではなく、「自分で昇格した」という人たちです。この「自分で昇格した」という意識が重要だと考えています。これから5年もすれば、管理職の多くは自分で昇格した人たちが大半を占めるようになり、10年後にはほぼ全員がそうなっていると思います。その時には当社はより強力な組織になっていると思います。
立候補者の申請書には、誰もが顧客や会社への貢献、昇格後の抱負を書いてくれていました。一人ひとりの想いに胸が熱くなり、私は涙目になりました。残念ながら、立候補してくれたにもかかわらず、承認しなかった人もいます。そうした人たちには、非承認の理由、昇格するための課題、そして今後への期待を伝えていますが、とても心苦しいものでもありました。立候補制にしなければそんな思いをお互いにしなくても良かったかもしれませんが、こうした話を具体的にできるのも立候補制にしたメリットだとも考えています。まだ始めたばかりで課題もあるので、改善しながらより良い制度にしていきたいと考えています。
最後になりますが、私は必ずしも早い昇格だけが素晴らしいとは考えていません。各自のタイミングというものもあります。例えば、育児や勉強に時間を割きたいといったプライベートとの両立や、もう少し自信をつけてからにしたい、今の仕事にまだ専念したいといった理由で、昇格時期に達していて要件も満たしていたとしても立候補しないということもあり得ます。これもまさに「自分で決めたこと」になります。今までは、会社からの任命によってそのタイミングで昇格していましたが、昇格の時期を自分で選択できるということも立候補制の特徴です。キャリアは自ら切り開くと書きましたが、それは早い昇格のことを指しているのではなく、本人が前向きに選択できる環境を作りたいということです。
管理職立候補制という言葉だけを見ると、かなりセンセーショナルで、賛否も様々あると思いますが、今回は当社の制度の内容と背景をご紹介しました。管理職立候補制を導入することをお勧めしているのではなく、組織づくりを考える際の一つの事例として参考にしていただけたら幸いです。
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このレポートの執筆者

橋本竜也
株式会社 日本経営 代表取締役社長
組織人事コンサルタント
1999年入社以来、人事コンサルティング部門にて、クライアントの人事制度改革に携わるほか、不採算企業の経営再建にも従事。コンサルティング実績は上場企業から中堅・中小企業まで150社を超える。「良い経営は人を幸せにする、悪い経営は人を不幸にする」を基本スタンスに、人事コンサルティングや経営顧問を行っている。
<著書>
「チームパフォーマンスの科学」幻冬舎2021年12月
「中小企業の未来戦略を具現化する!組織マネジメント実践論」プレジデント社2022年10月
本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。
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