お役立ち情報

医療関連企業向け|統計からみる市場動向 ~医師の働き方改革と救急医療の動向~

  • 業種 企業経営
  • 種別 レポート

本記事は、医療業界への新規参入企業向 ・医療関連企業向けにお役立ち情報を配信しています。

1. 医師の働き方改革とは

「働き方改革」は、働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指した取り組みです。

具体的な取組は、「働き方改革実行計画」(平成29年3月28日働き方改革実現会議決定)にまとめられています。「賃金引上げと労働生産性向上」「長時間労働の是正」「柔軟な働き方がしやすい環境整備」「女性・若者の人材育成など活躍しやすい環境整備」「病気の治療と仕事の両立」「子育て・介護等と仕事の両立、障害者の就労」「高齢者の就業促進」など様々な内容を含んでいます。

このうち、「長時間労働の是正」には、残業時間に上限を設ける制度(時間外労働の上限規制)が盛り込まれました。この上限規制は、2019年4月から一般労働者に適用がスタートされ、医師を含めた一部の職種・業種については、2024年4月からスタートしました。

2. 医師の働き方改革の施行による救急医療への影響

日本医師会の「医師の働き方改革と地域医療への影響に関する日本医師会調査結果」によると、救急搬送の受け入れ困難(断り)事例が増加したと回答した割合が15.6%もあり、地域の医療提供体制に大きな影響が生じていることが分かりました。

また、救急医療体制の縮小・撤退を検討していると回答した病院の割合が29.8%でした。今後、救急医療体制を縮小・撤退する病院が増加することが予想され、地域としてどのように救急医療体制を存続するのか検討が必要です。

次ページ以降では、統計データをもとに救急医療の実態について見ていきます。

【図1】地域の医療提供体制で実際に生じていると考えている問題点について

【図2】地域の医療提供体制で懸念される問題について

出所:公益社団法人 日本医師会 令和6年10月23日 医師の働き方改革と地域医療への影響に関する日本医師会調査結果

3. 救急出動件数と搬送人員数の推移

令和5年中の救急自動車による救急出動件数は763万7,967件(対前年比5.6%増)、搬送人員は663万9,959人(対前年比6.8%増)で救急出動件数、搬送人員ともに対前年比で増加し、最多となりました。新型コロナウイルス感染症の影響もあり、令和2年度に救急出動件数および搬送件数ともに減少しましたが、平成15年から年々増加傾向にあり、今後も日本社会の高齢化に伴い、救急需要は増加することが予想されます。

【図3】救急自動車による救急出動件数及び搬送人員の推移

出所:総務省 令和6年3月29日「令和5年中の救急出動件数等(速報値)」の公表

4. 統計からみる病院における救急医療の実態

病床機能報告の報告結果から、病院における救急車の受入状況の傾向を比較しました。(※二次救急医療機関および三次救急医療機関でありかつ、一般病床を有する病院群を対象としています。)
出所:病床機能報告(2018~2023年度)より作成(図4~8)

(1)病床規模別救急車の受入件数

全体の傾向として、2021年度(2020年度実績)は、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、救急車の受入件数は減少していますが、2022年度(2021年度実績)から救急車の受入件数は増加傾向にあることが確認できます。

病床規模別に比較した場合、2023年度における前年との増減率は、99床以下の病院群では2.2%減、100~199床の病院群では11.1%増、200~399床の病院群では11.9%増、400床以上の病院群では14.9%増と99床以下の病院群を除き、救急車の受入件数が増加していることが確認できます。

【図4】病床規模別救急車の受入件数

(2)病床規模別1病院あたり救急車の受入件数

1病院あたりで比較した場合、2023年度は1,671件と直近6カ年の中で最も件数が多いことが確認できます。99床以下の病院群では295件(前年対比1.1%増)、100~199床の病院群では746件(前年対比10.3%増)、200~399床の病院群では2,318件(前年対比8.6%増)、400床以上の病院群では4,992件(前年対比13.1%増)となっています。

前年との増減率を比較すると、400床以上の病院群は救急車の受入件数の増加幅が大きく、現場の負担が増加していると推察されます。

【図5】病床規模別1病院あたり救急車の受入件数

(3)病床規模別常勤医師1人あたり救急車の受入件数

常勤医師1人あたりで比較した場合、2023年度は35.2件と2019年度に次いで2番目に件数が多いことが確認できます。99床以下の病院群では54.3件(前年対比2.2%減)、100~199床の病院群では54.8件(前年対比10.1%増)、200~399床の病院群では49.5件(前年対比10.0%増)、400床以上の病院群では25.6件(前年対比11.1%増)となっています。

前年との増減率を比較すると、99床以下の病院群を除き、常勤医師1人あたりの救急車の受入件数は増加していることから、医師の負担が増加していると推察されます。

【図6】病床規模別常勤医師1人あたり救急車の受入件数

(4)都道府県別1病院あたり救急車の受入件数

各都道府県においても全体の傾向と同様に新型コロナウイルス感染症の影響もあり、救急車の受入件数は減少していますが、2022年度から救急車の受入件数は増加傾向にあることが確認できます。
2023年度において、1病院あたり救急車の受入件数が多い都道府県は、沖縄県・愛知県・三重県・東京都・神奈川県の順で1病院あたりの負担が増加していることが予想されます。

人口動態や救急医療を担っている病院数の差などの影響もあり、1病院あたりの救急車の受入件数は沖縄県が最大で3,130件、佐賀県が最小で719件と大きな差が生じており、救急医療においては地域格差が生じていることが伺えます。

【図7】都道府県別1病院あたり救急車の受入件数

(5)都道府県別常勤医師1人あたり救急車の受入件数

2023年度において、常勤医師1人あたり救急車の受入件数が多い都道府県は、三重県・埼玉県・群馬県・千葉県・山口県の順で医師1人あたりの負担が増加していることが予想されます。
地域別の傾向として、埼玉県・群馬県・千葉県・神奈川県などの関東地方は、常勤医師1人あたり救急車の受入件数が多く、当該地域は人口10万人あたりの医師数が少ないエリアであることから、医師の偏在による影響が大きいと予想されます。

【図8】都道府県別常勤医師1人あたり救急車の受入件数

5. まとめ

日本社会の高齢化に伴い、救急出動件数と搬送人員数は増加傾向にあり、今後も救急需要は増加することが予想されます。その中で、生産性年齢人口は減少し、それに伴い医療従事者数も減少することから、救急医療における医療従事者への負担は今後も高まっていくことが予想されます。

上記のとおり、病床機能報告の報告結果から、病院における救急車の受入状況の傾向を比較しましたが、1病院あたり救急車の受入件数・常勤医師1人あたり救急車の受入件数は増加しており、すでに医療従事者の負担が高まっていることが予想されます。

今後、需要量は高まる一方、供給量は限られている状況下で、救急医療体制を維持するためには、地域全体および個別医療機関の視点で取り組みが必要となります。地域全体の視点では、地域に所在する医療機関がそれぞれ役割分担を行うなど、機能分化と連携が重要と考えられます。個別医療機関の視点では、救急の効率化や負担軽減に関するDX化が重要と考えられます。

弊社ではこれまで累計で1,600件を超える病院の経営支援を行ってまいりました。その知見やネットワークを活用し、病院・診療所・介護施設を支える医療関連企業のご支援や新規に参入する企業の支援を行っています。弊社のメイン事業は病院経営コンサルティングであることから、あくまでも病院・介護施設などの立場に立ち、ヘルスケア業界で“真に役立つテクノロジー・サービス”に限ってご支援しています。

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https://medical-marketing.nkgr.co.jp/

本稿の執筆者

村越 大河(むらこし たいが)/株式会社日本経営 戦略コンサルティング部

株式会社日本経営

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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