医療関連企業向け|医療政策トピックス(2025年5月・6月)~公定価格の引き上げ!ヘルスケア領域で骨太方針2025が示す方針は?~

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業種
企業経営
- 種別 レポート
本記事では、医療業界への新規参入企業向け ・医療関連企業向けに、直近の政策動向に関する情報を配信しています。
1. 公定価格の引き上げ
令和7年6月13日に『経済財政運営と改革の基本方針2025 ~「今日より明日はよくなる」と実感できる社会へ~』(骨太方針2025)が経済財政諮問会議での答申を経て、閣議決定されました。
● 経済財政運営と改革の基本方針2025(骨太方針2025)
骨太方針2025においては、物価や賃金の上昇に伴い医療機関の経営が悪化していることを受けて、医療・介護・保育・福祉などでの公定価格の引き上げを明記しました。医療機関の経営状況については過去の記事でも取り上げましたが、コロナ以降に病院の経営環境は著しく悪化しており、2024年度以降に経営状況がさらに悪化することが予想されていました。実際に人件費や物価の高騰は、2024年度の報酬改定では補えておらず、日本病院会など8団体が年内に財政出動を求める「国民に適切な病院医療を安定的に提供するための提言2025」を厚生労働省に提出するなど、医療提供体制の維持に向けた対応を訴えています。
2025年度末にかけて議論が本格化していく中、次期診療報酬改定にどの程度反映されるかは、今後の医療機関の経営安定化や新たな投資の判断に大きな影響を及ぼすと考えられ、引き続きその動向が注目されます。
(参考)公定価格の引き上げ
とりわけ社会保障関係費については、医療・介護等の現場の厳しい現状や税収等を含めた財政の状況を踏まえ、これまでの改革を通じた保険料負担の抑制努力も継続しつつ、2025年春季労使交渉における力強い賃上げの実現や昨今の物価上昇による影響等について、経営の安定や現場で働く幅広い職種の方々の賃上げに確実につながるよう、的確な対応を行う。具体的には、高齢化による増加分に相当する伸びにこうした経済・物価動向等を踏まえた対応に相当する増加分を加算する。
出所:骨太方針2025より抜粋 P38
(参考)過去掲載記事:第2回 病院を取り巻く経営環境(2024年7月1日)
国民に適切な病院医療を安定的に提供するための提言2025
2. 骨太方針2025(ヘルスケア分野)の概要
下表は、骨太方針2025のうち、ヘルスケア分野に関する取り組み方針を抜粋したものです。医療機関や介護施設にとっては、公定価格の引き上げによる経営安定化や賃上げが期待される一方で、持続可能な社会保障制度のための改革が求められており、給付と負担の見直しや、病床削減、医療DXを通じた効率化など2025年度末にかけて検討が行われ、実現可能なものについては、2026年度からの実行が予定されています。
骨太方針2025(ヘルスケア分野に関する取り組み)
区分 | 取り組み方針 | |
公定価格 | ・医療・介護・保育・福祉等の公定価格の引き上げ (経済・物価動向等を踏まえた対応に相当する増加分を加算) | |
医療・介護DX | ・2025年12月の経過措置期間後にマイナ保険証を基本とする仕組みに円滑に移行 ・全国医療情報プラットフォームを構築し、電子カルテ情報共有サービスの普及や電子処方箋の利用拡大、PHR情報の利活用 ・標準型電子カルテの本格運用の具体的な内容の提示(2025年度中)、支援策の検討、普及の促進 ・介護情報基盤の整備、診療報酬改定DX、薬局の有する情報の標準化とDXの促進 ・AI創薬、AIホスピタルの実用化を支援 ・クラウド技術を活用した病院の情報システムの開発・導入に向けた検討 (標準仕様の策定、インセンティブ措置の在り方を含める) ・医薬品や検査の標準コードの在り方の検討を踏まえたマスタの一元管理、予防接種事務のデジタル化、ワクチン副反応疑いの電子報告、予防接種データベースの整備 ・医療・介護の公的データベースの仮名化情報等の利活用を可能とするためのシステム整備 ・社会保険診療報酬支払基金の改組や公費負担医療制度等のオンライン資格確認の円滑な実施 ・医療安全の向上に向けた医療機関のサイバーセキュリティ対策 ・医薬品・医療機器等の物流DXの推進に資する製品データベースの構築 ・必要に応じて医療DX工程表の見直しの検討 | |
賃上げ | ・医療・介護・保育・福祉等の現場で働く幅広い職種の賃上げ - 2024年度診療報酬改定による処遇改善・経営状況等の実態を把握・検証し、2025年末までに結論が得られるよう検討 - 介護・障害福祉分野の職員の他職種と遜色のない処遇改善や業務負担軽減等の実現、これまでの処遇改善等の実態を把握・検証し、2025年末までに結論が得られるよう検討 ・事業者の経営形態やサービス内容に応じた効果的な対応の検討 | |
国民負担の軽減 (現役世代の保険料負担を含む) | ・OTC類似薬の保険給付の在り方の見直し ・地域フォーミュラリの全国展開 ・新たな地域医療構想に向けた病床削減 ・医療DXを通じた効率的で質の高い医療の実現 ・現役世代に負担が偏りがちな構造の見直しによる応能負担の徹底 ・がんを含む生活習慣病の重症化予防とデータヘルスの推進などの改革 ・上記について2025年末までの予算編成過程で十分な検討を行い、早期に実現が可能なものは2026年度から実行 | |
生産性向上・省力化 | ・医療・介護DXやICT、介護テクノロジー、ロボット・デジタルの実装 ・データの二次利用の促進 ・特定行為研修を修了した看護師の活用 ・タスクシフト/シェア | |
経営の協働化・大規模化等 | ・地域医療連携推進法人、社会福祉連携推進法人の活用 ・小規模事業者のネットワーク構築による経営の協働化・大規模化 ・障害福祉サービスの地域差の是正 ・医療機関、介護施設、障害福祉サービス等事業者の経営情報の更なる見える化 ・医療・介護・障害福祉分野の不適切な人材紹介の問題について実効性ある対策 | |
現役世代の消費活性化による成長と分配の好循環 | ・各種データ分析・研究を始めEBPMによるワイズスペンディングを徹底し、保険料負担の上昇を抑制 ・全世代型社会保障の将来的な姿を若者も含め国民に分かりやすく情報提供 | |
中長期的な介護提供体制の確保 | ・人口減少や高齢化の進展によるサービス需要の地域差に応じ、各地域で地域包括ケアシステムを深化させるための方策の整理 ・地域医療構想を踏まえた医療・介護連携や介護予防の強力な推進 ・質の高いケアマネジメントの実現を含めた多職種間の連携や相談体制の充実 ・介護テクノロジーの社会実装に向けた実証・導入・伴走支援による生産性向上 ・事業者間の連携・協働化や大規模化の経営改善の取組 ・ワーキングケアラーへの対応など官民連携による介護保険外サービスの普及 ・外国人を含む介護人材の確保・定着 ・上記について中長期的な介護サービス提供体制の確保のための方向性を2025年中に整理 ・介護保険制度の給付と負担の見直し(2025年末までに結論が得られるよう検討) | |
中長期的な医療提供体制の確保① (質が高く効率的な医療提供体制) | ・医療需要の変化を踏まえた病床数の適正化 ・かかりつけ医機能の発揮される制度整備 ・医療の機能分化・連携や医療・介護連携 ・救急医療体制の確保 ・必要な資機材の更新を含むドクターヘリの安全かつ持続可能な運航体制の確保 ・大学病院・中核病院に対する支援を通じた医師派遣の充実 ・臨床実習に専念できる環境の整備 ・適切なオンライン診療の推進 ・減少傾向にある外科医師の支援 ・都道府県のガバナンス強化 | |
中長期的な医療提供体制の確保② (地域医療構想) | ・医療機関機能・病床機能の明確化、国・都道府県・市町村の役割分担など、2025年度中に国がガイドラインを策定 ・各都道府県での2026年度以降の新たな地域医療構想の策定を支援 | |
中長期的な医療提供体制の確保③ (偏在・適正配置) | ・医師の地域間・診療科間の偏在への対応(経済的インセンティブや規制的な手法といった地域の医療機関の支え合いの仕組みを含めた総合的な対策のパッケージを順次実施、効果を検証) ・医師の適正配置のための支援の在り方の検討(全国的なマッチング機能やリカレント教育、医学教育を含めた総合的な診療能力を有する医師の育成、医師養成過程の取組と併せて、2025年末までに検討) ・2027年度以降の医学部定員の適正化 ・偏在対策を含む看護職員の確保・養成 ・訪問看護におけるICT活用を含む看護現場におけるDXの推進 ・在宅サービスの多機能化といった在宅医療介護の推進 | |
中長期的な医療提供体制の確保④ (妊娠・出産・産後) | ・2026年度を目途に標準的な出産費用の自己負担の無償化に向けた対応・妊婦健診における公費負担の促進 ・「出産なび」の機能の拡充 ・産科・小児科医療機関を取り巻く厳しい経営環境を踏まえ、医療機関の連携・集約化・重点化を含めた必要な支援の実施 ・安全で質の高い無痛分娩を選択できる環境の整備 | |
中長期的な医療提供体制の確保⑤ (その他) | ・医療保険制度の給付と負担の見直し等の総合的な検討 ・高額療養費制度について、2025年秋までに方針を検討し決定 ・リフィル処方箋の普及・定着や多剤重複投薬や重複検査の適正化 ・保険外併用療養費制度の対象範囲の拡大や保険外診療部分を広くカバーし、公的保険を補完する民間保険の開発 ・国民健康保険の都道府県保険料水準の統一、保険者機能や都道府県のガバナンスの強化を進めるための財政支援の在り方の検討 | |
がん、循環器病等の疾患に応じた対策 | ・がん対策、循環器病対策、慢性腎臓病対策、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性疼痛等の疾患に応じた対策、難病対策、移植医療対策、アレルギー対策、依存症対策、難聴対策、栄養対策、受動喫煙対策、科学的根拠等に基づく予防接種の促進を始めとした肺炎等の感染症対策、更年期障害や骨粗しょう症など総合的な女性の健康支援の推進 ・運送業での睡眠時無呼吸対策、睡眠障害の医療アクセス向上と睡眠研究の推進、睡眠ガイド等の普及啓発、健康経営の普及、睡眠関連の市場拡大や企業支援 ・糖尿病と歯周病との関係など全身の健康と口腔の健康に関するエビデンスの活用 ・生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)に向けた具体的な取組 ・オーラルフレイル対策・疾病の重症化予防につながる歯科専門職による口腔健康管理の充実 ・歯科医療機関・医歯薬連携などの多職種連携 ・歯科衛生士・歯科技工士の離職対策を含む人材確保 ・歯科技工所の質の担保、歯科領域のICT活用 ・歯科医師の不足する地域の分析等を含めた適切な配置の検討を含む歯科保健医療提供体制構築の推進・強化 ・有効性・安全性が認められたデジタル化等の新技術・新材料の保険導入の推進 ・自立支援・在宅復帰・社会復帰に向けたリハビリテーションの推進 | |
健康寿命の延伸、Well-beingの向上 | ・データヘルス計画に基づく保険者と事業主の連携した取組(コラボヘルス) ・保険者の保健事業でのICTを活用したエビデンスに基づくPHRや健康経営と共働した効果的な取組の支援 ・職域でのがん検診の受診率や精度管理の向上の取組の更なる推進 ・エビデンスに基づくヘルスケアサービスの普及 (AMEDのプライマリヘルスケア・プラットフォーム等を通じた支援) ・糖尿病性腎症の重症化予防等の大規模実証事業を踏まえたプログラムの活用 ・効果的な介護予防やリハビリテーションの充実 (地域の多様な主体の連携協力や、成果指向型の取組等による) | |
創薬力の強化とイノベーションの推進① (市場拡大、基盤強化) | ・国際水準の治験・臨床試験実施体制を整備(新規ファースト・イン・ヒューマン試験実施施設など) ・ヘルスケアスタートアップを強力に支援(MEDISO・CARISOの体制の強化) ・創薬シーズの実用化の支援(革新的医薬品等実用化支援基金の対象の拡充を検討) ・国民負担の軽減と創薬イノベーションを両立する薬価上の適切な評価の実施 ・承認審査・相談体制の強化 ・ドラッグラグ/ロスの解消やプログラム医療機器への対応(バイオ医薬品を含む医薬品の製造体制の整備や人材育成・確保により、国際水準の研究開発環境を実現) ・薬事相談・規制調和を推進(PMDAの海外拠点を活用) ・治療機器やプログラム医療機器を始めとした日本発の医療機器の創出を促進 (産業振興拠点機能及び開発後期や海外展開に向けた研究開発支援を強化) | |
創薬力の強化とイノベーションの推進② (その他) | ・医薬品の安定供給に向け、持続可能な流通の仕組みの検討 ・基礎的な医薬品等の足元の供給不安への対応 (感染症の流行による需要の急激な増加といったリスクへの対策) ・少量多品目構造解消に向けた後発医薬品業界の再編の推進 ・バイオシミラーの使用促進(国内生産体制の整備及び製造人材の育成・確保) ・セルフケア・セルフメディケーションの推進、薬剤自己負担の見直しの検討 ・ゲノム情報基盤の整備や解析結果の利活用 ・iPS細胞を活用した創薬や再生・細胞医療・遺伝子治療の研究開発の推進 ・薬剤耐性菌の治療薬の確保(新規抗菌薬開発に関する市場インセンティブなど) ・ワクチン・診断薬・治療薬など感染症危機対応医薬品等の開発戦略の策定・研究開発の推進 ・イノベーションの推進や現役世代の保険料負担への配慮の観点から、費用対効果評価制度について、客観的な検証を踏まえつつ、更なる活用に向け、適切な評価手法、対象範囲や実施体制の検討と併せ、薬価制度上の活用や診療上の活用等の方策を検討 ・標準的な薬物治療の確立に向け、休薬・減薬を含む効果的・効率的な治療に関する調査研究を進め、診療ガイドラインに反映 ・医薬品の適正使用や後発医薬品の使用促進のみならず、医療費適正化の観点から、地域フォーミュラリを普及 | |
国際展開・インバウンド | ・ERIAと連携した外国医療人材育成 ・医療インバウンドを含む健康・医療・介護関連の国際展開 |
出所:経済財政運営と改革の基本方針2025(内閣府)より抜粋して加工
弊社ではこれまで累計で1,600件を超える病院の経営支援を行ってまいりました。その知見やネットワークを活用し、病院・診療所・介護施設を支える医療関連企業のご支援や新規に参入する企業の支援を行っています。弊社のメイン事業は病院経営コンサルティングであることから、あくまでも病院・介護施設などの立場に立ち、ヘルスケア業界で“真に役立つテクノロジー・サービス”に限ってご支援しています。
ご関心がございましたら 、下記サービスラインナップ・専門サイトをご覧ください。
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●【医療関連企業向けサービスラインナップ】
●【医療関連企業向け特設サイト】
本稿の執筆者
坂本 浩幸(さかもと ひろゆき)/株式会社日本経営 戦略コンサルティング部
森實 雅司(もりざね まさし)/株式会社日本経営 メディアコンテンツ事業部
株式会社日本経営
本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。