ペイシェントハラスメント対策と応召義務の正しい理解/約3分で耳ラーニング

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業種
病院・診療所・歯科
介護福祉施設
- 種別 レポート
近年、医療現場において、患者や家族による暴言・暴力・過度な要求などの「ペイシェントハラスメント」への対応が重要な課題となっています。
これらの行為は、医療従事者に大きな心理的負担を与え、医療提供体制の維持を著しく困難にします。
医師法「応召義務」を正しく理解し対応する
こうした問題への対応には、医師法で定められた「応召義務」への正しい理解が欠かせません。医師法第十九条第一項は、「医師は、正当な事由がなければ診療の求めを拒んではならない」と規定していますが、これは社会全体で医療提供体制を維持するために課せられた 制度上の義務であり、患者が診療を請求できる直接的な権利とはされていません。
したがって、医師と患者の信頼関係が著しく損なわれ、安全な診療が困難な状況では、「正当な事由」があると判断され、診療拒否が認められる可能性があります。
院内ルールやマニュアルの整備、対応フロー構築で事態に備える
厚生労働省の通知でも、正当な事由の判断基準として、「診療の緊急性」、「時間帯」、「信頼関係の有無」などが示されています。たとえば、診療と無関係な苦情を繰り返すなど、関係性が破綻している場合は、診療拒否の根拠となり得ます。
このような事態に備え、やりとりの記録や対応経過を保存することが重要です。また、応召義務に関する院内ルールやマニュアルの整備、診療拒否の判断基準と手続きの明確化、職員保護のための対応フロー構築も求められます。さらに、院内掲示による患者への周知や職員研修による意識統一も有効です。
安心して医療を提供できる環境づくりを
応召義務は、すべての人に必要な医療を保障する社会的な仕組みですが、その前提として医療従事者の専門性と患者との信頼関係が必要です。信頼が損なわれた状態で診療を継続することは、医療従事者のみならず患者にとっても不利益となるおそれがあります。
医療機関は応召義務の趣旨を踏まえたうえで、正当な事由に基づいて診療拒否が適切に行える体制を整え、医療従事者が安心して医療を提供できる環境づくりが求められます。
<参考資料>
厚生労働省 医政局長通知
「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」
(令和元年12月25日付 医政発1225第4号)
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000581246.pdf
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今回の解説
馬渡美智(まわたり みさと)
株式会社日本経営 組織人事コンサルタント
従業員数500名規模の事業所で、総務・人事業務に従事した後、日本経営入社。労務管理体制の調査・整備業務、組織活性化支援、人事制度の導入・運用支援、管理職研修、職員研修等に従事している。自治体の医療人材の流出入に関する調査も実施。社会福祉協議会、各種団体等での講演やセミナーも多数行っている。社内においては、子育てをしながら経営コンサルタントとして働くモデル人材として活躍。社会保険労務士有資格者。
株式会社日本経営
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