【ストーリー】医療法人の法定監査義務化への対応
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業種
病院・診療所・歯科
- 種別 レポート

カリスマの「情熱」を組織の「仕組み」に
事業規模が大きくなり、2,3年のうちには法定監査義務化の対象となりそうな「葉山病院」。御堂筋監査法人と出会い、導入に向けた準備を進めていきます。
登場人物
- 葉山(理事長):医療法人葉山会 葉山病院の理事長
- 葉山(常務):葉山理事長の妻
- 桐生:医療法人葉山会 葉山病院の事務長
- 成尾:医療法人葉山会 葉山病院の経理課職員
- 安藤:御堂筋監査法人の公認会計士
(本ストーリーはモデル事例をもとに、ストーリーとして構成しています)
第1章:医療法人の法定監査に、何のメリットがあるのか

葉山病院の葉山理事長。午前6時に出勤し、フロア巡回の前に全ての書類に目を通して決済する。これが彼の30年来のルーチンだ。
すべてを自分の目で確かめ、進捗に遅れがあれば即座に担当者に指示を出す。「経営とは現場の細部に宿る」それが彼の揺るぎない信念であり、「トップによる徹底した管理」が、この病院の事業展開を支えてきた。
しかし、その長年来の経営に、確実な変化の足音が忍び寄っていた。
この日、桐生事務長が理事長室に持ち込んだのは、「法定監査義務化」に関する検討資料だった。
「理事長、いまの事業規模からすると、2、3年以内には公認会計士による監査が義務付けられる見通しです」
口調は淡々としていたが、内心では焦っていた。監査義務化には膨大な工数が割かれる、早々に導入準備が必要だ。焦りだけではなかった。これまで理事長の背中だけを見て走ってきた組織に、外部の「監査」が入るとどうなるのか。カリスマ経営のスタイルそのものに大きな影響が出るのではないかという不安感は拭えなかった。
一方、葉山理事長は、窓の外を眺めながら腕を組んだ。
「上場企業であれば、決算書の正しさが問われるのは分かる。だが桐生事務長、私たちは地域のいち医療法人だ。決算書が正しいかどうか、外部の会計士が判断して意見を出すことに、何のメリットがあるんだ? 私は、この病院のすべての責任を自分で背負ってきた。私がすべてを見て、私がすべてを判断する。それは、責任を負っているからだ」
法定監査と言われても、全く納得できなかった。「すべてを自分で把握し、決定し、守らなければならない」。命の次に大切な事業である。法律か義務か分からないが、余計なコストと時間だけ費やされるのではないか。
「あなたの言う通りです。私たちのことは、私たちが一番わかっています。でも、」
妻である葉山常務が、桐生事務長の立場を擁護した。
「人生をかけてここまで大きくしてきた事業です。この先も続いていって欲しいと願うなら、『仕組み』にしなければ。気力がなくなってからでは無理です。余力があるうちにやらなければ。そのためにお金と時間を投下することになったとしても、経営にとって大きな意味があると思いますよ」
経理課の成尾は、部屋の隅でそのやり取りを聞きながら、胸の内で同意していた。
理事長が良かれと思って現場で直接下す判断は、ともすると経理のフローを混乱させている。あらゆる投資が最後は理事長の判断で決定されるとなると、判断基準は理事長しか分からない。
「権限やルールが明確になれば、それに合わせて皆が考えられるようになるはずだ……」密かな期待があった。
いずれにしても、監査という未知の領域に、理事長の気持ちは後ろ向きだった。ただ、先延ばしはできない。追いつめられる前に、早い段階で手を打っておきたいという桐生の言葉に、理事長はしぶしぶ承諾した。
第2章:法定監査は避けられないステップという確信

数週間後、葉山常務の紹介で、御堂筋監査法人の公認会計士、安藤が理事長室を訪れた。
安藤は、多くの会計士が持ち込むような「チェックリスト」や「コンプライアンスの遵守」を口にすることはなかった。彼はまず、職員との集合写真が壁一面に飾られているのを目にすると、創業以来、毎年撮影してきた1つ1つを追いかけながら、病院の30年の歴史に深い敬意を口にした。
「理事長、これまで多くのトップとお会いしてきて、事業を大きくされる経営者は、確固たる信念がおありだと思っています。これまでのガバナンスは、そうすべきだった背景がきっとあるのだと思います」
安藤の言葉は、なぜかスッと胸に入ってきた。数字や制度から入る、これまでの専門家とは異なっていた。
「安藤さん、監査というのは、要は数字に嘘がないか間違いや不正を探すことだろ? そのために、うちの職員に膨大な作業を強いる。コストに見合うだけのメリットがあるとは、思えないのだが」
安藤は微笑んで、資料を開いた。
「監査の本質は『信頼性の保証』です。確かにご負担は少なくありませんが、それだけ影響力が大きくなったという証でもあります」
監査法人である以上、安藤は客観的な第三者である。しかし同じように第三者であっても、指摘に留まるのと、なぜこの資料が必要なのか、どうすれば内部統制が効くのか、現実的な指摘をしてくれるのとでは、雲泥の差がある。
桐生事務長は、隣からいくつもの質問を投げかけていた。最も負担が増えるのは、実のところ、桐生であり事務方のメンバーなのである。
それに答えるように安藤は、現場の「収益・未収金管理」や、医療法人独特の「ガバナンスと不正防止」、「医療法人会計基準」や「行政報告」、「退職給付引当金」や現場の「複雑な給与体系」など、いくつもの事例を紹介していった。会話の中で、桐生や理事長・常務の話を見事に引き出していった。短い時間で、病院のガバナンスの課題は、丸裸にされてしまった。
安藤の話が終わる頃には、葉山の気持ちは180度変わっていた。確かに、自分たちのガバナンスは脆弱だった。「法定監査」への対応は、組織が次のステージに進むために、避けては通れないステップだと、確信するまでになっていた。
「安藤さん、あなたの言う通り、我々には『共通の物差し』が足りなかったのかもしれません。監査を通してうちの病院がどう変わるのか、見せてもらおうじゃないか」
それは医療法人葉山会が、御堂筋監査法人という第三者のチェックを経営に導入した、記念すべき瞬間だった。
第3章:予備調査から準備期間へと、内部統制の構築

御堂筋監査法人のチームによる、予備調査が始まった。
病院内では、「リーダー:成尾、責任者:桐生」とする内部統制プロジェクトチームを立ち上げた。
監査法人のメンバーは、病院のあらゆる業務フローに潜むリスクを、実に効率よく洗い出していった。理事長の強い希望で、安藤には現場の隅々まで足を運んでもらった。監査のプロがどのように現場を周り、何に着目するのかを、桐生や成尾は1つ1つ学んでいった。
ご多分に漏れず、購買プロセスについては、安藤の指摘を受けて大きく見直しを迫られた。理事長や医師が、学会や業者との会合で直感的に決めてきた機材や消耗品について、ルールが透明化された。
「発注」「検収」「支払」の担当者を分離することで、非常に手間が増える。現場の反発は大きかったが、理事長自身が、それを積極的に受け入れた。理事長のこの潔い姿勢に、成尾は何度も救われた。
安藤の指摘は、会計士という枠を超えて、マネジメントシステム全般に及んだ。内部のメンバーでは気づかなかったリスクを次々と指摘、「監査における準拠性意見を確実に出す」ためには、生ぬるい指摘はなかった。
予備調査の指摘を踏まえて、気がつけば監査初年度の準備期間へと移行していた。期中監査や実地棚卸、期末監査など、初めてのことばかりで成尾も桐生も、業務が逼迫し残業が続いた。しかし、自分たちのしていることが、組織のマネジメントに大きく寄与しているという確信は、彼らの大きなモチベーションになっていた。
第4章:職員一人ひとりに根付く、創業の志

安藤がプロジェクトに参画してから1年。予定よりも早く、医療法人は法定監査の対象となった。しかし、理事長にも事務方にも、焦りはなかった。
この日、理事長室には、安藤、桐生、成尾、そして理事長夫妻が集まっていた。
「理事長、本番の監査はこれからですが、予備調査の指摘をひとつずつクリアしていった結果、内部統制のレベルはかなり改善されたと思います」
桐生事務長は、感慨深げに呟いた。「義務化が避けられないと気づいたとき、正直、乗り越えられるのかというプレッシャーは相当なものでした。御堂筋監査法人の皆さんの指摘を受けながら、1年かけて組織の『背骨』を作ってきた結果、以前とは全く違った運営が実現しています」
成尾の表情も、明るい。法定監査への対応だけではなく、今や彼は、よりタイムリーに各部署の収支を把握し、理事長に「経営判断」のためのデータを提供できる、頼もしい財務担当者へと成長していた。
葉山理事長は、執務室の窓から、夕陽に照らされた病院の全景を眺めていた。
以前のように自分が現場を一から十まで歩き回らなくても、組織が自律的に、かつ自分の理想とする「患者第一」の理念に沿って、正確に動いているのを感じることができた。
「安藤さん……。私はこれまで、すべてを自分の手の中に置かなければ、病院は守れないと思っていた。だが、それは私の傲慢だったのかもしれないな」
葉山理事長は、静かに安藤に向き直った。
「監査法人のチェックが入ることで、何のメリットがあるのか。最初、私はそう疑った。だが、あんたに見せてもらったのは、数字の正確さだけじゃない。『仕組みが人を信じ、人が仕組みを動かす』という、組織の本当の強さだ。 一握りの役員だけにしか通用しないと思っていた創業の志が、職員一人ひとりに根付いているのを、確信を持って見ることができている。こんなに嬉しいことはない」
葉山は、隣で微笑む常務と視線を合わせた。
経営者として、長年背負ってきた使命感。それが今、整備された内部統制という器によって、組織全体の「自律的な責任」へと昇華されていた。
「安藤さん。あんたが持ち込んだ監査で、確かに病院は変わったよ。これで安心して、次の10年の夢をみんなに託すことができる」
窓の外には、地域の人々の命を繋ぐ病院の灯りが、誇らしげに輝いていた。
御堂筋監査法人と共に歩んだ準備期間。それは、一人の英雄の情熱が、永続する組織の魂へと生まれ変わるための、維新の物語だった。
法定監査は、医療法人の組織的展開にとって大きなステップです。
私たち御堂筋監査法人は、医療介護専門の監査法人です。
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本ストーリーはモデル事例をもとに、ストーリーとして構成したものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本ストーリーをもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。


