漸進的イノベーションに投資する時に突入!/病院経営の指標・読み方Vol.03
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業種
病院・診療所・歯科
- 種別 レポート
与えられた資金ではなく、生み出す資金。資金を生み出すためには、漸進的イノベーションへの投資が必要です。では、「漸進的イノベーション」とは何か。
「安定期」「停滞期」を経て、コロナ後の「投資期」にあるキャッシュフローについて、考えます。
主体的に生み出す資金
年末に開かれる予定の臨時国会で2021年度補正予算が審議され、岸田政権による新しい経済対策が提示される予定です。補助金についても審議される予定で、コロナ病床や医療人材確保及び治療薬確保のための国家予算投入、看護・介護・保育分野で働く人々の収入引き上げなどが挙げられています。
第6波が心配されている中でこれらの経済対策は非常に有難いことで、安心して事業を進めるために国として必要な政策だと思います。しかし、国の政策は特定の事業者だけを救うものではなく、すべての事業者に一定の条件が揃えば一定のルールに従って配分されるものです(少なくとも建前としては)。
ですので経営や財務を考えるにあたっては、国家予算のように「与えられた資金」に留まるのではなく、将来において「主体的に生み出す資金」について目を向けなくてはならないのだと思います。
漸進的イノベーションが成長を促す
先日、興味深い記事を読みました。文部科学省 科学技術・学術政策研究所の「イノベーションの画期性と企業成長」という報告書で、「革新的イノベーションが企業の成長を促す効果はほとんどない」という内容でした。企業の成長を促したのは、主に既存製品の改良や改善に努める「漸進的イノベーション(=時間をかけて取り組むイノベーション)である」とのことです。
この研究は医療機関のようなサービス業を対象にした研究ではないかもしれません。しかし医療機関にとっても、まさに今こそ漸進的イノベーションすなわち「既存製品の改良や改善」に取り組むべき時です。
医療機関にとって「既存製品」とは何でしょうか?
それは「人材育成」であったり「組織のガバナンス強化策」、「経営指標の管理手法」「外来再編」「在宅や地域連携など地域医療に貢献する事業展開」など挙げられるでしょう。どれも意識的に取り組まなければ、後回しにされがちなテーマです。
キャッシュフローは「投資期」に突入
この2年弱の間、皆さんの懸命な努力の結果、コロナ禍での運営について一定のノウハウが蓄積されていると思います。よほど突発的な事が発生しない限り対応可能な体制を整えていらっしゃるのではないでしょうか。
コロナ禍は様々な企業で、新しい働き方や経営の仕方に目を向けるキッカケを与えてくれました。医療機関でも新しい患者対応の仕方や、感染拡大防止への取り組みなどが整えられました。最前線での対応を通して、医療機関にとってのニューノーマルは確立されていると思います。
次に考えなければならないことは、山を乗り越えた後の自院の成長です。これまでの延長ではなく、将来主体的に資金を生み出すために、どこにキャッシュフローを「主体的に投入するか」を考える最適な時期だと思います。
キャッシュフローは、コロナ前の「安定期』からコロナ禍中の「停滞期」を経て、次はコロナ後の「投資期」に突入しています。今後3年間の資金の使い方について、どう主体的に配分するか、ぜひとも計画して頂きたいと思います。
病院経営の健全化のために、いま必要な意思決定を議論します。
本稿の執筆者
藤原ますみ(ふじわら ますみ)
NKGRコンサルティング株式会社 取締役
クリニック・病院・社会福祉法人の財務会計に従事し、有料老人ホームの立ち上げにも参画する。現在は、病院の財務・管理会計の導入を通じた経営改善も担う財務のプロフェッショナル。公的機関主催の研修でも講師を多数務め、数字に苦手な受講者でも「今までで一番分かりやすかった」と、絶大な支持を得ている。
日本経営ウィル税理士法人/NKGRコンサルティング株式会社/株式会社日本経営
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