「人員不足」は結果に過ぎない。流れと構造で再設計する外来運営
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業種
病院・診療所・歯科
- 種別 レポート
「これ以上、現場に頑張れとは言えない。しかし、採用のめども立たない……」 多くの病院経営層や看護部長、外来統括者のみなさまが、今まさにこの限界に直面されているのではないでしょうか。働き方改革や診療報酬改定への対応が急務となる中、従来の運営を維持しようとすれば、現場の疲弊は加速し、さらなる離職を招くという負の連鎖は避けられません。
外来の「やりづらさ」の正体は、スタッフの数や努力不足ではなく、「時代に適応していない外来構造」そのものにあります。人員数がネックで回せないと考えられている背景には、能力の問題だけではなく、多くの場合、全員が同じタイミングで診察室という「狭いボトルネック」に集中してしまう構造があります。
本レポートでは、現場の精神論に頼らず、仕組みとして「流れる外来」を実現するための「構造再設計の思考の型」を解説します。
1.制度と現場の「運営前提のズレ」が歪みを生んでいる
現在、国が求める「外来の機能分化」と現場に根付いた「暗黙のルール」の間には、埋めがたい乖離が生じています。
- 「午前集中」という聖域:午後の手術や検査を優先し、午前中に全エネルギーを注ぎ込む体制は、もはや限界を迎えています。
- 「診察は到着順」という公平性の罠: 予約制でありながら、実態は「早く来た者勝ち」の椅子取りゲームが多くの病院で生じています。これが患者の早期来院を誘発し、朝一番のピークを作り出しています。
- 「診察室」への過度な依存: すべての判断・説明・事務処理が診察室に集約される「一極集中」の設計となっています。
制度が「流れを変える」ことを求めている今、「これまでの当たり前(運営前提)」を疑うことこそが、経営層に求められる最初の仕事です。
2. 患者行動は「運営ルール」への適応である
「なぜ予約通りに来ないのか」と患者を責めるのは筋違いです。患者は、病院側の「運営のクセ」を敏感に察知し、最適化しているに過ぎません。
- 「早く行けば早く終わる」という学習: 予約枠内の到着順運用が、早期来院という「防衛本能」を生んでいます
- 「いつ呼ばれるか分からない」という不信: 待ち時間の不透明さが、患者を待合室に釘付けにし、現場の心理的圧迫を高めています
患者の動きを変えるには、マナー啓発ではなく、「予約時間通りに来ることが、患者にとって最も合理的である」という新しいルールを再構築する必要があります。
3.外来を止めているのは「判断の集中」という構造
外来の忙しさを分析すると、すべての工程が一様に過負荷なわけではありません。実際には、余裕のある時間帯もある一方で、特定のポイントに「判断」と「作業」が重なり、瞬間的に負荷が跳ね上がる工程が存在します。この「局所的な詰まり」こそが、外来全体の流れを止めるボトルネックの正体です。
最大の要因は、「診察室」がすべての業務と情報の「終着点」になってしまっている構造にあります。
「診察室」がすべての業務と情報の「終着点」になってしまっている構造:
- 情報のブラックボックス: あらゆるデータが一度診察室に集まらなければ、後続工程(会計・説明)が動き出せない設計になっています
- タスクの同時多発: 診察終了の瞬間に、説明・予約・入力・処方確認が一度に発生し、スタッフの負荷が一気に高まります
このように「出口」が詰まった状態では、周辺にどれだけ人員を投入しても、「医師の判断待ち」という待機時間を解消することは不可能です。
4. 人数論に陥らないための「改善のステップ」
外来改革で最も陥りやすい罠は、「まず人数(シフト)から考える」こと」です。人数を前提にすると、思考は必ず「現状維持」で止まります。
正しい改善は、以下のステップで進めるべきです。
- 流れを見る:患者・情報・業務が、どこで、なぜ止まっているのか事実を把握する(VSM:価値・流れ図の活用)
- ムダ取り:慣習的な重複作業や、不要な待ち時間を生んでいる要因を排除する
- 前後工程の関わり:その作業や判断は「今、診察室で」行うべきことか?前工程での準備や、後工程への委譲によって、診察室の負荷を分散できないか検討する
- 構造組替:役割分担や動線、予約の枠組みを、全体最適の視点で再構築する
- 人数算出:再設計されたフローを回すために、いつ、どこに、誰が何人必要かを導き出す
人数は「前提」ではなく、理想的な業務フローを設計した「結果」として決まるものなのです。地域連携活動へと振り向けることで専門性を高め、「地域から選ばれる病院」としてのブランド力を強化につなげます。
5.まとめ:外来を「仕組みで流れる場所」に変える
「人が足りない」という現場の悲鳴は、実は「今の歪んだ構造のままでは、これ以上頑張れない」というSOSです。
経営層やマネジメント層に求められるのは、さらなる努力を強いることではありません。診察室を中心とした旧来の運営構造を見直し、全体最適の視点で「流れ」を再設計する勇気を持つことです。
まずは、以下の3つの問いから始めてみてはいかがでしょうか
- Q1. 外来全体の流れを止めている、最大の「滞留ポイント」はどこか
- Q2. 診察室で行っている行為のうち、前後の工程で分担・整理できることはないか
- Q3. 予約制を運用する中で、意図せず「特定時間帯への集中」を助長しているルールはないか
日本経営グループでは、現状の業務フローを可視化し、構造的な課題を抽出する「外来運営診断」を行っています。「どこから手をつければいいか分からない」という方は、ぜひ一度ご相談ください。
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本稿の監修者
外池薫子(そといけ ゆきこ)
株式会社日本経営 業務プロセス改善コンサルティング部 課長代理|米国認定リーンコンサルタント
日本経営に入社後、医療機関のクライアントを対象とした事制度構築に従事。現在は、人事制度というハード面だけでなく、職員への教育や業務効率化にも重要性を感じ、現場の問題を解決するサポートを行っている。解決方法は組織によって異なり、魔法のような解決策は存在しない。だからこそ、「顧客に寄り添い、現場の答えを見つける手助けをする」をモットーに伴走型のコンサルティング姿勢を大切にしている。
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