コロナによる診療所経営への影響と対策Vol.03「コロナ禍でも収入を維持・向上させているクリニック」
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業種
病院・診療所・歯科
- 種別 レポート
Vol.03コロナ禍でも収入を維持・向上させているクリニック
非常事態宣言が解除され、多くの診療所が診察と経営の立て直しに取り組み始めたのも束の間、再び全国各地で感染拡大が続いている。
多くの診療所が受診控えの影響を受けている中で、予想外の声も漏れ聞こえている。それは、患者数が元に戻っている、前年対比で増収となっているという声である。
本レポートでは、withコロナ下で収益を維持している、影響を受けていないクリニックにはどのような特徴があるかを検証し、診療所経営の打ち手について考察したい。
危機にどう立ち向かうか 解説
日本経営ウィル税理士法人 医療事業部
小松裕介、宮前尭弘、八百健史、得平浩然
受診控えなのか、生活の変化なのか
ご存じのとおり、新型コロナの影響は、診療科や立地によって大きな違いが見られます。特に4月は2割~5割など大変なダメージを受けているというケースが大半です。しかし驚くべきことに、「影響は少なかった」「増収している」という診療所も散見されます。よく確認してみると、その数は決して少なくなかったのです。
これは私たちにとっても、予想外の結果でした。そこで、そのような先生方にヒアリングをさせていただいたところ、総じて次のようなご回答を頂きました。
- 診療科の特質上あるいは専門特化しているため、発熱患者がもともと少なく、患者さんも安心して受診されている。
- 受診控えできない疾患の患者さんが多いため、コロナに関わらず通院されている。
- 若者は逆にこれまでよりも活発になっている。中高生・若者などのプチ整形の来院が増えた。
- テレワークの開始や単身赴任者の帰省などで、これまで受診できなかったサラリーマン層の受診が増えた。
このように、「たまたま感染症の影響を受けにくい診療科・専門分野に特化していたために来院患者数が維持できている」という声を頂いています。
では、残念ながら感染症の影響を大きく受けてしまう診療科・専門分野の場合は、どうすればいいのでしょうか。
まず最初に考えられることは、一本の柱だから影響をもろに受けてしまうのであって、新型コロナの影響を受けないもう一本の柱をつくる、ということです。
これは、企業であれば、複数の事業や顧客層を持つということは当然に考えることなのですが、新型コロナは2,3年のうちには終息する、治療方法も確立されると多くの方が考えておられるでしょう。
であれば、別の診察の柱を立てたり、全く違うコンセプトの分院をつくるといった大きな戦略転換は、難しいでしょう。治療方法が確立するまでの間、いかに耐える経営をするか、あるいは資金繰りの問題ということになります。
しかし一方で、新型コロナは終息しても、人々の生活は全く変わってしまう、という仮説もあります。
例えば、サラリーマン・OL層の多かった診療所では、テレワークなどによって生活が一変しているかもしれません。患者さんは会社には出勤せず、物理的に診療圏からいなくなってしまった。だから患者数が減っている、ということも考えられます。
この場合、コロナが終息しても、患者さんは戻らないでしょう。
ですのでまず確認したいことは、来院患者数が減少している原因が、本当に診療科による受診控えが原因なのか、それとも別の要因があるのか、ということです。
これはレセプト実績を確認すれば、おおよその検討がつきます。
通院回数だけが減っているのであれば、受診控えと言えるかもしれません。しかしレセプト枚数が減っているのであれば、単純な受診控えではないかもしれません。
後者であれば、来院されていない患者さんとの繋がりをどう維持するのか、ここに対策を考える必要があります。
そして「患者さんとの繋がりをどう維持するか」「どのような患者さんに来てもらいたいか」という対策は、マーケティングそのものです。
それは「たまたま」感染症の影響を受けた、受けなかった、ということではない、意図した対策・打ち手になるはずです。
危機に対する攻めの姿勢
「影響が少なかった」という先生方からは、次のような声もお聞きしています。
- 予約診療を導入しており、最初は不安がっていた患者さんもあったが、待合も混雑していないのを見て、安心して通院してくれた。
- オンラインによるセカンドオピニオン(自費診療)を始めた。診察のツールではなく、マーケティングのツールと考えて、検査・手術に繋がる可能性を感じている。
- 検査・手術前後の、患者さんへの説明や相談をオンラインで行っている。
- スタッフがモチベーションをもって取り組んでくれている。症状が悪化したり通院できないことのないように、一生懸命対応してくれている。
- 外出控えにより明らかに利用者さんが重症化していると聞いて、オンラインによる短時間の運動(リハビリテーション)など、地域のケアマネジャーと連携を進めている。
患者心理からすると、「受診して感染しないだろうか」「これくらいの症状であれば、いま通院しなくてもいいのではないか」「先生やスタッフさんは、嫌々ながら対応してくれているのではないだろうか」など、迷いに迷って、通院したり断念したりしているものです。
迷っているときに、「放っておいたら症状が悪化します」「感染対策は十分にしています」というメッセージが伝われば、間違いなく背中を押された気分になります。ホームページの感染予防の取り組みや、診療所から届いた案内のハガキを、患者さんはいつもにも増して見ています。
しかしそのような取り組みをしようと思っても、院長一人ではどうにもなりません。
ホームページでいくら謳っても、スタッフの対応が感染を恐れながら腰が引けたものであれば、患者さんには伝わりますし、地域の医療・介護の専門職に対しても同様です。
ソーシャルディスタンスが採られている毎日だからこそ、逆に診療所の雰囲気を、普段よりも敏感に感じ取られているのかもしれません。
十分な感染防止をすることが大前提ですが、新型コロナに負けないという先生の強い姿勢。それを意気に感じるスタッフの攻めの姿勢。
これがチャンスだというくらいの危機に対する攻め姿勢が、来院患者数にも大きく影響しているように感じています。
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今回は、withコロナ下で収益を維持している、影響を受けていないクリニックの特徴を検証し、診療所経営の打ち手について考察しました。
考えてみると、「危機への対応」で共通しているのは、「患者さんとの繋がりを途切れさせない」ということに尽きるのかもしれません。
仮に来院患者数が一時的に減っていたとしても、繋がりが維持できていれば、必ず元に戻るはずです。しかし、生活が変わることで、あるいは、通院しない生活が普通になることで、繋がりが途切れてしまったとしたら、それはもはや受診控えではなく、患者さんの喪失です。
患者さんとの繋がり、地域との繋がり、目に見えないもののほうが重要で、そこに注目すれば、たくさんの打ち手が見えてくるのではないかと考えます。
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このレポートの解説者
小松裕介、宮前尭弘、八百健史、得平浩然
日本経営ウィル税理士法人
本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。