お役立ち情報

地域共生社会を創造するための病院経営戦略 ~“4つの経営機能”を活かした医療MaaS・DXの実現~

  • 業種 病院・診療所・歯科
  • 種別 レポート

弊社ではこれまで累計で“1,600件”を超える病院の経営支援を行ってまいりました。今回は「地域共生社会を創造するための病院経営戦略」という命題で、主にグループ病院・地域医療連携推進法人について論考してみます。

業界・産業を横断した地域共生社会

昨年(令和5年)の厚生労働白書(※ⅰ)は、タイトルに「つながり・支え合いのある地域共生社会」とあるように“地域共生社会”の創造が目指されています。厚生労働省の地域共生社会のポータルサイト(※ⅱ)では、地域共生社会を以下のように定義しています。

制度・分野ごとの『縦割り』や「支え手」「受け手」という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が参画し、人と人、人と資源が世代や分野を超えてつながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会を指しています。

弊社では2年ほど前の2022年8月に、以下のお役立ち情報のレポートの中で、病院DXの先としてIX(産業変革)を踏まえたあるべき姿のイメージ図を指し示しました。

【医療DXとは?取り組み事例からみるDXの必要性と進め方
 ~「デジタル化≠DX」を踏まえた医療DX~】
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-quality-89023/

そのイメージ図が以下になります。

まさに、業界・産業という制度・分野ごとの“縦割り”を超えて、共有(シェアリング)していくことが求められます。従来からの「医療×介護」という医療・介護複合体だけではなく、「農業×福祉」の農福連携など、“業界・産業を横断した取り組みが地域共生社会”となります。

運転手不足の中で迫られる医療MaaS

以前、視察する機会のあった地域医療連携推進法人では、地域医療連携推進法人本部で運転手・送迎車を保有し、加盟する傘下の医療機関・介護施設の通院・通所送迎を一元化・共有化(シェア)していました。これは「交通×医療×介護」の事例です。こうした取り組みが、生産年齢人口が急減少していく日本において求められます。特に、人口減の激しい地方部においては必須になると思います。そこで、病院DXだけではなく、「交通×医療×介護」の具体例としての“医療MaaS”についても求められていくでしょう。

国土交通省の「地域公共交通 共創・MaaS実証プロジェクト(※ⅲ) 」では、「医療×介護×交通」などのMaaS実証事例が複数出てきています。

このように医療・介護というヘルスケア領域だけではなく、人口減少を踏まえて産業を超えた地域デザインが必要になってきています。まさにIX(産業変革)です。前述したような地域共生社会の実現が、今後の病院経営戦略として必要になってくると思います。それでは、こうした外部環境の変化を踏まえて、具体的にどのように考えるべきでしょうか。

“4つの経営機能”で考える地域共生社会

弊社では、現代表取締役の橋本が考案した、“4つの経営機能”というフレームワークを用いて、事業戦略立案をサポートすることが増えています。これは“トップ方針”、“戦略・計画”、“役割・権限”、“実行プロセス”という、4つの枠組みで経営機能を整理するモデルです。そこで、今回はこのフレームワークで考えていきます。

前述した地域共生社会というのは、従来の病院単体から地域産業へと広がっています。また、その主体は、“複数施設を保有するグループ病院”“複数法人が連携した地域医療連携推進法人”が多いです。地域医療連携推進法人は、令和6年7月1日現在で44法人(※ⅳ)となっています。その中には、複数病院を保有するグループ病院が地域医療連携推進法人を形成するケースも各地で出てきています。今後は、M&Aによるグループ病院化および、グループ病院を含む地域医療連携推進法人の設立が進み、こうした事業体が地域共生社会の推進者になっていくと推察されます。

これらの法人格のあり方は異なりますが、複数施設を保有する事業体となります。多くは、急性期病床の基幹病院を軸に、その連携先として回復期・慢性期病床および介護施設などの関連施設を保有しています。そこに、地域医療連携推進法人だけではなく、病々連携・病診連携・医介連携など、ヘルスケア領域で連携する近隣の連携施設があります。その上で、地域共生社会の場合には、業界・産業の異なる事業体が加盟して、一体的な取り組みとなります。

医療法人や社会福祉法人と株式会社のM&Aはできないため、前述した「地域公共交通 共創・MaaS実証プロジェクト」の事例のように共創プラットフォームを設けることになります。つまり、“基幹施設”⇒“関連施設”⇒“連携施設”⇒“地域産業”、という軸で領域が広がっていきます。

そこで、“基幹施設”⇒“関連施設”⇒“連携施設”⇒“地域産業”、という事業の広がりを、4つの経営機能である“トップ方針”、“戦略・計画”、“役割・権限”、“実行プロセス”で整理すると以下になります。

トップ方針としては、自法人の事業戦略における、幾つかの要素の相互関係をあらわす“7S”(※ⅴ)(Shared value(共通の価値観・理念)、Style(経営スタイル・社風)、Staff(人材)、Skill(スキル・能力)、Strategy(戦略)、Structure(組織構造)、System(システム・制度))を明確化し、この“7種のSの整合性をとる”ことが大事になります。

特に、事業主体は急性期~介護施設まで保有していることが多いため、戦略面では複数事業体の戦略を整理するフレームワークである“PPM”(※ⅵ)(Product Portfolio Management)を作成しておくことがポイントです。

地域共生社会実現の具体策としてのM&A・地域医療連携推進法人

前述した地域共生社会を踏まえるとM&Aや地域医療連携推進法人という手段は、戦略を実現するための具体的な計画になります。この戦略・計画を機能化させるためには、M&A後のPMI(Post Merger Integration)が重要になります。

M&Aや地域医療連携推進法人における相互の人員出向は、人的リソースのシェアリングが目的です。こうした人材のパフォーマンスを真に発揮させるには、前述した7Sの整合性がカギになります。7つのSは相互に関係しあって、組織能力を発揮しています。7Sの一つである人材のパフォーマンスを最大化させるには、その他6Sとの整合性がポイントです。M&Aや地域医療連携推進法人における相互の人員出向は、異なる7Sの組織同士が一緒になったり、協働したりすることになるため、その複雑性が増します。そのため、7Sの整合性について、単一施設以上に配慮する必要があります。そこで、私は“M&Aとは異なる組織の7Sの融合”だと思っています。

M&Aや地域医療連携推進法人における相互の人員出向は、人的リソースのシェアリングが大きな目的ですが、それだけではありません。冒頭で指摘したように、複数事業体での共有コストのシェアリングによるコスト構造変革です。前述した医療MaaSでの同一エリア内で運転手・送迎車を共有した“共同運行”(密度の経済性)もそうですし、従来から行われている医薬品・医療材料の“共同購入”(規模の経済性)なども同じ考え方です。さらには、公共交通としての地方バスに宅配事業者の貨物を一緒に載せる“貨客混載”(範囲の経済性)なども、実利としてはコスト構造変革になります。

こうした人的なリソース確保やコスト構造変革という面での実行プロセスを考えると、DXや医療MaaSなどが具体策になってくるでしょう。

弊社では以前から「DX=D(デジタル化)×CX(組織変革)」という公式で病院DXについて解説していますが、今回の地域共生社会という論点で考えるとCXだけではなくIX(産業変革)まで踏み込まないといけません。

また、単に情報流としてD(主にデジタライゼーション)だけではなく、物流や人流領域まで考えた実行プロセスの構築が必要になります。

今後の人口動態を考えると、病院業界・介護業界という単一の業界だけで経営戦略を描くことが難しくなります。そうした中で、M&Aや地域医療連携推進法人という戦略・計画を採用することで、地域共生社会という地域デザインでのトップ方針を選択できるようになります。“4つの経営機能”というフレームワークを用いて、“地域共生社会の実現”という視点で病院経営戦略を描いてみてはいかがでしょうか。

なお、今回ご紹介した“4つの経営機能”について、弊社では医療・介護業界だけではなく、業種を問わずに経営戦略の支援を行っています。また、「DX=D×CX」という公式での病院DX支援も行っています。特に、病院業界で人的リソースの確保が難しい“医師”のマネジメントについては、これまで全国“200病院”を超える実績(2024年4月時点)があり、弊社の特徴的な領域となっています。関心があれば、下記専門サイトをご覧ください。

【医師マネジメント特設サイト】
https://hhr.nkgr.co.jp/dmgt

【病院DX特設サイト】 
https://service.nkgr.co.jp/dx

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※ⅰ https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/22/index.html
   出所:厚生労働省「令和5年版厚生労働白書-つながり・支え合いのある地域共生社会-」
※ⅱ https://www.mhlw.go.jp/kyouseisyakaiportal/
   出所:厚生労働省「地域共生社会のポータルサイト」
※ⅲ https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/transport/kyousou/
   出所:国土交通省「地域公共交通 共創・MaaS実証プロジェクト」
※ⅳ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000177753.html
   出所:厚生労働省「地域医療連携推進法人制度について」
※ⅴ https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-12513.html
   出所:グロービス経営大学院 MBA用語集「7S Seven S Mode」
※ⅵ https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-20790.html
   出所:グロービス経営大学院 MBA用語集「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント PPM」
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「医師マネジメントの実務専門サイト」にて
各種レポートをご覧いただけます

本稿の執筆者

太田昇蔵(おおた しょうぞう)
株式会社日本経営 部長

大規模民間急性期病院の医事課を経て、2007 年入社。電子カルテなど医療情報システム導入支援を経て、2012 年病院経営コンサルティング部門に異動。
現在、医師マネジメントが特に求められる医師数の多いグループ病院・中核病院のコンサルティングを統括。2005年西南学院大学大学院経営学研究科博士前期課程修了、 2017 年グロービス経営大学院 MBA コース修了。

株式会社日本経営

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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