お役立ち情報

地域共生社会を創造するために医療関連企業ができること

  • 業種 病院・診療所・歯科
  • 種別 レポート

弊社ではこれまで累計で1,600件を超える病院の経営支援を行ってまいりました。また、病院・診療所・介護施設を支える医療関連企業のご支援も行っています。弊社のメイン事業は病院経営コンサルティングであることから、あくまでも病院・介護施設などの立場に立ち、ヘルスケア業界で“真に役立つテクノロジー・サービス”に限ってご支援しています。

日本経営グループでは、2002年より医療IT製品の常設総合展示場MEDiPlaza(メディプラザ)を東京・大阪・福岡で運営し、IT企業を中心に医療業界へ参入する企業のマーケティング支援を行っていました(※現在、展示場事業は廃止)。そこで、累計1,600件以上の病院経営支援で得た知見と20年以上続く医療関連企業マーケティング支援のノウハウを踏まえて、“医療関連企業向けマーケティング支援を形式知化・類型化”し、主にヘルスケア業界参入の案内役を担っています。

今回は、今後のヘルスケア業界の将来像を推察し、今後、どのようなテクノロジーやサービスが、病院・診療所・介護施設から求められるのかを論考してみたいと思います。

生産年齢人口減少に直面するヘルスケア業界

一般財団法人 医療関連サービス振興会の「令和3年度医療関連サービス実態調査報告書(※ⅰ)」をもとに、2012年以降の各種医療関連サービス委託率の推移をCAGR(年平均成長率)降順で並べてみると下記のようになります。

成長率が高い群と鈍化している群が分かれており、成長率が概ね5%以上ある群には、情報流・物流など人員を代替するサービスが多くなっています。やはり生産年齢人口減の中で、人的なリソース確保やコスト構造変革という領域でのサービスが成長していることが分かります。

医療業界・介護業界は労働集約型産業であり、患者数などに対して一定の人員を配置しなければならない人員配置基準があります。そのため省人化の工夫には制限が出てきます。かつ、医師・看護師といった国家資格など各種ライセンスが求められるので、より採用の難しさが増します。こうした人材不足というペインが顕在化しています。

医療・介護などのヘルスケア業界は人材不足による変革が迫られています。そこで、具体的なテクノロジー・サービスを考える前に、業界が今後どのように変化するかを推察してみます。

業界・産業を横断した地域共生社会

昨年(2023年)の厚生労働白書(※ⅱ)は、タイトルに「つながり・支え合いのある地域共生社会」とあるように地域共生社会の創造がうたわれています。厚生労働省の「地域共生社会のポータルサイト(※ⅲ) 」では、地域共生社会を以下のように定義しています。

制度・分野ごとの『縦割り』や「支え手」「受け手」という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が参画し、人と人、人と資源が世代や分野を超えてつながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会を指しています。

弊社では2年ほど前の2022年8月に、以下のお役立ち情報のレポートの中で、病院DXの先としてIX(産業変革)を踏まえたあるべき姿のイメージ図を指し示しました。

【医療DXとは?取り組み事例からみるDXの必要性と進め方~「デジタル化≠DX を踏まえた医療DX」】
http://nkgr.co.jp/usefui/hospital-strategy-quality-89023/

そのイメージ図は以下のとおりです。

まさに、業界・産業という制度・分野ごとの縦割りを超えて、共有(シェアリング)していくことが求められます。以前からの「医療×介護」という医療・介護複合体だけではなく、「農業×福祉」の農福連携など、業界・産業を横断した取り組みが地域共生社会となります。

運転手不足の中で迫られる医療MaaS

以前、視察した地域医療連携推進法人では、本部で運転手・送迎車を保有し、加盟する傘下の医療機関・介護施設の通院・通所送迎を一元化・共有化(シェア)していました。これは「交通×医療×介護」の事例です。こうした取り組みが、生産年齢人口が急減少していく日本において求められます。そこで、病院DXだけではなく、「交通×医療×介護」の具体例としての医療MaaSについても求められていくでしょう。国土交通省の「地域公共交通 共創・MaaS実証プロジェクト (※ⅳ) 」では、「交通×医療×介護」などの医療MaaS実証事例が複数出てきています。

地域共生社会の推進主体

前述した地域共生社会は、従来の病院単体から地域産業へと広がっています。また、その主体は、複数施設を保有するグループ病院や複数法人が連携した地域医療連携推進法人が多くなっています。地域医療連携推進法人は、2024年7月1日現在で44法人(※ⅴ)となっています。その中には、複数病院を保有するグループ病院が地域医療連携推進法人を形成するケースも各地で出てきています。今後は、M&Aによるグループ病院化および、グループ病院を含む地域医療連携推進法人の設立が進み、こうした事業体が地域共生社会の推進者になっていくと推察されます。

これらは複数施設を保有する事業体となります。多くは、急性期病床の基幹病院を軸に、その連携先として回復期・慢性期病床および介護施設などの関連施設を保有しています。そこに、ヘルスケア領域で連携する他法人の近隣連携施設があります。その上で、地域共生社会の場合には、業界・産業の異なる事業体が加盟して、一体的な取り組みとなります。

医療法人や社会福祉法人と株式会社のM&Aはできないため、前述した「地域公共交通 共創・MaaS実証プロジェクト」の事例のように共創プラットフォームを設けることになります。それは、基幹施設⇒関連施設⇒連携施設⇒地域産業、という軸で領域が広がっていきます。

弊社では、現代表取締役の橋本が考案した、4つの経営機能というフレームワークを用いて、事業戦略立案をサポートすることが増えています。これはトップ方針、戦略・計画、役割・権限、実行プロセスという、4つの枠組みで経営機能を整理するモデルです。そこで事業の広がりを、4つの経営機能で整理すると以下になります。

地域共生社会実現の具体策としてのM&A・地域医療連携推進法人

前述した地域共生社会を踏まえるとM&Aや地域医療連携推進法人という選択肢は、戦略を実現するための具体的な計画になります。M&Aや地域医療連携推進法人における相互の人員出向は、人的リソースのシェアリングが大きな目的ですが、それだけではありません。冒頭で指摘したように、複数事業体での共有コストのシェアリングによるコスト構造変革です。前述した医療MaaSでの同一エリア内で運転手・送迎車を共有した共同運行(密度の経済性)もそうですし、以前から行われている医薬品・医療材料の共同購入(規模の経済性)なども同じ考え方です。さらには、公共交通としての地方バスに宅配事業者の貨物を一緒に載せる貨客混載(範囲の経済性)なども、実利としてはコスト構造変革になります。

実行プロセスを支援する医療関連企業の役割

こうした人的なリソース確保やコスト構造変革という面での実行プロセスを考えると、DXや医療MaaSなどが具体策になってくるでしょう。そして、実行プロセス面においては、病院だけでは実現できないことが多く各領域の専門企業のサポートが必要になってくるのです。

この文脈から考えれば、情報流を変革する実行プロセスとしてのDXや物流を変革する実行プロセスとしての搬送自動化、そして人流を変革する実行プロセスとしてのMaaSなどが必要になると思われます。こうしたテクノロジーは、従来から医療業界で使われていたモノというよりも、異業種で活用されているテクノロジーを輸入するケースが多くなっています。

例えば、病院のDXにおいてもHIS(病院情報システム)だけでなく、総務・経理・人事領域におけるERP(統合基幹業務システム)の導入。搬送自動化の領域には、ファミレスなど外食産業で取り入れられている搬送ロボットの導入。そしてMaaS領域には、タクシー配車アプリやライドシェアアプリの転用などが、その具体策になるでしょう。まさにヘルスケア業界以外のテクノロジーの輸入です。

前述した弊社が過去に運営していた医療IT製品の常設総合展示場は、HISというIT製品が世に普及し始めた時に、HISの正しい理解という啓発活動および各製品の認知度向上というプロモーションのための取り組みでした。事業を開始した2002年は、Windows95によりパソコンが市民権を得た1995年から考えると7年後です。ヘルスケア業界には、他産業から概ね5~10年遅れでテクノロジーが普及し始めます。すかいらーくグループが猫型配膳ロボット(搬送ロボット)を、全国のガスト、ジョナサンなど約2,100店舗・3,000台を導入したのが2022年末です。この一連の流れで考えると2030年前後には院内搬送ロボットも病院業界に普及すると思われます。弊社でも現在、院内搬送ロボットのメーカーよりマーケティング支援のご相談をいただいているところです。

ヘルスケア業界というと「各種法令の規制が厳しい」や「医師など専門職が多く対応が難しい」という印象が強いのではないでしょうか。実際にそうした一面はあります。しかし、実行プロセスベースでは、他産業で日常利用されている各種テクノロジーをどうすれば活かすことができるかを考え、活かせる現場で普及させるという観点を持てばチャンスはあるのです。最終的に、ヘルスケア業界独特の規制や慣習へ適応させることが重要成功要因(KSF)となりますが、今後の人口動態を考えると病院・診療所・介護施設などはヘルスケア業界を超えた変革に迫られるので、その実行プロセス面での支援が医療関連企業には求められていくでしょう。

なお、弊社では医療関連企業のマーケティング支援を行っています。ヘルスケア業界独特の規制や慣習へ適応させることが重要成功要因(KSF)ですが、ヘルスケア業界参入の案内役としての支援も行っています。

弊社のメイン事業は病院経営コンサルティングであることから、あくまでも病院・介護施設などの立場に立ち、ヘルスケア業界で“真に役立つテクノロジー・サービス”に限ってご支援しています。具体的にはPoC(概念実証)支援として、試作品の効果測定の現地調査を行うなど、新たなテクノロジー・サービスの“価値の言語化・定量化”などのプロダクト開発を支援しています。

ご関心があれば、下記サービスラインナップ・専門サイトをご覧ください。

【医療関連企業向けサービスラインナップ】
https://www.wic-net.com/images/search/ppt/p-529.pdf

【医療関連企業向け特設サイト】 
https://medical-marketing.nkgr.co.jp/

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※ⅰ https://ikss.net/about/research_list/20220406-2/
   出所:一般財団法人 医療関連サービス振興会「令和3年度医療関連サービス実態調査報告書
※ⅱ https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/22/index.html
   出所:厚生労働省「令和5年版厚生労働白書-つながり・支え合いのある地域共生社会-」
※ⅲ https://www.mhlw.go.jp/kyouseisyakaiportal/
   出所:厚生労働省「地域共生社会のポータルサイト」
※ⅳ https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/transport/kyousou/
   出所:国土交通省「地域公共交通 共創・MaaS実証プロジェクト」
※ⅴ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000177753.html
   出所:厚生労働省「地域医療連携推進法人制度について」
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「医療関連企業向け特設サイト」にて
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本稿の執筆者

太田昇蔵(おおた しょうぞう)
株式会社日本経営 部長

大規模民間急性期病院の医事課を経て、2007 年入社。電子カルテなど医療情報システム導入支援を経て、2012 年病院経営コンサルティング部門に異動。
現在、医師マネジメントが特に求められる医師数の多いグループ病院・中核病院のコンサルティングを統括。2005年西南学院大学大学院経営学研究科博士前期課程修了、 2017 年グロービス経営大学院 MBA コース修了。

株式会社日本経営

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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