地域包括医療病棟の稼働から半年、コンサルタントとして導入をどう考える
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業種
病院・診療所・歯科
- 種別 レポート
2024年度診療報酬改定で新たに新設された「地域包括医療病棟入院料」。高齢化に伴い増加する軽症から中等症の高齢者救急患者等を受け入れる体制を整え、リハビリテーション、栄養管理、入退院支援、在宅復帰等の機能を包括的に担う病棟として新設されました。
この記事では、地域包括医療病棟の導入をどう考えるのか?地域包括医療病棟の届出状況と現状から、2024年度診療報酬改定を踏まえた病院群ごとの対応について、弊社の経営コンサルタントが解説します。
地域包括医療病棟の届出状況は?
2024年度診療報酬改定が施行された6月時点で22病院の届出からスタートしました。
当初は、「地域包括医療病棟の役割はイメージすることができるが、施設基準が厳しく届出に踏み切ることができない」「内科系の高齢者救急では平均在院日数、必要度、在宅復帰率の三大要件を満たすことが難しくこの新設は失敗だったんじゃないか」というネガティブな意見が多く、ある意味、22病院の届出は納得のスタートでした。
その後の届出データを確認してみたところ、10月時点で66病院、直近の12月時点で107病院まで増加しています。恐らく、導入事例が徐々に増えていく中で、地域包括医療病棟導入における勝ちパターンが明らかになってきたのだと思います。また、ADLの低下割合要件の年間実績を満たすことができ、直近の届出病院が大幅に増加したのだと推察しています。
弊社のクライアントの動向をみても導入を検討をしている先は多く、今後も地域包括医療病棟の導入は増加していくと思います。
※厚生局により更新時期が異なるため、正確な届出病院数については厚生局でご確認下さい。
地域包括医療病棟入院料の算定要件と施設基準
地域包括医療病棟入院料の算定要件と施設基準は、当該入院料に求められる役割の通り実績要件と人員配置要件が設計されています。 施設基準から読み解くと、一般病床しか届出ができないこと、平均在院日数や救急搬送患者の受け入れ機能、10対1配置など急性期機能よりであると言えます。
主な施設基準の達成に向けた取り組み方は以下の通りです。
- 必要度:急性期機能としての役割が必要。他の急性期病棟との調整が必要。
- 救急搬送割合:上記同様に急性期機能としての役割が必要。
- 平均在院日数:充実した入退院支援、リハビリ介入により達成していく。
- ADL低下割合:リハビリ人員の配置と早期介入、休日リハの実施で達成していく。
上記の通り、①と②は病院全体としての方針や役割によって達成していく内容になりますが、③と④はリハビリ技師の充実と多職種の関与により当該病棟で達成していく内容になることがポイントです。
地域包括医療病棟入院料の施設基準
地域包括医療病棟入院料の施設基準は、次の通りです。
算定要件・施設基準等は、簡略化して作成しているため正式な請求ルール等は、厚生労働省の資料や疑義解釈をご確認下さい。
主な実績要件
- 必要度:①A得点2点以上かつB得点3点以上、A得点3点以上、C得点1点以上のいずれかに該当する患者割合15%以上(Ⅰ)、16%以上(Ⅱ)、②初日B得点3点以上50%
- 在院日数:平均在院日数21日以内(90日まで算定可能)
- 救急実績:①入院患者に占める緊急搬送患者割合15%以上 ②自院の一般病棟からの転棟割合5%未満
- リハビリ提供量:休日リハの提供体制(加算取得の場合は平日の8割以上)
- 在宅復帰率:80%(回リハ病棟含む)
- ADL低下割合:5%以内
主な人員配置
- 看護職員:10対1以上
- リハビリ:常勤のPT・OT又はST2名以上
- 管理栄養士:専任の常勤の管理栄養士1名以上
算定可能な入院料等加算
- 初期加算
- 看護補助体制加算、夜間看護補助体制加算、看護補助体制充実加算
- 夜間看護体制加算、看護職員夜間配置加算
- リハビリテーション・栄養・口腔加算
主な出来高請求可能区分
- リハビリテーション料、精神科専門療法、手術・麻酔等
地域包括医療病棟のコンセプトをどう定義するか?
私は、クライアントと協力のもと地域包括医療病棟を1病院に導入しました。その他に、実績取り期間中が3病院、シミュレーション結果をもとに導入検討中が4病院、検討の結果導入をしないと決定をした先が2病院、合計10病院のクライアントとこの半年間で協議を重ねてきました。
様々な機能・規模の病院と導入検討を繰り返していく中で明らかになってきた地域包括医療病棟のコンセプトは、『高齢者救急の受け入れと早期リハビリの介入によるADLの改善及び在宅復帰の強化』でした。これは、地域包括医療病棟の創設背景、政策趣旨と同じで何も目新しい定義ではありません。
ただし、重要なポイントは、難しい算定要件・施設基準で踏み留まるのではなく、地域包括医療病棟の役割に則り、施設基準をクリアしていくという考えをベースに導入を検討することです。
導入において実現可能性が高いケースとは?
地域包括医療病棟のコンセプトは、『高齢者救急の受け入れと早期リハビリの介入によるADLの改善及び在宅復帰の強化』です。ただし、内科系の高齢者救急だけでは三大要件の達成が難しい病院があることも事実です。
そのため、点数設計と施設基準からどのようなケースがマッチしやすいのかを把握しておく必要があります。
そこで10病院と導入検討を重ねてきた中で明らかになった地域包括医療病棟導入の実現可能性が高いケースを以下の通り整理しました。
点数設計上の観点
- 基本的に10対1の病院であると大半は増収効果が期待できる。
- 7対1の病院(DPC病院と想定)は医療機関係数が低いと増収効果が期待できる。
- 整形外科症例は、DPC点数が低めに設定されているため増収しやすい。かつ、必要度、ADL低下割合などの施設基準達成の貢献度が大きい。
- 一方で、内科系疾患は入院期間Ⅰの期間は大きな増収は見込めない、入院期間Ⅱ以降に増収が見込まれる。
構造上の観点
- 回復期リハビリテーション病棟があると導入しやすい(在宅復帰先の対象・リハビリ技師数・365日リハ)
- 内科系疾患だけでの施設基準の達成が困難なケースが多いため、混合病棟での運用に慣れている(そのため小規模病院で既に混合病棟で運営している病院の方が導入しやすい傾向がある)。
冒頭でお伝えした勝ちパターンにおいて、「整形+回リハ病棟の有無」で地域包括医療病棟導入の実現可能性と増収効果が高まることは明らかになっています。
2024年度診療報酬改定を踏まえた病院群ごとの対応方針
話は変わりますが、皆様は2024年度改定を踏まえた自院が採るべき選択肢をどのように考えられているでしょうか。
24年度改定の結果と社会情勢を踏まえると、①複数の急性期病棟で必要度を満たすことが困難になっていること②200床以上病院が院内転棟割合の観点から地域包括ケア病棟を保有することが困難になっていることそして最後に③コロナ以降急性期症例が約10%減少しこれまでのような病床稼働率を維持することが困難になっていることの3点が対応方針の検討軸として挙げられます。
上記を踏まえた病院群ごとの対応方針をまとめた表が以下になります。
急性期一般入院料1(7対1)を維持できる病院は、もちろん現状を維持していく選択肢がベストと考えますが、必要度を満たさない、地域包括ケア病棟を活かしきれていない病院群は、然るべき選択肢を検討すべきと考えます。
その際に、地域包括医療病棟は単独での増収を期待して導入を検討、地域包括ケア病棟は急性期病棟の必要度を維持するための機能として導入を検討することが望ましいと考えます。
地域包括医療病棟導入までのステップとポイント
地域包括医療病棟の導入ステップは大きく5ステップを想定しています。
現状での施設基準の達成状況により検討開始から届出までの期間は前後しますが、導入検討から届出まで約6ヶ月が標準的なスケジュールだと考えます。
ステップ1 分析システムLibraを活用した患者シミュレーション | 【取り組み事項】 ・疾患別増収・減収シミュレーション ・疾患別施設基準達成シミュレーション (必要度・平均在院日数・救急搬送割合・B得点等) 【ポイント】 ・弊社のご支援では、弊社の分析システムLibraを活用し、DPCデータをもとにワンクリックで疾患別の増減収シミュレーションを出します。 ・増減収のシミュレーションには時間をかけず、後工程に検討の時間をかけることがポイントです。 |
ステップ2 現状運用での 施設基準達成状況の確認 | 【取り組み事項】 ・病棟別施設基準達成状況の確認(日ごと) ・該当病棟における地域包括医療病棟入院料の施設基準の達成状況、残った病棟における急性期一般入院料の施設基準の達成状況の確認 【ポイント】 ・最初から施設基準をクリアするための方法を検討するのではなく、現状の運用のまま仮に転換した際に、どの基準が何件(何%)不足しているのかを確認します。これをもとに運用変更ルールを定めます。 ・また、地域包括医療病棟単体の基準を満たすかどうかだけではなく、残った急性期病棟が必要度を維持できるのかも重要な確認事項です。 |
ステップ3 導入病棟、対象疾患の決定 | 【取り組み事項】 ・ステップ2をもとに大まかな再編の方針を決定 ・実績取り期間におけるベッドコントロールの運用方法とベッドコントロールを行う主力メンバーの決定(多職種による毎朝の小会議、プロフェッショナル人材の確立、個別医師の判断) 【ポイント】 ・地域包括医療病棟は細かい施設基準の達成のため、ベッドコントロール会議が重要な役割を持ちます。 ・弊社のご支援では、「日ごとの施設基準達成シート」を活用し、毎朝の多職種によるベッドコントロール会議での運営を推奨しています。 |
ステップ4 試行期間 兼 実績取り期間 | 【取り組み事項】 ・地域包括医療病棟においては、複数の施設基準を達成するために実績取り期間を通じて、疾患の入れ替えや救急搬送の受け入れ病棟の判断を毎日軌道修正していく。 ・試行期間前から無理に完璧なルールを決めないことが重要。 【ポイント】 ・最初から厳格な運用ルールを決めるのではなく、「日ごとの施設基準達成シート」を活用し、毎日、施設基準の達成のため、毎日少しずつの軌道修正をしていくことがポイントですそのために、毎朝のベッドコントロール会議は欠かせない役割を果たします。 |
ステップ5 届出・算定開始 | 【取り組み事項】 試行期間 兼 実績期間を数ヶ月過ごし、実績が整い次第、届出・算定開始 【ポイント】 ・最初から厳格な運用ルールを決めて基準を満たしていくことも良いですが、実績取得期間中は、日々の軌道修正で施設基準を達成していく考えを持つ。 |
コンサルタントとして地域包括医療病棟の導入をどう考えるか?
私は、地域医療包括病棟の導入は積極的に検討すべきと考えています。
内科系の高齢者救急の受け入れだけでは、施設基準の達成が難しいなどの政策趣旨とのギャップは確かにあるかもしれないですが、「軽症・中等症の高齢者の救急搬送者数が増加していること」「急性期病棟でのリハビリ介入が乏しくADL低下と在宅復帰が低下していること」の課題背景と向き合うと、難しい施設基準で踏み留まるのではなく、地域包括医療病棟の役割に則り、施設基準をクリアしていくという考えをベースに導入を検討することに尽きると思います。
地域包括医療病棟の導入を検討されている場合は、その意思決定のサポートができれば幸いです。
ご相談・お問い合わせ
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下記よりご確認いただけます。
本稿の執筆者
松村駿佑(まつむら しゅんすけ)
株式会社日本経営
中小規模の一般科民間病院、急性期系公立病院、精神科病院のコンサルティングに従事。支援実績としては、経営分析支援、経営改善支援(現場改善支援)、建替え基本構想支援、事業計画策定支援、将来事業構造検討支援など多岐にわたり経験。その中でも、経営改善支援では病棟機能再編による収益改善に強みを持つ。
株式会社日本経営
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