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地域医療連携を推進するデジタル化「RPAを活用した集患体制強化の具体策」

  • 業種 病院・診療所・歯科
  • 種別 レポート

地域医療構想の実現期限2025年を見据えた、診療報酬改定

病院経営において、「地域医療連携」というキーワードを耳にしない日はないような時代となっています。特に、令和4年度診療報酬改定では、それを促進する改定がなされました。

診断群分類点数表(DPC/PDPS)の見直しにより、約72%の支払分類で入院期間Ⅰの評価が高くなり、入院期間Ⅱの評価が低くなる改定がなされました。これはDPC請求において従来は入院期間Ⅱ以内を目途に平均在院日数コントロールをしていたものが、それをさらに短縮化させるインセンティブになると思われます。つまり、アキュート機能(急性期病床)のさらなる高回転化を意味します。

さらに、重症度、医療・看護必要度要件の見直しで、以前から議論となってきた心電図モニターが評価項目から外れています。その結果、重症度、医療・看護必要度の対象となる患者が限定されるため、要件を維持するために対象から外れた患者を早く退院させるというインセンティブが働くことになります。この両者が重なることでアキュート機能の高回転化が進みます。

それを裏付けるように、ポストアキュート機能としての回復期リハビリテーション病棟では、同改定で重症患者割合に係る要件の見直しが行われています。つまり、アキュート機能の高回転化に合わせて、ポストアキュート機能としての回復期リハビリテーション病棟で一定程度の重症患者を引き受けることが期待されています。

これらを補完するために、地域包括ケア病床では従来以上にサブアキュート機能が明確化されました。救急機能が要件化されるとともにサブアキュート機能を担っていない場合は、各種の減算措置が導入されています。

このように、新型コロナウイルス対応ばかりに目がいっていましたが、地域医療構想の実現期限である2025年を見据えて、機能分化と連携に向けてかなり踏み込んだ診療報酬改定となっています。

地域医療連携に効率的に取り組めていない要因

こうした変化は、機能分化した病床機能間での地域医療連携を強固に進めるように迫ってきます。まさに、陸上競技におけるリレー競技のバトンの受け渡しのように、前工程と後工程が息のあった地域医療連携が強力に求められています。

しかし、我々が多くの医療機関を見ている中で、地域医療連携部門が効率的に取り組めていないケースが散見されます。その原因は以下の3点にあるものと考えます。

  1. 院内の事務作業が煩雑で地域連携部門に人員を配置できない
  2. 地域連携部門の間接事務作業が煩雑で直接業務(渉外業務)に時間を投下できない
  3. 地域連携部門の直接業務自体が効率化されていない

それぞれを見ていきたいと思います。

1. 院内の事務作業が煩雑で地域連携部門に人員を配置できない

医療機関でもデジタル化として電子カルテの導入が進んでいますが、業務の中身を見てみると非効率な事務作業が存在しています。

病院の医療情報システムは、電子カルテなどの基幹システムと医事会計システムや薬剤部門システム、PACSなどの各部門システムを接続して構成されています。ここで、基幹システムである電子カルテと各部門システムは接続されていますが、各部門システム間の連携は不十分なケースが散見されます。その結果、月次の会議資料や年次の報告資料作成の際に各部門システムが保有する固有の情報を突合して資料作成をするために、各部門システムの情報をCSV形式で出力して、それをExcelで結合して資料作成するなどの事務作業が発生しています。電子カルテを基幹とした医療情報システムが導入されていることで一見デジタル化が進んでいるように見えますが、いまだに部門システム間のデータの収集・突合・結合などのためにPC上でコピー&ペースト等の手作業の事務作業が発生しています。

地域連携部門は、MSWや看護師、事務職員などで構成されることが多いのですが、各部門での事務作業が煩雑なまま残っているため、地域連携部門に人員を再配置できないケースがあります。

2. 地域連携部門の間接事務作業が煩雑で直接業務(渉外業務)に時間を投下できない

上記①の事象は、看護部門や事務部門だけで発生しているわけではありません。地域連携部門でも同様です。紹介元医療機関のデータベースと、院内の医師が返書を作成する文書作成支援システムが異なっています。これらの部門システム間のデータの収集・突合・結合などのためにPC上でコピー&ペースト等の手作業での事務作業が発生しています。
さらに、地域連携部門では別の課題も発生します。近隣医療機関とのコミュニケーションは、Eメールや地域連携ネットワークシステムなどのWEBをメインとしたネットワーク上で行います。一方、患者情報が記録されている電子カルテなどの医療情報システムは、WEBから切り離された院内の閉鎖ネットワーク上に存在しています。この異なるネットワーク上で情報をやり取りするための事務作業が発生しています。
こうした事務作業が煩雑なため、他の医療機関・介護施設への訪問(営業)などの渉外業務に時間を投下できなくなっているケースがあります。

3. 地域連携部門の直接業務自体が効率化されていない

本来、地域連携部門は、患者の受診動向や紹介元医療機関の紹介動向を分析し、増患・集患に関する情報部門および実行部門として、紹介を増やすために他の医療機関・介護施設への訪問(営業)を行わねばなりません。
紹介元医療機関の動向について前月比や前年同月比で比較分析できたり、紹介数に応じたパレート分析など重点紹介元分析ができたりする必要があります。あるいは、病床機能転換を進める近隣医療機関も増えているので、定期的に各地方厚生局の施設基準届を確認して、紹介元医療機関の施設基準を確認する必要があります。しかし、これらの体制が整っていないケースが散見されます。
その結果、地域連携部門に人員が配置されていても、直接業務に投下できる時間があったとしても、データ分析に基づいて効率的に渉外活動をすることが困難となっているのです。

地域医療連携を推進していくための施策

こうした課題がある中でも、病院経営としては地域医療連携を推進していく必要があります。それぞれ以下の対応が必要になると思われます。

  1. 事務作業をデジタル化&教育研修を強化し、地域連携部門に配置転換する
  2. 地域連携部門をデジタル化して、直接業務に時間を投下できるようにする
  3. 地域連携の直接業務もデジタル化して、データに基づく効率的な渉外活動を実現する

それぞれを見ていきたいと思います。

1. 事務作業をデジタル化&教育研修を強化し、地域連携部門に配置転換する

まずは業務効率化・デジタル化可能な業務の洗い出しが必要になります。院内スタッフの一人ひとりの業務を精査すると、日次・週次・月次など定期的に発生する定型反復の事務作業が存在します。日誌や週報、月次の会議資料の作成などです。こうした定型業務と患者サービスや医療行為などの非定型業務が、院内スタッフの中で混在しています。各自に混在している定型業務を分類し、それを集約化することが第一歩です。

そして、集約化した定型業務のうち反復する事務作業はデジタル化することで効率化できます。特に定型反復の事務作業は、PC内のロボットであるRPAが代替することが可能です。RPAに定型反復の事務作業を代替させて時間を創出した後は、教育研修を強化して渉外部門である地域連携部門に配置転換することができます。昨今は、教育研修ツールとしてのeラーニングシステムも普及しています。一般企業向けのeラーニングシステムではビジネスマナーや営業に関するコンテンツもあるため、渉外部門である地域連携部門への配置転換を推進することができます。

たとえば、こうした配置転換が上手くいき、1名のスタッフが地域連携部門に異動して毎月1名の新入院患者を新たに創出できたとします。入院診療単価(日当円)が35,000円・平均在院日数が20日の患者を毎月1名創出した場合の年間の新規創出額は840万円になります。RPA1台の年間コストは100万円を下回り概ね50~90万円なので、投資回収は容易です。

昨今、DX(デジタル・トランスフォーメーション)というキーワードを聞くこともありますが、これはD(デジタル)とX(トランスフォーメーション)という意味です。単なるデジタル化ではありません。さらにデジタル化で業務を効率化した上で、教育研修を行って地域連携部門に配置転換する組織変革(CX:コーポレート・トランスフォーメーション)が病院におけるDXだと思います。

2. 地域連携部門をデジタル化して、直接業務に時間を投下できるようにする

次に地域連携部門もデジタル化する必要があります。前述の①同様に業務分析を行った上で、業務効率化・デジタル化を進めていく必要があります。

たとえば、紹介元医療機関のデータベースと院内の医師が返書を作成する文書作成支援システムが異なっているとします。システムが違うので、データの収集・突合・結合などは、PC上で人力で作業されているのではないでしょうか。これもRPAなどを介せば、効率化・デジタル化が可能です。それぞれの部門システムから定期的にリストをCSV形式で出力し、それをExcel上で結合するRPAのシナリオを設定しておくことで、自動化が可能になります。
あるいは、Eメールや地域連携ネットワークシステムなどは、WEBをメインとしたネットワーク上で動いているが、電子カルテなどの医療情報システムはWEBから切り離された閉鎖ネットワーク上で動いているといったケースも多いでしょう。この異なるネットワーク上で情報をやり取りするための事務作業についても、それぞれのネットワークから定期的にリストをCSV形式で出力し、それをExcel上で結合するRPAのシナリオを設定しておくことで、自動化が可能になります(ただしネットワークが異なるため、ネットワーク間のデータの受け渡しには一部に人手を要する点は残ります)。

3. 地域連携の直接業務もデジタル化して、データに基づく効率的な渉外活動を実現する

昨今は病院経営に資する情報、特に年次の「病床機能報告」やDPC評価分科会の「退院患者調査」、月次の各地方厚生局の「施設基準等の管内届出状況」など公開データが入手しやすくなっています。こうした月次・年次で更新される公開データは、自動で収集するように効率化しておくことがポイントです。弊社でも毎月更新される各地方厚生局の「施設基準等の管内届出状況」はRPAで自動収集するようにしています。
また、前述①で作成された月次の会議資料をもとに自動で分析を進め、前月比・前年同月比や過去数年の紹介累積数のパレート分析などを行う体制を整備することもできます。つまり、地域連携部門のスタッフが「今、特に訪問すべき先はどこか?」が、データに基づいて効率的に示され、地域連携部門の渉外活動をサポートできるようになるのです。

これらの取り組みは、公開データや院内の会議資料をもとに、RPAやExcelのマクロ機能などを活用するだけで可能な取り組みも多くあります。病院DXや地域連携部門のデジタル化と聞くと大掛かりなことのように聞こえるかもしれませんが、こうした工夫で対応できることも少なくありません。特に地域連携部門のDXは、先に試算したとおり投資対効果が得られる可能性が高いです。

単なる業務効率化やデジタル化に収まらずに、地域連携部門への配置転換による集患体制の強化という真の病院DXを実現することが、今後の病院経営では求められるでしょう。

DXソリューションとしてのRPA

本稿の執筆者

太田昇蔵(おおた しょうぞう)
株式会社日本経営 副部長

大規模民間急性期病院の医事課を経て、2007 年入社。電子カルテなど医療情報システム導入支援を経て、2012 年病院経営コンサルティング部門に異動。現在は、病院CX (組織変革)のための人事制度改革を支援するとともに、D(デジタル化)のための医療情報システム・RPAの導入支援を手掛ける。2005年西南学院大学大学院経営学研究科博士前期課程修了、 2017 年グロービス経営大学院 MBA コース修了。

株式会社日本経営

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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