“新しい公共財”(シン・コモンズ)としての地域医療連携推進法人
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業種
病院・診療所・歯科
- 種別 レポート
レポート要約
- 地域医療連携推進法人を単なる資源共有の枠組みを超えた「新しい公共財(シン・コモンズ)」と定義する。
- 多層的ポートフォリオにより医療・介護の枠を超え、観光・交通・農業等の周辺産業へ事業を拡大。多角的な経営により経常利益を確保する。
- シェアリングエコノミーによるリソース共有を通じて、人材や車両等のリソースを共有し、参加法人のコスト構造を変革。経営効率の最大化を図る。
- DX・IXによる連携基盤の構築。複数法人間の意思疎通やリソース管理を最適化するため、デジタル技術(病院DX・産業変革IX)の活用が不可欠。
2026年の年始に弊社お役立ち情報で以下のレポートを公開しました。
■【病院も事業ポートフォリオを多層化し“経常利益”目線で考える時代へ】
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-organization-improvement-quality-130905/
今回はこの内容を深掘りして、地域医療連携推進法人の可能性について論考してみます。
“リソースシェアリング”と“複合的価値提供”の主体としての地域医療連携推進法人
冒頭のレポートでは、“産業・業界を超えたリソースのシェアリング”と“複合的な顧客価値提供”がカギとなること解説した上で、病院も事業ポートフォリオを多層化し“経常利益”目線で考えることを主張しました。具体的には、医療・介護に留まらず、観光、交通、農業など周辺産業へ事業スコープを広げること。そして、不確実性の高い時代においては、自院・自社以外をパートナーとする「共創」が重要になることをお伝えしました。こうした主張を補強する考え方をご紹介します。
2025年7月に安宅和人氏らが「「風の谷」という希望―残すに値する未来をつくる(※ⅰ)」という書籍を発刊しました。安宅氏は、「イシューからはじめよ」の著者としてや落合陽一氏との対談の中で「Withコロナ」という用語を2020年に考案したことでも有名です。本書では、「シン・コモンズ」という概念が示されています。この概念は“新しい公共財”という意味ですが、「単に資源を共有するだけでなく、参加し、貢献すること自体が価値を生む」という考え方のもと、“自由意志での参画”というプロセスを重視しています。この概念をNotebookLMで生成すると、下図のようになります。

この“自由意志での参画”と“資源の共有”という視点で医療業界を見てみると、地域医療連携推進法人との共通項が多数あります。
地域医療連携推進法人の有用性
地域医療連携推進法人とは、地域において良質かつ適切な医療を効率的に提供するため、病院等に係る業務の連携を推進するための方針(医療連携推進方針)を定め、医療連携推進業務を行う一般社団法人を都道府県知事が認定(医療連携推進認定)する制度(※ⅱ)です。その概念を先ほどと同様にAIで整理すると、下図のようになります。

この地域医療連携推進法人の構造をもう少し整理すると、非営利ホールディングカンパニー的な構造を持ち、各参加法人は法人格を維持したまま経営の自主権を保持していることがわかります。地域医療連携推進法人の理事会は、参加法人に対する意見具申権はありますが、法的な強制力はなく、そのため各参加法人は、まさに“自由意志での参画”となります。
地域医療連携推進法人は、病院等に係る業務の連携を推進するための方針(医療連携推進方針)を定めており、まさに法人格の名称が示す通りに地域医療連携を推進することで、地域に貢献することを目的としています。これは前述したシン・コモンズの「参加し、貢献すること自体が価値を生む」という目的と整合します。これらを同様にAIで整理すると、下図のようになります。

シン・コモンズとは新しい公共財という意味であり、その目的は前述したとおりです。一方で、そのビジネスモデルとしては公共財という名称が示す通りシェアリングエコノミー(※ⅲ)となります。このシェアリングエコノミーについて病院業界でどのように考えるかは、過去に弊社お役立ち情報で以下のレポートを公開しています。
■【地域共生社会を創造するための病院経営戦略
~“4つの経営機能”を活かした医療MaaS・DXの実現~】
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-finance-organization-quality-114097/
上記レポートのように、人材や通院・通所用の送迎車両、運転手を公共財として地域医療連携推進法人が所有し、各参加法人はそれをシェア(共同利用)します。これは、個別法人が保有していた経営資源を、地域全体の共有資産へと転換する取り組みです。そうすることでコストを各参加法人でシェアできるため、コスト構造を抜本的に変革することができます。これらを先ほどと同様にAIで整理すると、下図のようになります。

このように地域医療連携推進法人という組織形態を選択(組織変革)し、それによってコスト構造を変革することが可能になります。当然、複数の法人が自由意志で参画しているため、法人間のコミュニケーションが重要となります。そこでICTなどデジタル技術の活用が必須となります。
地域医療連携推進法人を介して複数法人の病院DXを推進する
弊社では2022年から下記レポートのように「DX=D×CX」という公式を用いて病院DXの必要性を訴えてきました。
■【医療DXとは?取り組み事例からみるDXの必要性と進め方
~「デジタル化≠DX」を踏まえた医療DX~】
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-quality-89023/
このように2022年から組織や企業の変革のCXだけでなく、産業構造自体を変革するIX(産業変革:Industrial Transformation)にまで至るケースもあることを訴えてきましたが、新しい公共財としてシェアリングエコノミーを実現するためには、地域医療連携推進法人の各参加法人を横断したDXが求められます。各参加法人間の意思疎通を可能とするデジタル化を進め、その結果として保有するリソースを地域の公共財としてシェアすることが必要です。
産業を越えたシェアリングで地域の真の公共財へ
この効果は公的医療保険の範囲にとどまりません。冒頭で紹介したレポートのように、複合的な顧客価値提供を行うには、“医療×交通、医療×観光、医療×農業といった掛け算”が必要となります。そのため、産業を越えたシェアリングが進み、コスト構造は抜本的に変わります。冒頭のレポートで紹介したように“保険収益と保険外収益の事業ポートフォリオを最適化”させ、“経常利益ベースで黒字化” を目指す経営へと転換していくことになるでしょう。
今回は医療領域における“新しい公共財”(シン・コモンズ)としての地域医療連携推進法人を論考しましたが、前述した安宅氏のプロジェクトでは、主に地方部をイメージした開疎空間におけるコミュニティ形成の土台としてシン・コモンズを意識しています。かなり簡略的な表現にはなりますが、コミュニティへの移住などメンバーシップと関係性設計の前提となる考え方です。この考え方は、以前公開した以下のレポートとも共通項が多いです。
■【ブランド確立による医療職採用マーケティング】
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-organization-improvement-quality-126797/
上記レポートで詳述したとおり、地域共生社会の実現に取り組み、地域に貢献するというパーパスを実現している病院では、そのブランドが確立されます。またブランドが確立されることで、地域や社会からの信認が高まり、クラウドファンディングによる資金調達が可能となったり、地元住民の就職希望先として上位に選ばれたりしています。つまり、地域に真に貢献するという共通の目的のもとで、コミュニティへの移住と同様に採用においてもメンバーの自由意志による参画につながります。こうした“採用力強化”も期待できるでしょう。
冒頭のレポートのように、これからの病院経営は公的医療保険の枠内にとどまらず、“保険収益と保険外収益の事業ポートフォリオを最適化”させ、“経常利益ベースで黒字化”を実現していくことが求められます。そのためには、こうした医療業界にとどまらない考え方も参考としながら、新たな事業のあり方を構想していくことが未来を創造するカギとなるでしょう。
なお、弊社ではこのように事業ポートフォリオの多層化やグループ病院化の支援を行っています。皆様との共創を通じて、お役に立てればと思っています。また、こうした複数法人・複数施設で求められる真の病院DX支援も行っています。ご関心がございましたら、下記よりお気軽にご相談ください。
■グループ病院・事業多層化問い合わせページ
■グループ戦略策定ご案内資料
■病院DX特設サイト
Q&A 例
Q1:地域医療連携推進法人を「新しい公共財(シン・コモンズ)」と考えるのはなぜですか?
A1:単に資源を共有する仕組みにとどまらず、各法人が「自由意志で参画」し、地域貢献という目的のために連携すること自体が新しい価値を生む「新しい公共財(シン・コモンズ)」としての性質を持っているためです。
Q2:地域医療連携推進法人の仕組みを利用して、具体的にどのようにコストを削減しますか?
A2:例えば、専門人材や送迎車両などを特定の病院が単独で所有するのではなく、連携推進法人が公共財として所有し、参加法人がそれらをシェア(共同利用)することで、各法人の個別コスト負担を軽減することが可能になります。
Q3:病院が医療以外の産業(交通や農業など)と連携するメリットは何ですか?
A3:保険診療収益にのみ依存する経営構造から脱却し、保険外収益を含めた事業ポートフォリオを最適化することで、経常利益ベースでの経営安定化と、より広範な地域課題の解決(地域共生社会の実現)が可能になる点です。
「医師マネジメント専門サイト」もご活用ください
※ⅰ)安宅和人「「風の谷」という希望―残すに値する未来をつくる」
※ⅱ)厚生労働省「地域医療連携推進法人制度について」(2025年1月5日閲覧)
※ⅲ)グロービス経営大学院 MBA用語集「シェアリングエコノミー」(2025年1月5日閲覧)
本稿の執筆者

太田昇蔵(おおた しょうぞう)
株式会社日本経営 部長
大規模民間急性期病院の医事課を経て、2007年入社。電子カルテなど医療情報システム導入支援を経て、2012年病院経営コンサルティング部門に異動。
現在、医師マネジメントが特に求められる医師数の多いグループ病院・中核病院のコンサルティングを統括。2005年西南学院大学大学院経営学研究科博士前期課程修了、2017年グロービス経営大学院MBAコース修了。2023年~総務省:経営・財務マネジメント強化事業アドバイザー。
【論文・寄稿】
・データドリブンアプローチのための病院DX人材育成(2025年)
・建築費高騰時代に,建て替えを実現するための病院DXの活用(2025年)
・タスクシフティングのための事務作業効率化(2020年)
・事務長は病院IT化を幹部職員育成の場に活かすべき(2014年)
・中小規模病院での組織マネジメントの脆弱性がHIS導入への障壁となる(2012年)
株式会社日本経営
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