医療法人・病院のM&Aの動向や特徴とおさえるべき6つのポイント
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業種
病院・診療所・歯科
- 種別 レポート
医療法人・病院におけるM&Aは、医師の後継者不足や経営者の高齢化に加えて、事業承継への考え方に意識の変化が出てきており、第三者承継が年々増加しています。
また、地方では事業承継型のM&Aに加えて、地域統合・再編型のM&Aが増加傾向にありますが、地方に限らずコロナの影響により経営母体の異なる統合事例が増えてきています。
そこで、ここでは、病院のM&Aについて、医療法人に焦点を絞り、医療法人・病院のM&Aの特徴やスキーム、全体の流れやおさえるべき6つのポイントについて解説します。
医療法人・病院のM&Aの特徴
医療法人・病院のM&Aの特徴は、企業のM&Aとは異なり、株式交換や株式移転など組織再編の手法がありません。医療法人か個人事業か、医療法人の場合「出資持分あり」「出資持分なし」の違いでもM&Aの手法は異なります。
また、医療法人・病院のM&Aは、一般のM&Aに比べて医療法など、より専門的な知識が必要なのも特徴の一つです。
次に、医療法人・病院のM&Aのスキームについて解説します。
M&Aのスキーム
医療法人・病院のM&Aのスキームは、合併、事業譲渡、出資持分譲渡があります。
それぞれのスキームについて詳しくみていきます。
合併 | 2つ以上の法人を1つの法人に統合することにより行われます。 新設合併と吸収合併の2つの方法がありますが、原則は吸収合併となります。 |
事業譲渡 | 特定の事業に関する資産等を一括して他の法人に譲渡することにより行われます。 閉鎖と開設を同時に行うことから行政の理解が前提となります。 |
出資持分譲渡 | 議決を行使できる社員たる地位を譲渡します。 一般的には出資者=社員であることが多いことから出資持分譲渡という形で行われます。 |
医療法人(病院)の合併のポイントやメリット
一般的な合併のポイントは以下の通りです。
- 間接コストの合理化が期待できる
- 人材配置が流動的に行える
- 同一医療圏の場合は、病床の移動が可能になる
- 組織文化の統合が困難
- リスクが集中化する
合併の一番のメリットは、同一医療圏の場合、病床の移動が可能というところです。
例えば、青色の医療法人が200床、黄色の医療法人が100床あった場合、黄色の医療法人100床のうちの50床を青色の医療法人に移動させることができます。
また、一つの医療法人になることで、理事長を2人から1人にすることも可能です。
合併の場合、リスクが集中化しますので、すぐに合併に移るのではなく、リスクが出ないことが確認できてから合併に移ることがほとんどです。
合併前後に置ける法人類型
- 持分なしの医療法人と持分なしの医療法人が合併した場合は、持分なしの医療法人となります。
- 持分ありの医療法人と持分ありの医療法人が合併した場合は、持分なしの医療法人か持分ありの医療法人のどちらかを選択することができます。
- 持分ありの医療法人と持ち分なしの医療法人が合併する場合は、持分なしの医療法人しか選択することができません。
税務問題なども論点となるため、あらかじめ税理士に相談しておく必要があります。
合併のスケジュールや期間
合併は、行政への事前相談から始まります。
その後、法人格の問題や税金の問題について事前調査を行います。
合併のスケジュールでの特徴は2つあります。
1つ目は、医療審議会を得る必要があることです。
都道府県によって異なりますが、医療審議会が年に2回行われるところもあれば、年に4回行われるところもあります。医療審議会がいつ行われるのか、またその書類をいつまでに提出する必要があるのか、行政に事前相談した際に確認しておきましょう。
2つ目は、債権者保護手続きがあることです。
債権者保護手続きとは、債権者の利益を保護する目的で、債権者に対して意義申し立てができる旨を公告し意義を申し立てた債権者には、弁済、担保提供等を行うことです。
通常2ヶ月ほどの期間を設けられていますが、合併においては、金融機関や取引先で問題がないか官報に公告しておく必要があります。
合併では、これらの手続きが必要なため、約1年程の期間がかかります。
医療法人(病院)の事業譲渡のポイントやメリット
事業譲渡とは、医療法人や会社がその事業を譲渡することをいいます。
例えば、医療法人Aと医療法人Bの2つの医療法人があります。
医療法人Bには、X医院とY老健があり、Y老健のみを売りたい場合、事業譲渡という手続きをとります。事業譲渡する場合、経営主体が変わることから、医療機関の閉鎖と開設の届出が必要です。
そのため、事前に行政に事業譲渡を進めることの承認を得ておきましょう。
また、医療法人(病院)を事業譲渡する場合、地域医療構想との関係もあるため、地域医療構想調整会議にかけていく必要があります。予め各都道府県によく相談しておきましょう。
その他、医療法人(病院)の事業譲渡では、経営主体が変わることから、譲渡される医療機関に従事している従業員は、一旦退職をして再雇用する手続きをとる必要があります。
そのことから、従業員の同意書が必要なことや、一旦退職するため職員が流出する可能性もあります。
また、個別の資産や取引ごとに譲渡の手続きが必要で、契約の見直しを行わなければいけないため、多くの手間がかかってしまうというデメリットがあります。
一方、薄外債務を引き受けるリスクを遮断するメリットもあります。
事業譲渡のスケジュールや期間
事業譲渡は、基本合意契約を締結し行政に事前相談にいきます。
その後、デューデリジェンス、病床がある場合のみ地域医療構想会議にかける必要があります。
その際、地域に情報が開示されてしまう可能性があるため、職員説明会をいつ行うのか検討します。
職員の個別の契約や取引先との契約を再度行う必要があるため、最低でも2~3ヶ月の期間を設けましょう。
事業譲渡は、説明会や契約手続きなどの関係から、期間は最低でも半年以上かかります。
医療法人(病院)の出資持分譲渡のポイント
出資持分譲渡では、譲渡側の医療法人の出資金や社員権を一緒に譲渡することになります。また、出資持分譲渡は、従業員との雇用契約や取引先との契約をそのまま継続することができます。
公的な手続きは、役員の交代があった場合の届出だけで済むので、行政や医師会への事前相談は必要なく、当事者同士で進めることができます。
出資持分譲渡の場合、進め方によっては、約1~2ヶ月で完結させることが可能です。
また、事業だけでなく、医療法人ごと引き継ぐことになることから、医療法人に関わる医療提訴、労働提訴、診療報酬不正請求等のリスクも引き継ぐことになります。
そのため、医療法人を引き継ぐ際には、デューデリジェンスで事前におさえておく必要があります。
M&Aでおさえるべき6つのポイント
医療法人・病院のM&Aでおさえるべきポイントをまとめました。
譲渡側の6つのポイント
- 最低でも3年前から検討を進める
- 院内の誰にどのタイミングで説明するかを十分注意する
- 交渉の際は隠し事をせず、ネガティブなこともありのまま伝える
- 職員、地主等の利害関係者に対しては、手を抜かず誠意を持って対応する
- M&Aは破談が付き物。交渉中も気を緩めずに日常の経営にあたる
- 売ってやるは禁物。譲受側には感謝の気持ちを持って接する
譲受側の6つのポイント
- 何のために譲受するのかという目的を明確に持つ
- 日頃から人材育成に力を入れ、院長、事務長、看護部長を派遣できるぐらいの組織体制にする
- 秘密保持は必ず守る
- 交渉は相手の状況を汲み、厳しさの中にも思いやりの気持ちを持って対応する
- M&Aの進行の過程で多少のトラブルがあっても広い心で受け止める
- 譲受後は法令順守を徹底する
日本経営グループのM&A成功事例と実績
日本経営グループでは、国内最大級の医療クライアント数となる、約1000件の病院・クリニックの会計顧問を務めております。従って日常から医療機関を経営されている先生方のご相談に乗る機会も多く、こうした経験の蓄積から第三者承継・M&Aについても適切なサポートやアドバイスが可能です。
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