事業ライフサイクルを踏まえた経営戦略 ~ヘルスケア産業への参入という事業戦略~
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業種
病院・診療所・歯科
企業経営
- 種別 レポート
会計事務所を母体とした経営コンサルティングファームとして、弊社では数多くの組織(企業・病院等)の経営支援を行っています。2024年10月からスタートした弊社の新・中期経営計画 (※ⅰ)では3つの全社公認プロジェクトが新設されました。その一つには新しいテクノロジーを持ってヘルスケア産業へ参入することを意図するベンチャー企業を発掘し、その成長・発展を支援するプロジェクトがあります。私はそのプロジェクトの統括を担うことになったため、弊社がスポンサー企業となっている福岡市のFukuoka Growth Next (※ⅱ)をはじめとした各地の創業支援施設などを通じて、ベンチャー企業を含む医療関連企業の方との接点も増えています。
事業ライフサイクルを踏まえた長期戦略
ベンチャー企業など創業期ではよく「0⇒1」というキーワードが出てきます。しかし、実際は「0⇒1」だけでなく、「1⇒10」、「10⇒100」と表現されるように、組織の発展段階に応じてとるべきマネジメント施策は異なってきます。一般的に「事業ライフサイクル (※ⅲ)」は、事業規模の変化を“導入期”“成長期”“成熟期”“衰退期”の4つに分け、S字カーブで表現されます。この変化に応じて、マネジメント施策を変えていく必要があります。以前、弊社代表取締役の橋本は以下のレポートを弊社お役立ち情報で公開しています。
■部族型組織から町型・都市型組織へ/日本経営のケイエイ
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-care-enterprise-organization-110617/
上記レポートで橋本も主張していますが、「0⇒1」段階では、まさに部族長のようなベンチャー起業家が活躍する部族型組織が効果を発揮しやすく、「1⇒10」段階の安定事業の場合は集落型組織が比較的効果を発揮します。このように事業ライフサイクルに応じて、採用すべきマネジメント施策は異なってきます。当然、組織マネジメントの中核である人事制度のあり方についても異なります。こうした組織人事マネジメント領域については、弊社の松本が下記のレポートを公開しています。
■企業成長のための組織モデルと人事戦略 〜4つの経営機能で実現する段階別アプローチ〜
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-finance-organization-quality-115936/
さて、前述した事業ライフサイクルでは、最後に“衰退期”を迎えることになります。そこで、企業を永続発展させるためには、メインの事業が“成熟期”を迎えたころに、他の事業が“成長期”を迎えるように事業投資をしておかなければなりません。このように絶えず総体としての企業が成長発展するためには、各事業のライフサイクルを踏まえた事業構成を考えておく必要があります。
“成熟期”の利益を市場成長領域へ“選択的”に投資する
事業構成を考える際のビジネスフレームワークとしては「PPM (※ⅳ)(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)」が有名です。PPMは“市場シェア×市場成長率”で事業を類型化し、多角化した事業を整理するためのビジネスフレームワークと捉えられることが多いです。それだけではなく、PPMは事業ライフサイクルを踏まえた投資領域を考える際にも活かすことができます。つまり、事業ライフサイクルを踏まえて、“どの利益をどこに投資するか?”を判断する際にも活用されます。なお、病院事業におけるPPMでの投資意思決定についても触れた弊社お役立ち情報のレポートがあるので、下記をご参考ください。
■“7S”で考える病院経営のトップ方針 ~“4つの経営機能”で整理する病院経営の具体策~
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-finance-organization-quality-114485/
上記レポートでは病院事業においてのPPM活用に触れていますが、これはどの事業においても同様です。市場シェアは高いが、市場成長率が鈍化して投資が少なく済む“成熟期”は利益を創出しやすいです。この利益を市場成長率が高くまだ市場シェアが確保できていない事業へ“選択的に投資”することが重要になります。
つまり、第一ステップとしては今後の対象市場の“市場成長率”が重要な判断材料になります。そこで、多くの企業は人口が増加し、市場成長が見込まれる海外展開を視野に入れています。一方、国内市場は人口減、特に生産年齢人口減という市場縮小の話が多く出てきます。では、国内市場に市場機会は存在しないのでしょうか?
ヘルスケア産業の市場性
弊社はヘルスケア産業のお客様が多く、病院事業では累計で1,600件を超える病院の経営支援を行ってまいりました。また、2002年より医療IT製品の常設総合展示場MEDiPlaza(メディプラザ)を東京・大阪・福岡で運営し、IT企業を中心に医療業界へ参入する企業のマーケティング支援を行っていました(※現在、展示場事業は廃止)。
そこで、累計1,600件以上の病院経営支援で得た知見と20年以上続く医療関連企業マーケティング支援のノウハウを踏まえて、“医療関連企業向けマーケティング支援を形式知化・類型化”し、主にヘルスケア産業へ参入する際の案内役を担っています。なお、今後のヘルスケア産業の動向については、弊社お役立ち情報で下記レポートを公開しています。
■地域共生社会を創造するために医療関連企業ができること
https://nkgr.co.jp/useful/enterprise-healthcare-114193/
弊社が得意とするヘルスケア産業には参入企業が増えています。MBAでのケーススタディでも取り上げられるように、製造業であった富士フイルム株式会社は、“フィルム⇒デジタル”という外部環境の変化を踏まえて、フィルム製造のコア技術であったコラーゲンや酸化防止技術を活かして、今はヘルスケアを重点領域にする企業へと大きく変貌しています。他にもアルコールメーカーが、サプリメント製造などのヘルスケア産業へ参入するなど、枚挙にいとまがありません。
前述したように市場成長率を見る際には、対象市場の人口は重要な着眼点になります。日本は少子・高齢化が進んでいますが、高齢者人口はまだ増加します。厚生労働省が推計した国民医療費 (※ⅴ)は、下図のように“約1.7倍”へ増加します。国内では数少ない市場成長領域です。
そこで、前述したように“成熟期”の企業が、国内において数少ない市場成長領域であるヘルスケア産業へ参入する事例が増えています。
水先案内人の必要性
PPMのポイントで“選択的に投資”と述べましたが、判断の論点は“市場シェアを獲得できるか?”です。多くの企業が参入してこなかったように、ヘルスケア産業は法規制や独特の商慣行、さらに医学なども関連する専門性が求められます。そのため、“高齢者人口はまだ増えるので儲かりそう”という判断だけでは、事業の成功は難しくなります。業界の特殊性を踏まえた上で“市場シェアを獲得できるか?”を判断するには、こうした業界事情を踏まえた水先案内人が必要となります。
また、前述したように事業ライフサイクルで、採用すべきマネジメント施策は異なります。複数の事業を同一企業内で行う場合、“成熟期”の町型組織や都市型組織に、「0⇒1」の部族型組織が同居するケースがあります。その場合、異なるマネジメント施策が同居することで、事業間のハレーションが生まれることがあります。特に、同じ建物や同一フロアに同居する際には、その行動様式や年収水準が可視化され、不満の要因となることもあります。
前述したPPMについて触れたレポートでは、M&AにおけるPMIにも触れていますが、新規事業に取り組むことでM&Aと同じようなハレーションが、組織内に発生する可能性もあります。そこで、先ほどの弊社レポートのような人事制度の整備なども論点になってくるでしょう。
なお、前述したように弊社ではヘルスケア産業へ参入する水先案内人の役割を担う事業を行っています。累計1,600件以上の病院経営支援で得た知見と20年以上続く医療関連企業マーケティング支援のノウハウを活かしてご支援しています。
さらに、こうした事業構成の組み換えに伴って起きる組織マネジメント上の対応も人事コンサルティングとして支援しています。あわせてご関心があれば、下記をご参考ください。
【医療関連企業マーケティング支援】
https://www.wic-net.com/images/search/ppt/p-529.pdf
【医療業界参入支援】
https://medical-marketing.nkgr.co.jp/
【組織人事コンサルティング】
https://nihon-keiei.co.jp/service/enterprise/organization-ent/personnel-system-construction/
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※ⅰ https://nihon-keiei.co.jp/company/management-plan2024-2027/
出所:株式会社日本経営「2024年10月~2027年9月 中期経営計画の策定・公開」
※ⅱ https://growth-next.com/about
※ⅲ https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-12245.html
出所:グロービス経営大学院 MBA用語集「事業ライフサイクル」
※ⅳ https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-20790.html
出所:グロービス経営大学院 MBA用語集「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントPPM」
※ⅴ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000207382.html
厚生労働省「2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)」等について
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本稿の執筆者
太田昇蔵(おおた しょうぞう)
株式会社日本経営 部長
大規模民間急性期病院の医事課を経て、2007 年入社。電子カルテなど医療情報システム導入支援を経て、2012 年病院経営コンサルティング部門に異動。
現在、医師マネジメントが特に求められる医師数の多いグループ病院・中核病院のコンサルティングを統括。2005年西南学院大学大学院経営学研究科博士前期課程修了、 2017 年グロービス経営大学院 MBA コース修了。
株式会社日本経営
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