4つの経営機能”を具体化させる各種フレームワークの使い方

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業種
病院・診療所・歯科
- 種別 レポート
昨年(2024年)末に弊社お役立ち情報で以下のレポートを公開しました。
【“7S”で考える病院経営のトップ方針】
~“4つの経営機能”で整理する病院経営の具体策~
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-finance-organization-quality-114485/
上記レポートは、地域共生社会 を見据えて病院業界の外まで領域を広げるケースでの“4つの経営機能 ”の具体策を考えた内容です。今回は、業界横断のIX(産業変革)まではいかず、病院事業のみの場合での“4つの経営機能”の考え方について論考してみます。
各種フレームワークで“4つの経営機能”を具体化する
上記レポートでもお伝えしたように、弊社では、現代表取締役の橋本が考案した、“4つの経営機能”というフレームワークを用いて、事業戦略立案をサポートすることが増えています。これは“トップ方針”、“戦略・計画”、“役割・権限”、“実行プロセス”という、4つの枠組みで経営機能を整理するモデルです。
これを現場でより使えるようにするためには、各枠組みでの取り組みを下図のように具体化することが重要です。

まず、「トップ方針」の言語化です。“7S “とは事業戦略における、幾つかの要素(Shared value(共通価値観・経営理念)、Style(意思決定スタイル・社風)、Staff(人材)、Skill(スキル・能力)、Strategy(戦略)、Structure(組織構造)、System(システム・制度))の相互関係を表わすものです。この7Sでトップ方針を言語化します。
次に、「戦略・計画」についても同様に進めます。「戦略・計画」は、それぞれに分けてフレームワークを用いて具体化します。まず、戦略については複数事業所を保有する法人・組織では“PPM (Product Portfolio Management)”を活用して整理します。PPMは、“市場成長率×市場シェア”というマトリクスで整理するポピュラーな経営戦略立案のフレームワークです。このPPMで組織全体のポートフォリオを整理し、事業の“選択と集中(捨象)”を行います。当然、捨象することで撤退すべき事業も出てくることになります。個別の事業所単位では“SWOT分析 ”、特に“SWOTクロス分析”のSO戦略(積極戦略、S:強みとO:機会の共通項から導き出された方針)がカギとなります。
計画は“BSC ”を活用して立案することが多いです。BSCを考案したキャプラン氏自身も著書の中でSWOT分析を行ってBSCを作成することを提唱していますが、SWOTクロス分析で出てきたSO戦略は、BSCの「顧客の視点」になることが多いです。
以前公開した下記レポートにも記載していますが、数多くの病院・介護施設においてSWOT分析やSWOTクロス分析のワークショップ研修をご支援してきた経験から考えると、医療・介護業界での重要成功要因の基本は「顧客の視点」です。“●●エリアの地域医療に貢献する”、“●●の疾患領域を充実させる”など、患者や利用者へ貢献する内容が掲げられることが多いです。そのため、SO戦略が、BSCの「顧客の視点」にそのまま入ることになります。
【BSCを活かした医師マネジメント】
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-organization-95184/
そこで、SWOT分析とBSCが、まさに「戦略・計画」となります。このBSCで作られた計画を実現する「役割・権限」を具体化したものが、人事制度における「等級制度」となります。これは7Sの“組織構造”や“意思決定スタイル”を具体化した“システム(組織システム)”です。弊社では等級制度設計時には「役割等級制度」を用いて設計することが多いです。
また、7Sの“人材”を確保するための“システム(組織システム)”として、働き方改革関連法、特に2020年の同一労働同一賃金の施行以降は「複線型コース」を導入することが増えてきています。コロナ禍以降は、どの産業でも働き手不足が顕在化しており、働き方の選択肢を提示できる「複線型コース」の重要度が高まっています。以前のレポートでも触れましたが、医師でも「複線型コース」を導入することが増えています。
その際に、働き方コースで基本給に差をつける場合、同一労働同一賃金の論点が出てくるので“同一の労働か?”の判断基準となる「責任の程度」と「職務の内容及び配置の変更の範囲」を踏まえてコースを設計する必要があります。この「責任の程度」を等級制度で、「職務の内容及び配置の変更の範囲」を「複線型コース」で整理します。そこで「等級制度」と「複線型コース」は、それぞれを縦軸と横軸のマトリクスにすることで下図のような「複線型(コース別)等級制度」として導入することが多いです。それによって、労務対応も行った上で、組織の中での「役割・権限」を具体化します。

「複線型(コース別)等級制度」の詳細は、弊社お役立ち情報の下記レポートをご参考ください。
【働き手不足時代の病院エリア別組織戦略】
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-finance-organization-quality-103598/
この「複線型(コース別)等級制度」によって、従業員一人一人の役割・権限が明確になるので、前述したBSCに基づく計画を遂行する役割分担ができるようになります。BSCでは、戦略マップによるストーリー性を伴った要素間の因果連鎖と重要成功要因に基づくKPIで、それぞれ言語化・定量化されます。この言語化された定性的な内容を「行動評価」、定量化された内容を「目標達成度評価」、として“システム(組織システム)”を整備します。そうすることで「戦略・計画」及び「役割・権限」に基づいた人事評価制度となり、「実行プロセス」が推進されることになります。これらを構造化すると下図のようになります。

各種フレームワークの整合性がカギ
このように、“4つの経営機能”を具体化する上で、単に様々なフレームワークを使えば良いのではなく、それぞれがつながるように取り入れていくことがカギとなります。SWOT分析とBSCの連携は考案者のキャプラン氏自体が提唱していますが、こうした相性の良いフレームワークを取り入れていくことで、“4つの経営機能”は具体化していきます。
弊社では“経営力=戦略の妥当性×実行の徹底度”とお伝えすることが多いですが、最終的な経営力は、“実行の徹底度”に起因するところが多いと感じます。そのため、「実行プロセス」の作り込みがカギとなると思います。“4つの経営機能”の枠組みの中で、“7S”や“SWOT分析”、“BSC”などのフレームワークで整理し、それを“複線型(コース別)等級制度”や“人事評価制度”などの人事制度(組織システム)に落とし込むことで、実行プロセスが回りだし、実行の徹底度が高まるのだと思います。
なお、上記“4つの経営機能”は、業界・業種を問わずに使用できるフレームワークです。弊社では病院業界のお客様が多く、特に複数事業所を保有するグループ病院のご支援の中でも活用することから、冒頭に示した弊社レポートのような地域共生社会推進の一環の中で“4つの経営機能”の考え方を活用した取り組みをしています。グループ病院の支援については、それ以外の論点もあるため、下記のように案内をまとめています。ご参考になさってください。
■グループ病院ガバナンス強化パッケージ
https://nkgr.co.jp/wp-content/uploads/2025/01/250125A4.pdf
■医師マネジメント強化パッケージ
https://nkgr.co.jp/wp-content/uploads/2024/10/6d70ba3d46821142607fb26de721573e.pdf
■医師人事マネジメント事例集
https://nkgr.co.jp/wp-content/uploads/2024/09/cd2ff598dc066a512d2127b149198423.pdf
■職員アンケート(ESナビゲーターⅡ)事例集
https://nkgr.co.jp/wp-content/uploads/2024/11/85be7e4643a8ae9999ce3f2e1fcf346d.pdf
以上
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※ⅰ https://www.mhlw.go.jp/kyouseisyakaiportal/
出所:厚生労働省「地域共生社会のポータルサイト」
※ⅱ 橋本竜也「「組織マネジメント」実践論――4つの“経営機能”向上で成長をドライブ」2022年
※ⅲ https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-12513.html
出所:グロービス経営大学院 MBA用語集「7S Seven S Mode」
※ⅳ https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-20790.html
出所:グロービス経営大学院 MBA用語集「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント PPM」
※ⅴhttps://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-11679.html
出所:グロービス経営大学院 MBA用語集「SWOT分析」
※ⅵ https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-11920.html
出所:グロービス経営大学院 MBA用語集「バランスト・スコアカード(BSC)」
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私たちは、医師マネジメントを高次化し
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本稿の執筆者

太田昇蔵(おおた しょうぞう)
株式会社日本経営 部長
大規模民間急性期病院の医事課を経て、2007 年入社。電子カルテなど医療情報システム導入支援を経て、2012 年病院経営コンサルティング部門に異動。
現在、医師マネジメントが特に求められる医師数の多いグループ病院・中核病院のコンサルティングを統括。2005年西南学院大学大学院経営学研究科博士前期課程修了、 2017 年グロービス経営大学院 MBA コース修了。
株式会社日本経営
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