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海外人材採用戦略!海外人材(介護職・看護補助職)が「長く働きたくなる」採用・育成戦略

  • 業種 介護福祉施設
  • 種別 レポート

採用をゴールにしない海外人材採用戦略!
医療・介護業界の採用課題の“突破口”海外人材(介護職・看護補助職)が「長く働きたくなる」採用・育成戦略

現在の日本の医療・介護現場において、人材不足は喫緊の課題です。特に看護補助者の領域では、求人を出しても応募が集まりにくく、採用できても早期離職が多いなど、安定的な人員確保に苦戦する状況が続いています。
そうした状況の中で、国内人材に加え海外人材の採用を検討する法人も増えています。採用戦略の見直しにおいて、海外人材をどう育成し、定着させるかが重要です。このレポートでは、採用課題を乗り越える手段として、海外人材活用のポイントを解説します。

なぜ今、海外人材なのか?人手不足と新たな採用動向

海外人材の活用は、かつては言語や文化の壁、受け入れ体制の不安から一歩踏み出せず、導入に迷う法人も少なくありませんでした。しかし、近年では政府による制度整備も進み、多くの医療機関や介護事業所で導入が進められ、実際に成果を出すケースが飛躍的に増加しています。

このような変化が起きているのは、日本における人材不足などの課題と、海外人材の優れた能力が影響しているためです。

 外国人材から見た医療・介護分野の職種としての評価

外国人労働者数は年々増加傾向にあり、その中でも医療・介護分野で働く外国人材の割合は顕著に伸びています。実際、過去7年で5.5倍に増加しており、日本人が介護職を選ぶ割合は3.2%にとどまる一方で、日本で働く外国人の5.1%が介護分野に就いているというデータがあります。※

介護分野では、介護福祉士国家試験に合格することで在留資格「介護」を取得でき、在留期限の制限なく介護の仕事に就くことができるうえ、家族を帯同することも可能です。
こうした背景から、目的意識を持って介護職を選ぶ外国人が増えており、介護職が外国人にとって一定の評価を得ている人気の職種であることがうかがえます。

これは、日本の少子高齢化や医療・介護ニーズの高まりに対応するため、国として海外人材の受け入れを積極的に推進してきた結果とも言えます。
実際に、彼らは日本社会を支える大切な存在となりつつあります。

「長く働きたい」「成長したい」という外国人材の高い意欲

多くの外国人材は、自国ではなかなか得られない専門スキル習得やキャリアアップの機会を求めて来日しています。彼らは非常に勤勉で、「長く日本で働き、成長したい」という高い意欲を持っています。

ある調査によると、海外人材が職場で困っていることの第1位は「キャリアアップの方法を知りたい」、第2位は「もっと仕事のトレーニングを受けたい」という結果が出ています。一方、日本人を対象に同様の調査を行うと、職場での悩みとしては、給与や待遇への不満、人間関係や仕事内容に対するストレスなどが多く挙げられています。

ここで注目すべきなのは、日本人と外国人の違いではなく、どちらも「困り事」がそのまま転職理由につながるという共通点があるという点です。つまり、こうした「困りごと」への対応が、職場への定着率を高めるポイントになります。

海外人材の採用戦略においては、彼らの成長の可能性を最大限に引き出すことが重要です。そのためには、「知識や技術を学べる環境づくり」や「適切な期待の伝え方」、さらに「明確なキャリアパスの提示」が欠かせません。海外人材の持つ可能性をいかに活かすかが、今後の採用戦略の成否を左右すると言えるでしょう。

「採用して終わり」の落とし穴:定着失敗に共通する課題

海外人材の活用に可能性を感じ、実際に面接を経て採用に至ったものの、「2年で転職してしまった」「現場が混乱してしまった」といった経験談も、残念ながら耳にします 。こうした失敗事例の多くに共通するのは、「採用そのものが目的化してしまい、受け入れ後の準備や育成計画がおろそかになっている」という点です 。

 具体的には、以下のような状況が見られます。

  • 制度への理解不足とあわてて行った受け入れ: 技能実習や特定技能など、複数の外国人材受け入れ制度が存在しますが、それぞれの在留資格の条件、必要な教育支援体制、費用などを十分に理解しないまま、人手不足に焦って、受け入れてしまうケースがあります 。制度の適用条件や特性を把握しないままでは、適切な目標管理ができなかったり、ミスマッチや予期せぬトラブルにつながりかねません。
  • 教育体制の不備と現場への丸投げ: 外国人材向けの具体的な教育プログラムや、業務内容を分かりやすく伝えるためのマニュアルが整備されていない場合が多く見られます 。結果として、現場の日本人職員に指導が丸投げされ、現場の負担が増大するだけでなく、外国人材も十分な指導を受けられずに孤立してしまうリスクが高まります。
  • キャリアパスや育成・評価体制の未整備: 外国人材が日本で働く上で、将来的にどのようなスキルを身につけ、どのような役割を担い、キャリアアップしていくのか、在留期限を考慮した具体的な道筋が提示されていない実態があります。キャリアパスが未整備のままでは、指導計画も立てることができず、指導者もどこを目標において、いつまでに何を指導、評価をすれば良いのかが分からなくなります。外国人から見ると、業務手順は教えてもらえるが、本当に知りたい知識・技術・根拠を学ぶことができない、キャリアアップする方法が分からない、学びたいのに学べないというフラストレーションが高まってしまいます。

このような「受け入れ体制の未整備」が要因となり、たとえ優秀な人材を採用できたとしても、その能力を十分に発揮させられず、組織に根づくことなく離職してしまう事態を招きかねません。重要なのは、採用することだけを目的とするのではなく、採用後の定着や活躍までを見据えて取り組む視点を持つことが重要です。

制度の前に考えるべき「組織としての受け入れ設計」

外国人材の受け入れには複数の制度があり、それぞれに異なる条件や特徴があります 。しかし、本質的な課題は制度の複雑さそのものにあるのではなく、「制度の違いばかりに意識が向き、本来考えるべき『組織としての本質的な準備』が後回しになっている」ことにあります 。

 中長期的な視点での人員構成予測:

今後5年、10年といったスパンで、日本人職員の退職や定年、新規採用の見込みなどを踏まえ、自法人の人員構成がどのように変化していくのか、具体的なシミュレーションを行います。そのうえで、若い人材が今後どの程度のペースで減少していくのかを具体的な数値やデータで把握し、海外人材の採用と定着の目標値を設定します。

求める人物像(採用ペルソナ)の設定

5年後、10年度、組織としてどうありたいか、それを実現させるためにはどのような人物が活躍していてほしいか、そのためにはどのような人物をいつまでにどれくらいのスピードで採用していきたいかを明確にしていきます。ビジョンや目指す姿をもとに、育成したい人材像や採用したい人物像を明確にし、海外人材の面接で重視すべきポイントについて話し合っていきます。 

採用後の育成・役割付与のビジョン

単純な労働力確保だけでなく、将来のリーダー候補や専門職や指導者として育成するビジョンを描きます

このように病院・介護施設ならではの組織全体の人材設計(外国人材活用のグランドデザイン)が明確であれば、各制度のメリット・デメリットを深く比較検討し、費用対効果や教育負担のバランスを考慮した上で、“自法人にとっての海外人材雇用の正解”、すなわち「海外人材雇用の最適解」を見出すことが可能になります 。

成功事例から学ぶ「育成と定着」を実現する3つの視点

海外人材の活用を成功させ、彼らが長期的に組織で定着し、活躍している医療機関や介護事業所には、ある共通点があります。それは、「採用後の育成・定着」に対して、具体的かつ継続的な投資と計画を立てていることです 。ここでは、特に重要となる3つの視点をご紹介します。

1. きめ細やかな「サポート体制」の構築と多文化への理解

外国人材が日本での生活や仕事に慣れるまでには、言葉や文化の違いによる様々な困難に直面します。これを現場の日本人職員だけに負担させるのではなく、組織全体で支える仕組みが成功の鍵となります 。

  • 外国人職員同士の「ペア制度」や「メンター制度」の導入: 共通の母国語の先輩職員が、新規採用者の生活支援(役所手続き、買い物、病院受診など)や業務上のフォロー(仕事の悩み相談、人間関係のサポート)を行う仕組みは非常に有効です 。これにより、外国人材の孤立防止や心理的安全性の確保、さらには先輩外国人材の成長にも良い影響を与えます。

  • 多文化理解と尊重: 宗教(食事、礼拝の場所や時間)や文化、習慣への理解を深め、柔軟に対応する姿勢が求められます 。多様な背景を持つ職員が互いを尊重し合う組織風土を醸成することが、定着率向上につながります。

2. 業務の「標準化」と「分かりやすさ」の徹底

言語の壁を乗り越え、外国人材がスムーズに業務を習得し、正確に遂行するためには、業務プロセスの徹底した可視化と標準化が不可欠です。

  • 母国語と日本語を併用したマニュアル整備: 業務手順書や申し送り事項などを、日本語だけでなく外国人材の母国語でも併記することで、理解を深め、誤解を防ぎます。写真やイラストを多用することも有効です 。
  • 段階的なOJTとOFF-JTの組み合わせ: 日常業務を通じたOJT(On-the-Job Training)だけでなく、座学やロールプレイング形式のOFF-JT(Off-the-Job Training)を定期的に実施し、体系的に知識・スキルを習得できる機会を提供します。特に、専門用語や日本の介護特有の表現については、集中的なトレーニングが効果的です 。

3. 明確な「育成KPI」と「キャリア設計」の提示

外国人材の高い学習意欲や成長意欲を維持し、長期的な定着に繋げるためには、具体的な目標設定と、それに対する公正な評価が不可欠です 。

  • 具体的な「育成KPI(人材育成の進捗の見える化のための達成指標)」の設定: 例えば、「入職3ヶ月で車椅子移乗を独立して実施」「2年以内に日本語N3を取得する」「6年以内に介護福祉士を取得する」「7年目以降にリーダー的役割を担う」といった具体的な目標を設定します 。

  • キャリアパスの提示: これらのKPIを達成した後のキャリア展望を明確に提示することで、外国人材は自身の将来を見据え、モチベーション高く業務と学習に取り組むことができます 。
  • 定期的な評価・フィードバック面談: 定期的な面談を実施し、目標達成度合いの確認、業務上の課題の洗い出し、今後の成長に向けた具体的なフィードバックを丁寧に行います 。

これらの具体的な取り組みを通じて、外国人職員が持つ真面目さや高い向上心が、既存の日本人職員にも良い刺激となり、現場全体の雰囲気が活性化された、という成功事例が数多く報告されています。

現場のジレンマと「先を見据えた育成」の必要性

現場で指導している職員が、外国人材の在留期限や介護福祉士取得の必要性を知らないまま、日々の業務指導に終始してしまうことも少なくありません。いくら手塩にかけて業務を教え、素晴らしい人材に育てたとしても、在留資格の期限が過ぎて帰国せざるを得なくなるという事態は避けなければなりません。

「今何ができるか」だけでなく、「いつまでにどんな目標を設定するか」「いつどういう目標があるから、いつまでに何を学習すべきか」といった「未来を見ながら今を見る」視点こそが重要です。業務手順だけでなく、日本語能力、知識、技術、そして最終的なキャリアアップといった各要素に対して、具体的な育成KPIを設定し、適度な課題を与え続けることで、外国人材のモチベーションを引き出し、定着に繋げることができます。

制度ではなく、「設計」から考える外国人材活用

海外人材の採用において、確かに複数の制度やその違いを理解することは重要です 。しかし、最も強調したいのは、それ以前に「病院・介護施設の事業計画と将来像を見据え、どんな人材を、どのように育成し、組織の中でどのように活躍させたいのか」を具体的に言語化することこそが出発点である、ということです 。

この「組織設計」が明確になって初めて、各制度のメリット・デメリット、費用対効果、そして各病院・介護施設が負担すべき教育コストのバランスを適切に比較検討し、“自法人にとっての海外人材雇用の正解”、すなわち「海外人材雇用の最適解」が見えてくるのです 。

海外人材の有効的な活用は、決して簡単な道のりではありません。言語や文化の壁、在留資格の手続き、受け入れ後の育成支援など、乗り越えるべきハードルがあることも事実です。だからこそ、これらの課題に対し、正しい情報を得て正しい意思決定をしていく必要があります。正しい情報が揃うことで、受け入れに向けた準備と育成定着を見据えた戦略設計が可能となります

準備と戦略立案を正しく行うためにも、必要に応じて知見のある専門家の助言を受け、将来を見据えた対策が必要です。海外人材の伸びしろを最大限に活かし、採用をゴールにしない海外人材の採用戦略を描いていきましょう。

※参考資料:

厚生労働省『介護労働実態調査』(令和5年度)
厚生労働省『介護サービス施設・事業所調査』(令和5年10月1日現在)
総務省『労働力調査(令和5年平均)』 
法務省『在留外国人統計(旧登録外国人統計)』
一般社団法人シルバーサービス振興会『介護職種における技能実習指導員から技能実習生への適切な技能移転のあり方に関する調査研究 事業報告書』

介護と言えば、日本経営!

本稿の監修者

郷美由季(ごうみゆき)
介護福祉コンサルティング部

看護師として医療・介護現場や講師を経験。その後、事業会社にて介護職向け教育商材の教務企画や、海外人材事業の立ち上げを担い、日本経営に入社。医療・介護業界における人材の採用・育成・定着の促進や、海外人材の導入支援を専門とする

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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