緊迫する中東情勢:日本の医業経営への影響
~上野厚生労働大臣の会見から考える、供給網の混乱とコスト高騰への対策~
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業種
企業経営
- 種別 レポート
2026年4月、イランを巡る「緊張」は新たな局面を迎えています。これは、日本とは関係のない遠い国の出来事ではなく、日本の医療現場を支える物資の供給や医業経営のベースに影響を与える可能性のある「危機」となりつつあります。
先日の記者会見において、上野厚生労働大臣(以下、上野大臣)は「中東の不安定な情勢に伴う医薬品・医療機器の安定供給への影響を注視している」と述べました。本コラムでは、イランを巡る「緊張」が日本の医療機関にどのような影響を与えるのか、「物流と供給」および「医業経営」の2つの視点から考えていきます。
1. 海のルートの混乱:薬の原材料が届かないリスク
上野大臣は会見の中で、「中東周辺の航路が避けられている影響で、医薬品の入荷に遅れが出始めている」と言及しました。これは、世界的な物流の不安定さが、日本の医療機関への資材供給に影響し始めていることを意味しています。
輸送ルートの変更による「時間的なロス」と「品質悪化への懸念」
中東を通過する輸送ルートが使えなくなったことで、船舶はアフリカ大陸を大きく迂回するルートを選んでいます。これにより、荷物が届くまでの期間が通常より2〜3週間程度長くなっています。
ここで特に注意が必要なのが、温度管理を必要とする医薬品です。輸送期間が延びれば、ワクチンやバイオ医薬品などの鮮度を保つためのコストが膨らみ、品質を維持する難易度も高まります。上野大臣も「品質管理を徹底するよう業界に求めた」と述べており、これまで以上に、きめ細やかな配送管理の徹底が求められています。
医薬品の「もと」となる原材料の不足
日本の医薬品製造の多くは、海外で作られた原材料(原薬)に頼っています。中東近隣にある工場の稼働が不安定になれば、特定の抗生剤などが日本で不足する恐れがあります。
企業としては、単に「欠品です」という事実だけを伝えるのではなく、「代わりに使える医薬品はあるか」「次に入荷する日程の見込み」といった情報を、医療機関に対して適切に届けることが重要とされています。
2.「物価高騰」の波が病院のサイフを直撃
物流の混乱と同じく深刻なのが、エネルギー価格の高騰による医業経営への影響です。
電気・ガス代の負担増
24時間365日、ストップすることのできない医療機関の設備にとって、電気やガスの値上がりは大きな問題です。上野大臣は「政府としても地方創生臨時交付金などを活用して支援していく」としていますが、医療現場の負担は、日々増え続けています。
また、物流業界の人手不足問題に、今回の燃料費高騰が重なったことで、医療機器を届けるための「配送コスト」も、すでに限界まで膨らんでいると言えるでしょう。
プラスチック製品(消耗品)の値上がり
注射器、点滴セット、手袋などは、石油を原料とするプラスチック製品です。材料費や配送コストの高騰などにより、企業側としては、製品価格を改定せざるを得ない状況が続いていると言えるでしょう。
しかし、医療機関側も診療報酬制度により医療費の単価が決まっています。医療関連企業としては医療機関に対して「ムダな在庫を減らす工夫」や「消耗品のより効率的な使用方法の提案」などをセットで行い、医業経営を共に支えていく姿勢が重要です。
3. 今、医療機関にできること
上野大臣は会見で、「官民が協力して、どんな時でも国民が医療を受けられる体制を守る」と強調しました。今、医療関連企業にできることは、どんな時でも国民が医療を受けられる体制を維持するための情報を届ける「医療機関への橋渡し役」を担うことではないでしょうか。
■ 正確な情報の提供
政府の動きや供給予測をいち早く、かつ正しく伝えて、現場の混乱(不適切な買いだめなど)を防ぐ動き。
■ 医業経営を支えるための提案
在庫管理の効率化など、コストを抑えるための具体的な提案を行うこと。
■「もしものとき」の備え
災害や海外のトラブルで特定の品が届かなくなったときのために、代わりの手段や備蓄のあり方を医療機関と一緒に検討すること。
4. まとめ
今回の「イラン情勢の悪化」は、私たちが当たり前だと思っていた「医療資材の安定した供給」が、当たり前ではなく、いかに壊れやすいものであるかを痛感させられる出来事となりました。
医療関連企業の皆様が、各種医療材料の供給等にかかる情報を届ける「医療機関への橋渡し役」を担い、医療機関とともにこの困難を乗り越えていくこと。その積み重ねが「どんな時でも国民が医療を受けられる体制を守る」こと、加えて医療機関との強固な関係性の構築につながるのではないでしょうか。
【参考資料】
・厚生労働省|大臣記者会見
・厚生労働省|上野大臣会見概要(令和8年4月7日)
・厚生労働省|上野大臣会見概要(令和8年4月3日)
・厚生労働省|上野大臣会見概要(令和8年3月31日)
本稿の執筆者

谷村 槙哉(たにむら しんや)
株式会社日本経営 メディアコンテンツ事業部 課長
これまで医療関連企業28社に対するオウンドメディア支援、新規参入企業のPoC支援など、各種マーケティング支援事業や医療政策・診療報酬に関するコンテンツ制作に従事した。現在は、診療所向けの診療報酬改定セミナー等の講演に加え、診療所向けのメディア事業「診療所の経営企画部」の新規立ち上げに、事業責任者として携わる。
株式会社日本経営
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