地域包括ケアシステムの実現に向けた仕組み作り
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業種
介護福祉施設
- 種別 レポート
地域に選ばれる正しい方向性とは
- 本レポートでは、介護施設における運営実務のポイントについて、現場のコンサルティングの実例を踏まえてお伝えする。
- まずは複数回にわたり、介護施設の稼働率向上について具体策を交えたポイントを解説する。
理想は、実利(成果)に直結するか
前回の本レポートにおいて、営業活動は地域のため、お年寄りのためになるという大前提を述べた。
しかし、いくら理想は高く持とうと、現実問題目の前の稼動が改善していかなければ、営業力強化の取り組みは進んでいかない。
はたして、「営業活動の理想」は実利(成果)とも直結していくものなのだろうか。
結論から述べると、真に良いサービスを提供できている介護事業所であれば、互いの長所を持ち寄りながら、地域の中で永続的に共存していくことができると、はっきり言える。
なぜか。 それは行政が地域包括ケアシステムを強く推進しているからだ。
社会保障費の先細り感から、介護事業の先行きを不安がる声は多い。確かにどのような業界であれ、市場原理が働く以上は、将来まで安定ということは有り得ないことだろう。
しかし、行政が介護事業を根絶やしにしてしまおうと考えている、ということとは違う。
むしろ、社会保障費のシビアな調整は、この業界が先々まで運営できる方向性を目指してのものだ。
そして、当然ながらその方向性に賛同し、ともに歩むことを選んだ事業者こそが、これから先も生き残り、発展していく道を選びやすくなる。
では、その近道とは何か。それがこの地域包括ケアシステムなのだ。
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地域包括ケアシステムは理想論か
地域包括ケアシステムへの理解は、介護事業所生き残りのための近道である……
しかし、実際には本システム自体が掛け声と理想論にのみ終始しているという印象は、多くの介護従事者の中に根強くあるのも事実だ。
身近に次のような事例はないだろうか。
ある機能訓練特化型の通所介護では、短時間サービス、入浴なし、食事なしの運営形態を選択した。 地域包括ケアシステムの理想から考えれば、ピンポイントで利用者ニーズを叶えられる良いサービスと信じて始めたサービスだ。
しかし、現実は思うように集客が進まない。
地域のケアマネジャーからは「レスパイトのための長時間受入れや、入浴サービスをしてくれたら、ニーズがあるのですが」との声が聞かれている。
やはり、地域包括ケアシステムなどといっても掛け声のみで、実際地域の中では意味のない、単なる理想的な考え方のことではないか、と考えさせられてしまう事例だ。
自分たちの強みを伝えきれていないと捉える
実際、このような事例はいくつも聞かれるが、決して地域包括ケアシステムの不備がもたらしたものとは言い切れない。
中身を紐解いていくと次のような課題が浮かび上がってくる。
- このケアマネジャーが、適切なサービスの振り分けについてマネジメントできていない。
- 入浴特化型の通所介護など、適切なサービスが地域にない、もしくは知られていない。
- 自事業所の真の強みが地域に知られていない。
特にケアマネジャーのマネジメントについては、利用者自身のアセスメントからではなく、テンプレートでサービスを組み立てているというケースも多く、適切なサービスの選択ができていないということが生じている。
事例で言えば、入浴と機能訓練は全く別のニーズであり、お互いの回数やタイミングが重なるという例は本来まれなはずだ。
しかし実際には、機能訓練でデイサービスに行くのだから、ついでに入浴も、などと抱き合わせのようなプランニングがされてしまうことが頻繁に起きている。
例えば利用者自身は週に4回はリハビリを必要としているのに、入浴の週2回にあわせて通所のスケジュールが組まれてしまう、などだ。
本来、マネジメントがしっかりとしていれば、リハビリと入浴、それぞれに特化したサービスを使い分け、事例の通所介護にも本当に適した利用者が紹介されるようになるはずなのだ。
つまり、システム自身の不備と捉えるのでなく、使う側の問題と捉えることがスタートになる。地域包括ケアシステムはまだその本質を使いきれていないということに気付けば、これから有効活用できる余地が広がっていくということにも気付くだろう。
そしてそれは、前述のようにケアマネジャーのみの問題と捉えることも間違いであり、根本的には自分たちが自分たちの強みを伝えきれていないからこそ振り分けができていないと捉えられる。
それならば自分たちの強みを正しく伝えて正しい選択を促していこう、となるのが営業活動の基本的な考え方である。
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正しく伝え、正しく活用してもらう
この、地域包括ケアシステムの仕組みを活用し、「自分たちの強みが真に発揮できる利用者の紹介をもらえるような形」を作り上げることが営業活動の目的であるとするならば、そのために行うことは明確だ。
自事業所ではどのような利用者を受け入れることを得意としているかを正しく理解し、その強みを紹介者に正しく伝え、正しく活用してもらうことだ。
しかし、それは簡単に見えて簡単なことではない。
自分が変わっても、相手を巻き込まなければ成果に繋がらないからだ。
では、相手を巻き込むきっかけをつくる地域との関係作りとはどのように行うべきなのか。
次回、その関係作りの土台となる考え方、取り組みについて解説する。
レポートの執筆者
沼田 潤(ぬまた じゅん)
株式会社 日本経営 介護福祉コンサルタント
株式会社の運営する介護付き有料老人ホームにおいて介護職員から施設長までを経験後、北京に駐在し海外事業にも従事。2015年に日本経営に入社、主に介護施設における稼働率向上支援、介護サービスレベルの底上げ支援などを担当する。介護福祉士。
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