介護福祉における経理業務の効率化ノウハウ「AIやRPAの活用で入力業務の80%を削減する」
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業種
介護福祉施設
- 種別 レポート
経営者が考えるべき、経理業務の効率化・改革Vol.01
イノベーションによる経理業務の効率化・改革
日本経営ウィル税理士法人 / 峯 和也
経営環境が厳しくなる昨今、AIやRPAなどの技術進歩をどう経営に活用するか注目が集まっている。
会計の入力業務についても、技術に適応し、作業を効率化させ、経営に必要な分析業務に時間を充てる必要がある。
本レポートでは、経理業務をどう改善するか、具体的な施策を順を追って説明していく。
初回は、「イノベーションによる経理業務の効率化・改革」の概観について、取り上げる。
介護福祉の現場だけではない、バックオフィスでも人材不足
新型コロナにより、採用の潮目が変わったという声もある一方、介護業界の有効求人倍率は依然高く、多くの介護現場が人材不足で悩んでいる現実があると思います。
このことはバックオフィス(人事部、総務部、経理部など)も同様で、多くの法人で、事務長や事務方を支えてきた方の退職時期が近づいている一方、後継者を見付けることが困難な状況です。
弊社に寄せられるお悩みの中でも、特に多いお悩みが、今の担当者がいなくなると事務機能が回らなくなり、毎月の業務が回らない、または品質に不安があるという声です。
バックオフィスの救いとなるAIやRPA
昨今における人材不足には、重要な特徴があります。それは、「人材を補充するだけでは解決できない」ということです。
今と同じ業務の仕方を続ければ、人を補充したとしても、将来必ず同じ問題に直面します。
特に、コロナの影響で働き方の常識は大きく変化しており、求職者は「新しい常識」で職場を探すようになっています。この意識の変化に対応できなければ、人材不足の悩みから解放されることは困難です。
ここで注目されているのが、AI(Artificial Intelligence、人工知能)やRPA(Robotic Process Automation、ロボットによる業務自動化)など、昨今の技術進歩です。
細かい仕組みなどは割愛しますが、AIやRPAは次のような特徴があります。
長所 | ・作業が正確である ・作業スピードが人に比べて圧倒的に早い ・24時間365日、働き続けることができる |
短所 | ・アクシデントに弱い ・あらかじめ指示したことしかできない ・複雑な作業をさせるには、多くの指示命令が必要になる |
RPAは教えられたことしか出来ないため、よく「新入社員」に例えられますが、教えられたことは正確にハイスピードで処理してくれます。
いかに上手に活用するかが、バックオフィスの人材不足解消の大きな鍵になってくるはずです。
経理業務をRPAに代替する
ところで、バックオフィス業務の代表例が「経理業務」です。
特に、会計の入力業務は、AIやRPAとの親和性が非常に高く、給与計算ソフトや経費精算ソフトから出力したデータを会計ソフトに読み込ませることが容易にできます。
人の手で入力するとケアレスミスの可能性もありますが、ロボットが行うとミスがなくなる上、短時間で完結できます。
ほかにも、バックオフィス業務の中には、毎月、決まった資料を見て入力する反復作業が少なくなく、ここにRPAの長所が活かされます。
しかし、紙で郵送されてきた請求書の入力作業などをRPAで処理することは困難です。
データで送ってもらうか、もしくは資料をスキャンしてデータ化するなど工夫して、RPAへの代替を検討することになるでしょう。
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介護福祉のバックオフィスに必要な変革
このようにAIやRPAを効果的に活用すれば、過去のデータの整理・入力といったような作業が、大きく削減されていきます。
しかし経営者にとって大切なことは、 AIやRPAを活用する目的です。
確かに人員・人件費の削減、コストカットは重要な戦略です。しかし、それによってバックオフィスの役割を小さくすることは、私は望ましくないと考えます。
それよりも、新たに捻出した時間を本来のバックオフィスの役割のために使うことが重要です。
具体的には、AIやRPAが作成した情報を読み取り、自法人の強みや課題を特定し、経営力向上のために活かすことです。
経営は放っておけば傾いていくようにできています。しかし、きちんと分析して対策を続ければ、必ず改善していきます。
バックオフィスのこの本来の機能は、法人・施設にとって、極めて重要な役割になるはずです。
数字を「作る」仕事から、数字を「使う」仕事にシフトする。これがAIやRPAの本当の目的であり、そこにはこれまで以上のスキルが必要になるでしょう。
そこにやり甲斐やモチベーションを感じられる職員をいかに配置するか、育てるか。ここに経営者の役割があります。
バックオフィスの具体的な改善方法
ところで、具体的には、どのように会計業務をRPAに代替していけばよいのでしょうか。
例えば、会計ソフトへの入力業務です。
会計ソフトへの入力業務は、所要時間のうち、概ね40%が現金取引の入力、40%が預金取引の入力に費やされていると言われています。
売上や仕入など「発生主義」に関する入力は全体から比べると僅かであり、入力時間の80%は現預金に関するものだというのです。
つまり、現預金の入力を効率化するだけで、入力作業の半分以上を削減することができます。
そこで、下記のような改善ができないか検討することになります。
・クレジットカード積極的に利用し、会計ソフトに読み込ませる
・ネットバンキングを利用し、会計ソフトに読み込ませる
・売上や給与の情報は紙媒体でなくデータで提供してもらい、会計ソフトに読み込ませる
クレジットカードやネットバンキングの利用は、最初に使用ルールを整備する必要がありますが、紙の書類を無くすことができれば、データを会計ソフトに読み込ませることは、難しくはありません。
導入時は労力が掛かりますが、以降の作業効率を考えると早いうちから着手すべきです。
「AIで仕事がなくなる」という報道もありますが、RPAやAIが人間の仕事の全てを代替することは不可能です。
むしろ、技術革新によって生産的に働けるスキルを取得することのほうが急務で、このことが、バックオフィスの人材不足を解消し、経営を改善・向上させるための重要な舵取りになるでしょう。
このレポートの解説者
峯 和也(みね かずや)
日本経営ウィル税理士法人 介護福祉事業部
介護福祉業界に特化した財務コンサルタントとして従事。過去100件近くの介護福祉事業者に対して、財務分析、経営改善計画、モニタリング業務などを担当。現在は、ICT技術や管理会計を活用して、業績向上と生産性向上の両立を目指す経営管理体制を構築。介護経営アドバイザー、経営品質協議会認定セルフアセッサー取得。
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