コンサルタントの心に残るエピソードVol.02「最良の選択のために、あらゆる手段を使っても満点は出ない」
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業種
病院・診療所・歯科
介護福祉施設
企業経営
- 種別 レポート
「最良の選択のために、あらゆる手段を使っても満点は出ない」
株式会社日本経営 / 次長 松浦 総太郎
3名の候補者のうち1人を、次期部門長に選ぶ
人事評価制度の構築をコンサルティングした後、円滑に運用できるようサポートしている病院のお客様があります。
こちらの病院では、毎期、私が幹部職員と面談をしているのですが、その事前打ち合わせをしていたときの話です。おもむろに院長から「少し依頼したいことがあるのだが、いいだろうか」と言われました。
お聞きすると、「Aさん、Bさん、Cさんの3名に、マネジメント意識についてヒアリングをしてほしい」と言われます。
この3名は、次期に部門長に昇格する候補者です。
誰か1人を任命しなければならないが、偏った判断になるといけないので、第三者の視点からも意見を聞きたいと言われるのです。
私は、「これは大変重要なご依頼をされたものだな」と思いました。
院長室を出ると、そのまま面談時間に入り、部門長候補3人にヒアリングをすることになりました。
一人につき1時間半。私から水を向けると、3名とも部門のありかたについて、色々な考え、想いなどを話してくださいました。
その晩、報告書をまとめながら、私はかなりのプレッシャーを感じていました。「この内容が、病院の大きな意思決定に少なからず影響を与えるかもしれない」というプレッシャーです。
決断には、膨大な準備とぶれない覚悟が必要
後日、報告書を携えて病院を訪れました。
院長室に向かうと、机の上に様々な意見書、院内レポート、研修受講レポート、サーベイの結果などが並んでいます。
「これは…膨大な資料ですね」
私がそう言うと、院長はこうおっしゃいます。
「部門長のような重要なポストの任命は、組織の核を決めることにほかならない。私も半年かけて、これらの資料を揃えてきた。しかし、まだ決めかねている。部門長になるのは1人だけだ。
こういった決断は、膨大な準備とぶれない覚悟が必要だが、どれだけやっても満点は出ない。それでも、満点に近づくためにあらゆる手段を使いたい。本人、周囲、患者、病院、あらゆる観点から最適な判断をしたいと思っている。」
私は、組織をマネジメントされているトップの重責の大きさを再確認しました。
そして、そんなプレッシャーの中で、私は院長に報告することになったのです。院長から次々と質問が飛んできます。
- 「彼らは、この病院をどのようにしたいと言っていたか?」
- 「彼らは、自分の部署の長所と短所をどのように認識していたか?」
- 「彼らは、自分が病院内で期待されていることは何だと思っていたか?」
- 「彼らは、自分の部下の〇〇をどのように見ているか?」
- 「彼らは、別の二人のことをどのように見ているか?」
一つひとつの言葉や熟考する姿には、すさまじいエネルギーと熱量がありました。苦悩と葛藤とプレッシャーを如実に表していました。
経営者にしかわからない苦悩や悩み
数ヵ月後、任命されたのはAさんでした。
部下や他部署からの評判も良く、誰もが納得しました。
しかし、私が何よりも感動したのは、選ばれなかった2名に対する対応です。院長はこの2名には別の特別な役割を任命され、お2人も十分にキャリアを活かして活躍されているのです。
苦悩している様を曝け出して見せてくださった院長の姿は、私の心の中に深く残っています。
「君らの仕事は、経営者しか分からない苦悩や悩みをサポートすることなんだぞ。分かってくれているか。」そんなメッセージを、後ろ姿で語ってくださったのだと、いまでは思っています。
一つひとつの意思決定に、トップしか分からない葛藤や悩みがある。そこに答えて成果を出していくためには、私たちも経営者以上に悩み、考え抜かなければならない。
それがこの仕事の大きな誇りと責任であり、喜びなのだと、教えていただいたエピソードです。
このレポートの解説者
松浦総太郎(まつうら そうたろう)
株式会社 日本経営 次長
医療法人、社会福祉法人を対象に70件以上の組織・人事改革実績を有する。人事制度構築をはじめ、管理職・一般職への教育にも従事している。医療機関、社会福祉協議会、各種団体での講演実績(累計50回以上)その他、各種団体での多数の講演実績がある。福祉マネジメント修士(専門職):2014年日本社会事業大学大学院。
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