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病院の働き方改革の事例 「健康経営センター」が設立された土壌。

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  • 業種 病院・診療所・歯科
  • 種別 レポート
  • 政府が「働き方改革」を推し進める中、各医療機関では長時間労働等厳しい勤務環境への対応はもちろんのこと、同一労働同一賃金など法改正自体への対応も迫られている。
  • 「働き方改革」は、単なる長時間労働の是正に留まらない。「医療の質」と「職員の健康」という2つの重要テーマを、「経営」という基盤のもといかにして成り立たせるか。ここに改革の本質がある。
  • 名古屋第二赤十字病院 名誉院長の石川清氏(健康経営センター産業医、愛知医療学院短期大学 教授(学長見習い))に、その取組みとビジョンを伺った。

 

― 本日はありがとうございます。貴院は2018年3月に、東海3県初となるJCI(Joint Commission International)認証を取得し、さらに4月からは院長による健康経営宣言のもと「健康経営センター」を立ち上げて、いち早く「医療の質」と「職員の健康」の実現に向けて取組んでおられます。

「働き方改革」への対応が求められる中、「健康経営」を掲げ取組まれている貴院の取組みについて、伺いたいと思います。まずは、「健康経営センター」の立ち上げについて、そのきっかけを伺えますか?


医師の働き方改革石川氏
 もともと組織運営をしていく中で、「職員が健康になれば組織は良くなり、経営も良くなる」という想いがありました。そのような中で2、3年前、経済産業省の「健康経営優良法人」ホワイト500の記事を読んだとき、「これはきっと病院にも必要になる」と考えたのです。ただ、当時はJCI取得という大きなプロジェクトを抱えていました。まずはJCIの取得に集中しようと考え、健康センターの立ち上げは、今年になって実現することになりました。

 

健康経営センターでは、具体的にどのような取組みをされているのでしょうか?


石川氏
 当院では数年前、職員の健診データ等を一元管理できるクラウドを用いたシステムを導入し、産業医により全職員の面談を実施してきました。今回、センターを立ち上げ、それをさらに発展させるべく、職員一人ひとりが自らの健康増進を意識し、心身ともに健康で活き活きと働くことができるような取り組みを考えてきました。具体的には、一人ひとりに面談を実施し、運動不足、悪い食習慣等を改善するために、職員のための禁煙外来や、忙しくて運動する時間がないという職員に対してリハビリ室を17時以降開放したり、院内レストラン業者と交渉して健康メニューの導入をしたりしてきました。

 

― 初年度から多くの具体的な取組みを推進されているのですね。一人ひとりに面談と言われましたが、医師に対してもなさっているのでしょうか?


石川氏
 はい、検診の面談は全ての医師に行っています。働き方改革では、特に医師は長時間労働が問題となってきますが、必ずしも長時間働いている医師が高ストレスとは限りません。100時間以上の時間外労働の医師は全員行っていますが、45時間以上程度の時間外でも問診票でストレスが高いと判断される職員は面談を行っています。高ストレスの職員をリスト化することで優先順位をつけて面談を行い、最悪の事態を防いでいくことが重要だと考えています。

 

― 面談の実施率は100%だとお聞きしています。なぜそこまで徹底できるのですか?


石川氏 
対象となる職員のうち事務的な対応に応じない職員に対しては、特に、医師がほとんどですが、直接、私がメールや電話で催促をしているのが効果的なのかもしれません。あとは、もちろん、トップの姿勢も重要でしょう。当院では2018年4月に院長が健康経営宣言を発信しましたが、病院も変わっていかなければいけない中でトップがその姿勢を示すというのは重要だと考えています。

ただ、当院の場合は、健康経営センターを設立する以前から、その前身となる健康対策室がしっかりと機能していたということも大きいのではないかと思います。実は、この健康対策室の設立には、少し面白い話がありまして、当院では従来より、コーチングに力をいれているのですが、以前、私が産業医の先生(現健康対策室長)にコーチングをしていましたが、そのコーチングの中で、先生から健康対策室設立のアイデアが出され、それが実現したという経緯があります。当時から現在の状況をイメージしていた訳ではありませんが、その時の働きかけが、現在の健康経営センターの実績にもつながっていると感じています。

 

― 一人の医師の課題意識が健康対策室の設立に繋がったというお話は、大変興味深いです。「働き方改革」は「生産性改革」なしには実現しないと思うのですが、「生産性向上」には、一人ひとりの職員の主体的な行動が不可欠です。

貴院のコーチングというコミュニケーション手法は、その一翼を担っているのだと思います。トップ一人が頑張り指示を出すのではなく、一人ひとりの課題意識をいかに吸い上げ組織の改善につなげていくか。これが、経営力の差となって表れてきそうです。


石川氏
医師の働き方改革 そうですね。「経営力の差」といった意味では、職員の健康支援に力をいれることで、優秀な人材に選ばれる病院になっていくというのも狙いの一つです。また、私は「高い職員満足のもとでこそ、良い医療が提供できる」と考えているので、そういった意味でも体制づくりはしっかりと行っていく必要があると考えています。

 

― 人材を育て、一人ひとりが自律的に活躍する。そんな組織としての土壌があるからこそ、健康経営センターを始め、貴院の制度や仕組みはしっかりと機能していくのでしょうね。


石川氏
 そうであって欲しいなと思いますね。(笑)

 

― 私どもは、「働き方改革」の成功には、法令遵守は必須。差が出てくるのは、いかに「個々に求める成果」が組織として明確になっているかという「厳しさ」と、互いに信頼し、共感しあう組織文化による「温かさ」の両方の実現が不可欠だと考えています。

そういった意味では、職員が厳しさの中でもやり抜くための、コーチングを含めた上司の共感力・マネジメント力の向上は欠かせないのだと思いました。


石川氏
 共感力の重要さは身にしみて感じています。それはマネジメントの場面だけでなく、対患者とのコミュニケーションでもそうです。患者の発言の表面的なところだけをみるのではなく、その奥にあるものをみてあげないと真に患者さんに寄り添うことはできないと思います。

 

― なるほど、そういうことですね。自分たち自身の取り組みが、患者さんへの対応力向上に繋がっていく。仕組みや制度はあっても機能していない組織も多いのですが、貴院がうまくいっていらっしゃる秘訣が垣間見えた気がします。


医師の働き方改革石川氏
 上手くいっているかは分かりませんが(笑)、「そうだったらいいな」という想いと、これからも職員の健康支援を通して、「組織が職員を大切にしている」ということがしっかりと職員に伝わり、結果として医療の質が上がっていくといいなと思います。

 

― 本日は大変貴重なお話を伺うことができました。ありがとうございました。

(聞き手:株式会社日本経営 植田なつき)

 

 

 

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