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医療・介護業界で整えるべき人事制度とは?採用に有利な制度作りをご紹介

  • 業種 介護福祉施設
  • 種別 レポート

医療・介護業界では「人事制度がない」「人事制度はあるが、本質的に機能しているのかわからない」というケースがあります。人材育成や採用が難しくなっている昨今、人事制度の重要性は年々高まってきています。
本記事では、医療・介護業界で整えるべき人事制度や、設計時のポイントなどを解説します。

人事制度と問題点

人事制度とは職員の処遇を決める重要なシステムであり、等級制度、人事評価制度、賃金制度で成り立っています。しかし、多くの施設では等級の数、賃金制度の根拠、人事評価制度の内容などが具体的に落とし込みができておらず、人事制度の目的から外れていることも少なくありません。

企業には理念やビジョン、戦略があり、戦略を実行する組織の仕組みが必要です。仕組みの動力やビジョンの実現のために人事制度があるのが理想です。

また人事制度が仕組みとして落とし込まれていないと、事業継続にも影響があります。

たとえば経営者の頭の中に人事制度や戦略がある場合、経営者が現役であれば効果的に採用や事業拡大が行えます。しかし、経営者の頭の中に戦略を永久に留めておくことは難しいですし、経営者もいずれは引退するでしょう。継続的に事業拡大を行うためには、確立された制度とする必要があります。

人事制度の必要性

ここからは人事制度の必要性を外部・内部の環境変化から見ていきます。

外部環境の変化

外部環境では、時代や事業規模に合わせた法人のステージの変化を考える必要があります。

【解決策】時代や法人の変化を人事制度に落とし込む

人件費を適正化させるためには、時代や法人の変化を人事制度に落とし込むことが重要です。
たとえば、昔は多くの職員が成果主義で、出世を目的に頑張っていましたが、現在は働き手の目的が多様化しています。出世はしたくない、それよりもワークライフバランスを大事にしたいなど、働き手が企業に求めることが変わってきています。
加えて法人のステージも事業規模に合わせて変化していくため、その変化に合わせて人事制度を変えていく必要があります。特に、目標や経営理念を実現する組織は確実に変化していきます。外部環境の変化による売上と昇給のバランスを考えた人事制度が必要です。
また処遇改善加算や都道府県の認証制度など、医療・介護業界の採用をサポートする制度もあります。これらの制度を利用するためには、適切な仕組みの整備が不可欠であり、効果的なサポートを受けるためにも人事制度が必要と言えます。

内部環境の変化

内部環境の変化で考えるべきことは「離職率」です。なぜなら、離職率の高い職場では人員不足だけでなく、サービスの質の低下、職員の処遇の低さなどさまざまな問題が発生するためです。これらの問題は連動しており、負のスパイラルとなる可能性が非常に高いため、人事制度を整えて離職を抑えることが重要です。

【解決策】人事制度整備による不安の解消

人間関係の最初の綻びは「方法の相違」にあります。結果は同じでも、教える人によって方法が違うと新人は混乱し、それがきっかけで離職してしまいます。職務の基準・マニュアルを整備し、法人としてやり方を統一・整備することで、新人の安心感につながるでしょう。

また現在の介護業界で給与が高いか低いかよりも重要なことは、自分の将来が見通せるかどうかです。給与の算定根拠がわからない、今後の給与事情や役職の想像がつかないなど、キャリアパスが整備されてないと将来が見えずに転職してしまいます。法人として「職員の未来」をイメージさせることが、離職防止につながるでしょう。
離職率の問題は、職員の満足度向上と人件費の適切化で解決に向けたアプロ―チができます。その際に大切なのは、職員の満足度向上と人件費の適切化を同時に行うことです。ただ制度を整えるのではなく「制度の内容と理由」が最重要です。

人事制度の構築

効果的な人事制度を構築するには、現状分析を行い、分析をもとに等級制度や賃金制度を策定することが重要です。ここでは人事制度構築の方法とポイントを解説します。

1.現状分析

まずは現状分析を行います。施設の課題がわからないと適切な対応策を用意できないため、現状分析には時間をかけましょう。分析から見つかった自法人の特徴や課題によって、対策が違います。
人事制度の構築の際に分析しておきたいテーマは、以下の6つです。

テーマ実施内容
1 採用力分析採用時の給与を地域相場と比較し、採用時の給与水準を確認。
2 賃金プロット図分析支払い方法や仕組みといった給与形態、改善における留意点。
3 人件費シミュレーション将来的な人件費や現状の制度の分析。
4 人員構成分析年齢、勤続年数、勤続年数が短い人の定着、予想される退職者などから想定される課題を確認。
5 管理職ヒアリング分析管理職に対する第三者的なヒアリング。
6 ES分析職員アンケートなどで内面的な課題を見つける。

【ポイント①】有利な採用時の給与を考える

まずは、採用力分析で有利な採用時の給与を考えましょう。
有利な採用時の給与とは「求職者にとって魅力的な給与」です。たとえば採用時の給与が25万円で周辺施設より低め、一方、賞与は4ヶ月分で周辺施設よりも多めという施設があったとします。賞与の支給月数が多いのは良いことですが、求職者により魅力的に映るのは「頑張りが月給で評価されていること」です。賞与の支給月数を2ヶ月分にして、残りを忙しい月に上乗せするなどの設定にした方が、採用では有利に働くでしょう。

【ポイント②】報いたい人を考える

次に賃金プロット図分析で、自社内の給与形態を分析します。これによって、自法人の賃金が統計値と比較してどうなのか、役職者と賃金の逆転が発生していないかがわかります。場合によっては、役職者よりも一般職の方が高い給与を受け取っていることに気づくこともあるでしょう。
賃金プロット図分析で考えることは「本当に報いたい人に報えているか」です。勤続年数が短くても昇進していく人と、勤続年数が長い一般職の人とでは、どちらに報いたいかを考え、報いたいと考えている人に適切な給与が支払われているか確認しましょう。

【ポイント③】次世代を考える

次に、人件費シミュレーションや人員構成分析を行います。このときに大切なことは「次世代の体制を考えること」です。人件費や人員構成について次世代の幹部層を巻き込んでヒアリングを行うことで、場当たり的な対応や人事制度の浸透における現場との乖離を避けることができます。

人件費シミュレーションでは、今後10年の人件費をシミュレーションし、将来予測に基づいた制度設計ができているか確認しましょう。
また人員構成分析では、職員の年齢や勤続年数を把握し、次世代の人材が確保できるかの確認が必要です。特にケアマネジャーなどの必要職種は、今後の退職予定も把握しておきましょう。場合によっては、一般職から必要職種へ転換をしたくなるような制度を整え、転換を促すことも必要になります。

2.等級制度の構築

現状分析を行ったら、等級制度を構築していきます。

【ポイント①】一般職の等級を分ける

一般職を新人やベテランなど、いくつかの等級に分けましょう。一般職の等級を分けることで役職を持たせることなく「昇進」という成功体験が作れます。成功体験を積むことは職員のモチベーションにもつながるでしょう。
また法人側としても、一般職の等級を分けても大きく昇給するわけではないため、人件費の調整がしやすいというメリットがあります。

【ポイント②】等級ごとの役割を明確にする

等級制度では、等級ごとに求める役割を明確にすることが大切です。想いとマッチしているか、役割と人事評価が連動しているかを確認しましょう。
役割が不明確な施設では、作業が現場寄りになりがちです。現場寄りになってしまうと、一般職ができないときは、監督職がやる、監督職ができない場合は管理職がやる、管理職ができない場合は経営層がやるという状況になってしまい、最終的には経営層が本来やるべき業務に集中できません。危機感を持っている間は良いですが、常態化すると経営発展の機会を逃す可能性があります。
そのため、役割を明確にし、各自が自分の役割に専念することが求められます。

【ポイント③】複数の昇給ルートを用意する

等級制度の構築では、複数の昇給ルートを用意しておきましょう。複数の昇給ルートがあることで、職員が自分の働き方を選択でき、未来をイメージしやすくなります。
一般職から管理職へ昇進するのが一般的ですが、中にはスキルがあってもマネジメントは苦手という職員もいます。こうした職員には、専門的なスキルを活かせる昇進ルートを用意するなど、複数のルートを用意しましょう。たとえばワークライフバランスを重視したルートがあれば、子育て世代や事情があって長時間働けない職員にも嬉しいでしょう。
複数のルート設定には、昇格昇進の基準を明確にしておくことが重要です。基準が明確であれば職員は将来の自身のキャリアを具体的にイメージできるようになります。

3.賃金制度の構築

最後に賃金制度の構築を行います。
賃金制度の構築では、「人件費のコントロール」が不可欠です。法人によって報いたいポイントは違いますが、共通するのは「売上から利益とその他経費を引いたものが人件費として利用できるお金であること」です。利用できる人件費を超えてしまうと赤字になるため利用できる人件費の中で、報いたいポイントにフォーカスしていくようにしましょう。
また賃金制度が、今後の課題へのフィルターとなるかも重要です。最低賃金の引き上げ、処遇改善の金額増加、物価高騰による費用増加など、出費は今後も増えると予想されます。他業界であれば商品価格のコントロールはできますが、医療・介護業界ではコントロールする手段がありません。そのため、ポイントを明確にし、人事制度でフィルターをかけていくことが重要です。

【ポイント①】採用時の給与は1位になる必要はない

賃金制度の構築では、まず採用時の給与を決め、次に基本給体系、最後に賞与を決めます。
採用時の給与は周辺施設よりも高く設定することが基本ですが、1位になる必要はありません。介護施設の中途採用者は、8~10の施設を見て応募先を決めています。つまり採用時の給与が1位ではなくても、8~10の施設に入っていれば、応募してくれる可能性があるということです。
1位になるには多くの財源が必要となり、1位となる金額で採用時の給与を設定してしまうと、他の給与が不足する可能性もあります。1位にこだわらず、勝負できる立ち位置を探しましょう。

【ポイント②】自法人に適した昇給の仕組みを設定する

昇給の仕組みは自法人に合ったものを選びましょう。多くの法人では号俸表ですが、他にも複数の昇給体系があります。法人に合うのは号俸表のほか、以下の3つです。

賃金表概要メリットデメリット
段階号俸表1段階ごとの昇給の刻みが小さい。人事評価と号俸の昇給数を連動させる。・わかりやすい
・見込みが立ちやすい
号俸表が細かい
範囲給表等級ごとに複数のゾーンと上限を設定し、評価に応じてゾーン内で昇給金額が決まる。上限を迎えたら上のゾーンに移る。等級が低いほど昇給幅が低い。さらに上げたい場合は上の等級へいく。・現在の給与の範囲で昇給金額が決まる
・制度のスライドができる
絶対額が表記されないので、わかりにくい
ポイント制昇給表ポイントで昇給が決まる。業績によって昇給金額を変化させられる昇給額が業績によって変動するので、わかりにくい

いずれの昇給体系でも、能力が成熟するにつれて昇給金額が逓減していくのが理想です。頑張りによって昇給金額が変わる仕組みにすると良いでしょう。

【ポイント③】賞与は業績と連動させる

賞与は業績と連動させましょう。なぜなら、職員の意識が変わるためです。
たとえば、固定支給を7割とし、残り3割を人事評価や業績などと連動させると、職員は「業績が上がれば、自分の賞与に反映される」という意識を持ちます。すると経費削減などに協力的になり、結果、法人の業績が上がる可能性が高まるでしょう。
また、賞与は月給と違って固定されていないため、賞与と連動させることで人件費をコントロールすることが可能です。

【ポイント④】報いたいポイントに手当を支給する

手当は、報いたいポイントが重要です。金額設定には法人の想いをリンクさせておくことで、職員の帰属意識が上がります。
現在の医療・介護業界では、福利厚生・生活支援、配偶者支援の手当が減少しています。これは、これらの手当が職員の頑張りと結びついていないためです。代わりに、職員の頑張りに応じた手当を上乗せする傾向にあります。

【ポイント⑤】経営者の想いが反映された人事考課制度

賃金制度では自法人に合った人事考課制度を策定する必要があります。自法人に合った人事考課制度とは「経営者の想いが反映された人事考課制度」と言い換えることができます。
経営者が引退したあとも継続性を保てるよう、経営者の意志や考えを落とし込みましょう。落とし込むことで、職員は次に取り組むことが明確になり、納得感にもつながります。
人事評価制度の目的は、職員を現状から理想とする姿に引き上げ、経営者が期待する姿とのギャップを埋めていくことです。高い評価を得る人を増やすことが人材育成となり、法人の活性化にもつながります。
人事考課制度で整備すべき点は、以下の4つです。

評価手法概要
行動評価法人単位で求められる行動。挨拶や報連相など、職務内容と関連しない評価。
職務評価職務内容の評価。手順をマニュアル化することで、人間関係が良好になる。
多面評価360度評価。ただし、評価結果の妥当性や運用負担は懸念されるため、導入には慎重さが必要。
目標達成度部下と上司で目標の達成度を追う。人材育成のツールとして優秀。目標の難易度はひとりひとり違うため、業務に反映するのは難しい。

評価するには、まず役割定義が重要です。役割の遂行度を評価し、評価結果を給与、面談に利用することで、等級、評価、賃金に一貫して回せます。一貫性があることで、納得感も生まれるでしょう。

まとめ

人事制度は作っただけでは意味がありません。制度として機能するか、法人として達成したいビジョンに向けた内容になっているかを確認しましょう。人事制度がない場合は、設計することをおすすめします。
日本経営ではこれまでに約1,700件の病院、約700件の介護施設の支援※を行ってまいりました。
※2025年1月現在 当社調べ

グループ内には税理士法人や社労士法人があり、各専門分野の意見を反映した支援が可能です。
人事制度の構築をしたい、人事制度はあるけれど、ビジョンと合っているかわからないなどのお悩みがありましたら、日本経営までお気軽にご相談ください。

介護と言えば、日本経営!

本稿の執筆者

浦越恵嗣(うらこし けいじ)
介護福祉コンサルティング部

医療機関・介護・障害事業所を中心にコンサルティング実績を有している。『「誰もがその人らしく暮らすことを 選択できる」社会の実現に貢献する』をコンセプトに日本経営の介護福祉専門のコンサルティングチームに属している。
最近では経営者育成講座やセミナー講師など幅広く活躍している。
介護・障害事業所支援については、キャリアパス構築、賃金制度構築、人事考課制度構築、稼働率向上支援、経営分析、コスト削減支援に関するコンサルティングを得意としている。

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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