介護施設の人員配置を適正化して人手不足を解消!施設別・支出を抑える7つのポイント

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業種
介護福祉施設
- 種別 レポート
介護施設では人材不足が問題となっています。特に「人員は足りているはずなのに、人手は足りない」という状況に陥っている介護施設は多く、経営者や施設長が解消を目指して新規人材の採用を行っていると思います。
しかし、こうした施設では「人員配置がうまくいっていないだけ」というケースも見られます。人員配置を適正化することで、人手不足を解消し、結果として支出を抑えることも可能です。本記事では、介護施設の人員配置の適正化についてご紹介します。
介護施設の人員不足問題と適正な人員配置
介護施設では常に「人員不足」という問題を抱えています。公益財団法人介護労働安定センターの「令和5年度 介護労働実態調査」によると、従業員の過不足感について「大いに不足」「不足」「やや不足」と回答した事業所は、64.7%。特に訪問介護員の不足が顕著で、81.4%の事業所が「大いに不足」「不足」「やや不足」と回答しています。離職率は減少傾向にありますが、29歳以下の離職率は20.4%と、若者の離職が問題視されているようです。
ただ、人材不足の問題は人員配置を適正化することで解決できる場合があります。人員配置を考えずに、現場に言われるまま採用をすると、赤字経営になるなどの問題が発生します。また職員1人の採用に対して必要な利用回数を計算せずに採用してしまうこともあるでしょう。
人員不足だと感じたら、まず「人員配置の見直し」を行いましょう。人員配置を適正化することで、採用せずとも人員不足が解決する可能性があります。
▶参考:公益財団法人介護労働安定センター「令和5年度 介護労働実態調査」
適正な人員配置とは?
適正な人員配置とは、以下3つの条件を満たしていることを言います。
【条件1】人員配置基準を満たしている
1つ目の条件は「人員配置基準を満たしていること」です。人員配置基準は厚生労働省が定める介護施設に必要な職員数の基準で、施設の種類によって変わります。
以下に通所介護と訪問介護の人員配置基準を記載します。
注:指定権者によって人員配置要件が異なる場合があります。
【通所介護】
職務 | 必要資格等 | 人数 |
管理者 | なし | 常勤専従で1人 ※職務上支障がない場合は、同一事業所内の他の職務、または他の事業所の職務との兼務が可能。 |
生活相談員 | 社会福祉士等 | 専従で提供日ごとの勤務延時間数をサービス提供時間数で割った数が1人以上 ※生活相談員の勤務時間数としてサービス担当者会議、地域ケア会議等も含めることが可能。 |
看護職員 | 看護師 准看護師 | 単位ごとに専従で1人以上 ※通所介護の提供時間帯を通じて専従する必要はなく、訪問看護ステーション等との連携も可能。 |
介護職員 | なし ※無資格者の場合、認知症介護基礎研修の受講が必須 | 1.単位ごとにサービス提供時間に応じて専従で次の数以上(常勤換算方式) (1)利用者の数が15人まで1以上 (2)利用者の数が15人を超す場合、(1)の数に利用者の数が1人増すごとに0.2を加えた数以上 2.単位ごとに常時1名配置されること 3.1.の数および2.の条件を満たす場合は、当該事業所の他の単位における介護職員として従事することができる |
機能訓練指導員 | 理学療法士 作業療法士 言語聴覚士 看護師 柔道整復師 あん摩マッサージ指圧師 等 | 1人以上 |
※生活相談員または介護職員のうち1人以上は常勤
【訪問介護】
職務 | 必要資格 | 人数 |
管理者 | なし | 常勤専従で1人 ※職務上支障がない場合は、同一事業所内の他の職務、または他の事業所の職務と兼務が可能。 |
サービス提供責任者 | 介護福祉士等 | 常勤の訪問介護員のうち、サービス提供責任者を、利用者の数が40人またはその端数を増すごとに1人以上配置。 以下の3つの要件をすべて満たす場合に限り、利用者数50人ごとに常勤1人以上の配置が可能 1.常勤のサービス提供責任者を3人以上配置 2.サービス提供責任者の業務に主として従事する者を1人以上配置 3.サービス提供責任者の業務が効率的に行われている場合 |
訪問介護職員 | 初任者研修等 | 常勤換算2.5人以上 |
管理者は、生活相談員と兼務する形が多く、常勤の場合は、研修や有休も勤務時間として認められる場合があります。
上記の基準を要約すると、通所介護では、管理者兼生活相談員1名、介護職員2名、看護師兼機能訓練指導員1名の計4人で20名の利用者に対しサービス提供できる場合があります。職務内容や施設規模を見直し、兼務が可能な職務、また常駐する必要のない職務などを考えましょう。
【条件2】黒字経営ができている
黒字経営ができていることも、適正な人員配置に必要なことです。
特に、新規指定時の定員で人員配置を決めることは危険です。新規指定を受ける際には施設の定員を提出しますが、定員になることを前提に採用を行うと、損益分岐点がかなり高くなります。いざ開所したら利用者が少なく、人員過多になる。結果、赤字に耐えられず閉所、もしくは開所時の赤字がダメージとなって長く残るなどの問題が発生します。単に「売上」ばかりを強調すると、職員が抵抗感を覚えるため、「お客様の幸せが売上につながる」という共通認識を持つことが大切です。これにより職員は「お客様の幸せのために働いている」 という意識を持ち、モチベーションを維持できます。黒字経営にもとづく安定性は利用者や職員にとってもメリットとなるため、必要な人員を確保・配置した上で、安定した経営ができていることが重要です。
【条件3】適切なサービスが提供できている
適切なサービスが提供できていることも重要です。たとえ黒字経営になったとしても、サービスの質が低下しては意味がありません。
人員配置の適正化では「効率的な配置」が求められます。不必要な箇所を洗い出して現状の人数でできる体制を整えたり、サービスの量を事前に予測して必要な人数を把握したりすれば、人員不足が解消される場合があります。
たとえば、住宅型有料老人ホームやサ高住に併設する訪問系サービスの場合、サービス提供量から1日あたりに均して必要な人員を考えると良いでしょう。また、状況に応じて2交代制、3交代制、4交代制の比較検討が必要です。どの体制が良いかは事業規模や実現したい成果で変わります。
そもそもお客様が「利用したい」と考えるサービスでなければ、利用者は集まりません。お客様が利用したいと思えるサービスを提供する、サービス提供のためにすべき人員配置を考えましょう。
人員配置の適正化を目指すためにすべきこと(共通編)
ここからは、人員配置の適正化を目指すためにすべきことをご紹介します。
まず、すべての施設で重要なことは、現場の職員に経営の重要性を理解してもらうことです。職員にも経営側と同じ感覚を持ってもらうことで、人員配置の適正化がスムーズに進みます。
特に重要なことは「閉所したら皆が困る」ということを繰り返し伝えることです。仮に赤字経営が続いて閉所に追い込まれれば、利用者はもちろん、職員や経営者も路頭に迷うことになります。
閉所をしないために人材配置の適正化が必要だと、会議や朝礼、終礼など、職員が集まる場所で繰り返し伝えていきましょう。もし折り合いがつかない場合には、経営側と現場で話しあってお互いが納得できる点を探します。
また現場を納得させるには、以下のような方法もあります。
- 財務諸表の公開(赤字であることを具体的に数字で示す)
- 経営状態を評価制度に反映(事業モデルに合わせた評価制度)
- 職員の営業活動(利用者の獲得が大変であることを実感してもらう)
職員の理解がないと、仮に人員を減らせたとしても、現場から不満が出る可能性があります。人員配置の適正化は経営状態を安定させることにつながる、経営状態が安定すれば職員にもメリットがあると理解してもらうことが重要です。
人員配置の適正化を目指すためにすべきこと(通所介護編)
作業を分解する
人員配置を適正化するには作業を分解して考えましょう。作業を分解することで「人員の無駄」が見えてきます。
たとえば、入浴介助は2名で行うと考えている施設は多いですが、実際の入浴作業を分解すると、
- 着替え
- 髪や体を洗う
- 浴槽に入る
- 浴槽から出る
- 体や髪を拭く
- 着替え
という6つの作業に分解できます。この作業内で2人が必要な作業は、主に着替えや浴槽からの出入りです。そこで着替えと浴槽の出入りのみ2人体制とし、それ以外は1人で対応、もう1人はフロア兼務とすることで人員を減らせます。
兼務や配置時間を考える
人員配置基準での兼務や配置時間を考えることで、人員削減ができる場合があります。
たとえば、看護師が機能訓練指導員を兼務する場合、配置時間に関する規定はありません。加えて、看護師は訪問看護ステーションと連携をした場合、配置する時間は30分でも可能と認められています。つまり、看護師としての仕事をしていない間は、機能訓練員として勤務することができます。この場合、看護師と機能訓練指導員を別に雇用する必要がないため、人件費の削減が可能です。
なお、規模が大きく看護師と機能訓練指導員を別々に配置せざるを得ない場合は中重度ケア体制加算(45単位/日)、個別機能訓練加算(Ⅰ)76単位/日の算定を狙いましょう。一般より20~30ほど単位が上がるため、売上の向上を図ることができます。
施設規模を変更する
人員配置の適正化においては、施設規模を考えることも重要です。規模によって単位が大きく変わるため、規模を適正にすることで人員不足が解消される可能性があります。
たとえば、看護師は通常規模の通所介護では必須ですが、地域密着型通所介護では定員10名以下の場合不要となります。また、大規模施設を開所するよりも通常規模2箇所の方が良い場合もあります。利用者数や経営状況に合った施設規模なのか、合っていないのならどの規模の施設に変更すべきか検討しましょう。
加えて、営業日数も適正かを考えましょう。利用者が少ない日は営業しないなどの対策を行うことで、人員を減らせる可能性があります。
人員配置の適正化を目指すためにすべきこと(訪問介護編)
プレイングマネジメント型を目指す
訪問介護では常勤換算2.5人を下回ることができず、業務効率の良いリーダーや職員の業務体系に見直す必要があります。
最も理想的なのは「プレイングマネジメント型」です。プレイングマネジメント型は、現場業務とリーダー業務を半々で行い、基本的に自分が一度も訪問したことがない利用者はおらず、自分が担当した方を別の職員に割り振っていきます。現場業務が50%を超えた場合、余剰分を他職員に依頼し、空き時間で新規を担当するといった業務の調整が可能です。この型により、人材定着がしやすく、新規受け入れや書類整備、職員へのサポートが効率よく行えるといったメリットがあります。
プレイングマネジメント型以外には、現場業務90%、リーダー業務10%の放任型、現場業務10%、リーダー業務90%のマネジメント型があり、避けた方が良いのは「放任型」です。放任型は、売上は高いですが、人材が定着しないという大きなデメリットがあります。人材が定着しないと採用ができません。加えてリーダー職が忙しいと新規の受け入れが難しくなり、受け入れを断ったことによって新規依頼が来ないという悪循環に陥ってしまいます。
型 | 現場業務 | リーダー業務 | 特徴 |
プレイングマネジメント型 | 50% | 50% | ・訪問したことのない利用者はいない ・自分が担当した利用者を職員に振っていく ・調整がしやすく、人材定着や新規受入にも効果的。書類整理もしやすい |
マネジメント型 | 10% | 90% | ・訪問したことがない利用者がいる ・ほとんど現場に出ず、職員からの報告を頼りにマネジメントを行う ・職員数の多い大手に多い形態でマネジメント力に左右されるが書類整理はしやすい |
放任型 | 90% | 10% | ・訪問したことがない利用者がいる ・ほとんど現場に出ていてリーダー業務がほぼできていない ・売上は高いが、人材定着せず、書類整理ができない。基本的には避けた方が良い |
訪問介護では、まずプレイングマネジメント型を目指しましょう。ただし、大規模施設の場合はマネジメント型の方が適している場合もあるため、施設規模や利用者の状況も鑑みることが大切です。
登録ヘルパーやナースを活用する
訪問介護・訪問看護の場合は、登録ヘルパー・登録ナースを活用する方法もあります。事前に登録しているヘルパーやナースに現場対応を依頼することで、施設で雇用することなく、サービスを提供できます。法人としては無駄な支出を抑えられますし、働く側としても、短時間でしっかり稼げる、ワークライフバランスを保ちながら働けるなどのメリットがあります。
たとえば、プレイングマネジメント型で現場の時間が増えた場合、まずは自分が1ヶ月~2ヶ月対応して状況を把握し、その後、登録ヘルパーに依頼する。現場が減った分、新規依頼をリーダーが担当し、把握できたらまた振り分けるというサイクルを繰り返すと無駄がありません。
ただし、時給が高いこと、移動時間も勤務時間に入る点などに注意が必要です。募集は純粋に時給の高い職員として募集をかけ、面接時に詳細を説明しましょう。業務依頼の際には、 月・水・金などの特定の曜日にまとめて依頼するよう考慮し、利用者のキャンセルがあれば、業務がなくなる可能性も伝えましょう。もしくは別の事業所に振るなどの対応も可能です。
人員配置の適正化を目指すためにすべきこと(多機能サービス編)
多機能系サービスでは「キャパシティを把握すること」が大切です。キャパを把握していないと、人件費が売上を上回ってしまい、赤字になる可能性があります。介護等級ごとに売上を計算し、人件費を算出、 各配置での人件費をシミュレーションし、受け入れられない状況を事前に把握しましょう。
キャパオーバー時には、サービスの制限を考える必要性も出てきます。たとえば、訪問サービスを通いに変更することで、食事や入浴の効率が上がります。社会参加もできるため、利用者にとってもメリットがあります。
一方、宿泊は基本的に難しいとされています。宿泊の利用者がいると人数が少なくても人員を割く必要があるため、人件費が売上を上回る可能性が高まります。宿泊は土日のみに限定し、日中のみの利用に絞った方が効率的でしょう。
まとめ
介護施設の人員配置を適正化することで、支出を抑えて効率的に業務を行える可能性が高まります。採用の前に、現在の人員配置を見直し、改善できる箇所がないか探しましょう。
もし「人件費過多で困っている」「適正化の方法をさらに詳しく知りたい」という方がいらっしゃれば、日本経営までお気軽にご相談ください。
日本経営は約700件の介護施設支援実績※があり、介護施設それぞれの状況に合わせた実現可能な改善策を提案いたします。
※2025年1月現在 当社調べ
介護と言えば、日本経営!
本稿の執筆者
谷村泰樹(たにむら たいき)
介護福祉コンサルティング部
事業所数 150か所以上を運営する介護の会社で執行役員を務めておりました。主にM&A後のPMIの推進。つまり、経営・業務・意識統合のマネジメントを行ってきました。併せて、収益改善を図り、早ければ初月から遅くても1年以内に全事業所の赤字脱却を実現した実績がございます。また、教育研修課および人事部の立ち上げ時に携わり、教育研修制度や評価制度の確立を推進して参りました。
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