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人事部門が取り組む、チームパフォーマンス向上支援/チームパフォーマンスを高める組織強化の方法論vol.07

  • 業種 病院・診療所・歯科
    介護福祉施設
    企業経営
  • 種別 レポート

人事部門が取り組む、チームパフォーマンス向上支援

株式会社日本経営 / 取締役 橋本 竜也

本稿は、株式会社ビジネスパブリッシング「月間人事マネジメント11月号」に「チームパフォーマンスを高める組織強化の方法論<7>人事部門が取り組む、チームパフォーマンス向上支援」として掲載されたものです。

ただの人の集まりをチームにするために

今や、仕事のほとんど(8割以上)はチームで行われているといわれる。
ゆえにチームパフォーマンス(TP)は、経営の要である。

実際、チームで仕事をすると、非常に効果が高い。
お互いの強みを活かし、弱みを補完し、目的に向けて連携して仕事を進めれば、1人では成しえないことを実現できるし、アイデアも創発されるし、生産性も上がる。
チームをどう機能させるかは重要な経営テーマといえよう。

ところが、従業員に「あなたはチームで仕事をしていますか?」と質問してみると、意外なほど肯定的な回答が少ない。
チームとして仕事をしている“実感”のない従業員が少なくないのである。

どうすればチームとなるのだろうか。
共に仕事をしている実感が必要だし、目標の共有やノウハウ交換、相互アドバイスなどを通じて、ただの人の集まりからチームとなるのである。
この方法論を提供していくことが、人事部門に求められている。

リーダー研修とマインドセット

TPを高めるには、チームの成果や課題をメンバーが主体者として捉えることが重要である。
そのためには、管理する側とされる側、上司と部下といった分断の関係性に陥らず、チームにおいてはパートナーの関係を作ることを基本認識としたい。

リーダーへの研修では、この基本認識を伝えるとともに、リーダーの新たな前提とTPを高めるマインドセットをしっかり伝えていただきたい。
新たな前提は連載の第1回で解説したが、「リーダーにも分からないことがある、間違うこともある、助けが必要なこともある」ということの理解である。

マインドセットは、連載第5回で解説した「目的志向」「前向きさ」「メンバー信頼」である。
ただ、これらを伝えることはたやすいが、納得、腹落ちさせるのは、簡単ではない。
なぜなら、これらは多くのリーダーにとって、今までの考えや認識を変える必要がある「適応を要する課題(適応課題)」だからである。

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適応課題に対処する研修の展開

ハイフェッツは、課題を技術的課題と適応課題に分類している。
技術的課題とは、技術によって解決することが可能な課題であり、適応課題とは本人の信念や価値観、思考などを変えないと解決できない課題である。

例えば、車の縦列駐車ができないのは技術的課題である。
運転技術を磨いたり、最近ではアシスト機能を使ったりすれば、解決できる。
価値観はまず関係ない。
上記の新たな前提やマインドセットは、技術で解決することはできない。
本人が受け入れるしかないので、適応を要する。

適応課題の根底にあるのは、不安、恐れ、喪失感などである。
そのため、適応課題に直面すると、反発が生まれることが多い。
だから、適応課題に対処するためには、まずこれらの感情に共感を示し、変わろうと思ったところでそっと背中を押すことがポイントである。
「今までのやり方では通用しないぞ」は禁句である。
本人のキャリアや努力の否定になってしまい、結局行動の改善につながらないからである。
また、適応課題に技術的な解決策を提示すると、問題がこじれるケースが多いことにも注意が必要である。

以上を踏まえ、研修では「不安や怖れに共感を示す」「愚痴を出す」「自分で気づく」場の提供を意識して、今までどうだったかは追及せず、次のようなグループワークの実施をお勧めする。

自分のチームは主体的行動を発揮しきれているか考える。
(恐らく、絶対的な自信がある人はわずか)
TPは心理要因に強い影響を受けることを解説。
メンバーが「やろう」と思えるために、「自分ができることは何か」を意見交換。
新たな前提がチームに一体感をもたらすという考えについて意見交換。
(前提を変える必要があるとは伝えない)
「目的志向」「前向きさ」「メンバー信頼」についての解説と意見交換。
これから自分が取り組むことの発表。

ポイントは、変わらなければならないと「伝える」のではなく「感じる」ように支援することである。
適応課題を乗り越えるために、「いろいろあるけど、自分も変わっていかないと」と感じてもらえるようにしたい。
働き方改革へのベテラン社員の反発、業務改革への反発なども、まさに適応課題の典型である。
人事は組織に起きる課題が技術的課題なのか適応課題なのかを見極め、適応課題に対処する力を磨きたい。

「問い」による引き出し型リーダーシップの浸透

TPを高めるリーダーには引き出し型マネジメントが欠かせない。
端的に言えば、「問いのマネジメント」である。
よく「お前は何がしたいんだ⁉」を問いと勘違いする人がいるが、これは糾弾である。引き出し型マネジメントの問いは、本人の考えや意見を引き出すものである。

「あなたができることは何か?」「あなたのアイデアを加えるとすれば何があるか?」など、自分が考えなければならないという意識を持たせ、しかもその考えをリーダーが求めているという姿勢を示すことである。
主語は「あなた」、質問は「未来形」としたい。

メンバーを支援する

TPを高めるためには、メンバーが「自分もチームに影響を与えている」という当事者意識を持つ必要がある。
そこで、自分の影響力に気づかせる研修が効果的である。

当社では「無自覚的にチームに負の影響を与えている中堅社員に気づきを与える研修をしたい」という依頼をいただくことも多い。
その際は、次の質問について個人で考えてもらい、グループワークで共有する流れを繰り返す研修を実施している。

自分は他のメンバーからどのように見られていると思うか?
自分はチームにどのような影響を与えていると思うか?
チームに良い影響を与えるために心がけていることは何か?
チームに良い影響を与えるためにこれから何をしていくか?

あくまで問いが自分に向かう場を提供することが重要である。

チームを支援する

最も重要なのは、メンバーが一体となって取り組むチーム作りを支援することである。
この方法については、前回「チームの状態を可視化し、メンバーが同時にそれを共有し、意見交換する」方法を解説したので、参考にしていただきたい。

当社が支援している事例では、結果を事前に配布し、「チームをより良くするために自分ができること」をあらかじめまとめてきてもらえば、20分程度の時間でも実施可能である。
むしろ、時間の長さよりも頻度が大事である。

チームは常に変化する。年に1回、長時間検討するよりも、毎月や隔月程度でこまめにチーム状態を可視化し、メンバーで前向きな意見交換をするほうが効果的である。

よく、何をすればTPが上がるかと質問されることがあるが、一律の制度的アプローチはあまり効果を期待できない。
例えば、チームに懇親会費を支給しても、親密さが上がるチーム、上がらないチーム、それぞれである。
チームが自分たちに必要なことを自分たちで考えられるようにすることが重要である。チームの側から懇親の場が必要だと意見が出てくるなら、支援すればよいのである。

人事部門は各チームが課題に向き合い、話し合うような場の提供と支援を通じて、高いTPのチームを数多く生み出していただきたい。

このレポートの解説者

橋本竜也(はしもと たつや)
株式会社 日本経営 取締役

入社以来、人事コンサルティング部門にて、一貫して病院・企業の人事制度改革に携わる。2006年には調剤薬局に出向し、収益改善と組織改革を実現。コンサルティングにおいては、人事改革、組織改革のほか、赤字病院の経営再建にも従事。2013年1月福岡オフィス長に就任。2017年10月より株式会社日本経営取締役。

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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