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コロナ禍でのキャッシュ残高の読み方/病院経営の指標・読み方Vol.01

  • 業種 病院・診療所・歯科
  • 種別 レポート

病院経営では、「数字に基づいて判断すれば、そのような意思決定は決してしなかった」ということが、しばしば起こり得ます。

意思決定において最も重要な数字の一つが、財務データ。財務の視点から、病院経営の指標・データの読み方を検証します。

病院経営におけるキャッシュ残高の増加

振り返りますとコロナ禍が始まってから1年半、私たちはブレーキとアクセルを交互に踏んできました。

政策によって市中に資金を供給することが優先されたため、法人の収支への影響は最小限に留まったように思います。

私どものお客様の多くには、毎月キャッシュフロー計算書をご提示していますが、現預金の残高が大幅に減少したというケースは殆どありません。むしろ順調に現預金が増加しており、その増加額も非常に大きいケースが目立ちます

コロナ制度融資を利用してキャッシュを確保しているケースも少なくありません。

そのこと自体に問題はありませんが、キャッシュ残高が増えたことによって経営者の資金に対する緊張感を緩ませてしまっていないでしょうか

この機会に今まで出来なかった設備投資をしたり借入金の繰上返済を考え始めているお話も耳にします。

病院キャッシュフローの読み方

しかし、これは極めて危険な発想です。本当にキャッシュは増えているのでしょうか。

この非常時においてキャッシュフロー計算書を眺めるときには、下記のような視点が必要になります。

  1. コロナ制度融資で借入れた金額をマイナスしても、キャッシュ残高は増えているか?
  2. さらに、検討中の設備投資金額をマイナスしてもキャッシュ残高は増えているか?
  3. さらに、検討中の繰上返済金額をマイナスしてもキャッシュ残高は増えているか?
  4. さらに、利益に計上されているコロナ補助金額をマイナスしてもキャッシュ残高は増えているか?

上記1から4までを差し引いたキャッシュ残高を(A)とします。(A)が期首のキャッシュ残高よりも増加している場合は問題ありません。

さらにこの(A)が、コロナ禍前(例えば2期前)のキャッシュ残高より増えていれば、なお良いです。

もしどこかでマイナスになるようであれば、1から4のうちどの時点でマイナスになるかもチェックしてください。マイナスにならない段階が、法人が採り得る資金運用戦略の限界です。

病院財務の未来を見える化

恐らく1の段階はクリアできるでしょう。1の段階でキャッシュ残高がマイナスになる場合は、資金が目減りしていることになりますので、極めて危険です。

4の場合も注意が必要です。なぜなら、今期に入ってからも補助金が入金されている場合は、キャッシュ残高が大きくなっているケースが見られます。しかし、この補助金は返済の義務はありませんが、納税の義務があります。納税を考慮すると7,8割しか手元に残りません。納税時期は来年の決算日から約2か月後です(3月決算の場合は来年5月)。来年の5月には予想外の税金の大きさに驚く(?)こともあるかもしれません。

そもそもコロナ融資は数年の返済据置期間がある場合が多く、一定の据置期間が経過した後に返済が始まります。医療機器のリプレイスの時期が4年後にあったり、役員を含め退職者への多額の退職金が予定されていたり、病院建替えを控えていたりと、大きな支出が見えている場合は、ここに上乗せして資金が出ていきますので、特に注意が必要です。

変革期の財務は過去の分析ではなく、『未来の見える化』がどれだけ正確に出来るかが問われます

今は、利益よりも資金を重視した財務戦略の立案を早期に進め、自院の立ち位置をしっかり認識する機会とし、何が起こっても『想定の範囲内』として受け止められる体制づくりを進めて頂けることを願っております。

病院経営の健全化のために、いま必要な意思決定を議論します。

本稿の執筆者

藤原ますみ(ふじわら ますみ)
NKGRコンサルティング株式会社 取締役

クリニック・病院・社会福祉法人の財務会計に従事し、有料老人ホームの立ち上げにも参画する。現在は、病院の財務・管理会計の導入を通じた経営改善も担う財務のプロフェッショナル。公的機関主催の研修でも講師を多数務め、数字に苦手な受講者でも「今までで一番分かりやすかった」と、絶大な支持を得ている。

日本経営ウィル税理士法人/NKGRコンサルティング株式会社/株式会社日本経営

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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