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利益目標を達成し、”医師が納得”して働ける!病院規模に応じた「医師マネジメント」のポイント

  • 業種 病院・診療所・歯科
  • 種別 レポート

病院の経営環境は、地域医療構想や医療従事者の働き方改革、医師偏在対策といった取り組みが同時並行で進む一方、物価や人件費の高騰によるコストアップがかつてない水準に達しつつあり、従来の延長線上では利益を生み出しにくい時代へと移行しています。この「高コスト社会」において経営を安定させるには、戦略の妥当性と実行の徹底度を引き上げる必要があります。そのためには、医師をはじめとするスタッフ全員の行動を病院方針と結びつけるマネジメントの仕組みが欠かせません。
ここでは、マネジメントの中核をなす「医師マネジメント」に焦点を当て、中小規模病院と大規模病院、それぞれで取り組む際のマネジメント要点を整理していきます。

医師マネジメントを効果的に実施することで、病院経営を安定させ、質の高い医療サービスを提供し続けることが可能になります。

1. 変化する外部環境と病院が直面する課題

1-1. コストアップの圧力

物価の上昇が、病院経営に大きな影響を与えています。最低賃金の引き上げなど人件費の増加が止まらないことに加え、医薬品費、診療材料費、医療消耗品費などの医療材料費や給食費、水道光熱費等あらゆるコストが高騰している状況です。これまでのように一定の稼働率を保てば黒字を維持できる、という単純な図式が崩れつつあります。

1-2. 高コスト社会における利益創出の難しさ

高齢化による医療需要の増加が長期的に続く時代は終わりを迎えようとしており、実際に2040年頃には高齢者人口がピークアウトすると予測されています。地域によってはすでに患者数が伸び悩み始めており、さらに診療報酬改定の影響もあって、売上を思うように伸ばせない病院が増えてきました。
物価高や人件費の上昇と重なり、「稼働率を上げても利益が追いつかない」という構造が顕在化し始めています。従来の方法で頑張り続けても、損益分岐点を超えられないケースが増加する可能性は十分に考えられます。

1-3. 病院の規模別にみる「医師マネジメント」の主な悩み

若手医師はスキルを磨く必要性から高度急性期などを希望するケースが多いと思われます。そのため、小規模から中小規模病院(およそ200床未満)の場合、先代院長の人脈で呼び寄せた医師が構成比を占めるようになり、ベテラン勢に偏りが生じやすい傾向があります。若手医師の採用に踏み出したくても、年功序列による給与体系が固定されているために競合病院と比べて魅力を打ち出しにくく、改革を行いたくても、医師数が少ないゆえに退職リスクを恐れて強い姿勢を取りづらいという問題が指摘されています。

一方、300床以上の大規模病院や複数院を束ねるグループ病院では、診療科ごとの利益差が大きく、医師数も多いことで個々の働きぶりを把握しにくいだけでなく、働き方改革による労務管理の複雑化が経営陣や事務部門の負担になっています。診療科ごとに利益の差が生じやすい環境で、どのように医師の行動を統制してガバナンスを高め、病院全体の利益を高めるかが悩ましい問題なのではないでしょうか。

2. 医師マネジメント強化が病院経営のカギ

2-1. 病院方針と医師の方向性を合わせる重要性

医師マネジメントを考えるうえで大切なのは、病院としての明確なビジョンや方針を示し、それを個々の医師の行動や、キャリア志向と結びつけていく作業を丁寧に行うことです。
事前に「患者や地域にどう貢献したいのか」というビジョンや方針の方向性をトップが示し、その方向性に合わせた動きを医師に促すための仕組みをつくることで、チーム医療の質を維持しながら利益を上げる体制へと向かうことが可能になります。

2-2. 医師マネジメントの具体策

医師マネジメントの要となるのは、定性評価(プロセス)と定量評価(アウトカム)をバランスよく組み合わせる点です。具体的には、多職種による「360度評価」を行うことで、医師の普段の連携姿勢や患者対応の質を捉えつつ、診療科ごとの新入院患者数や平均在院日数などの数値目標を掲げて貢献度を見極める仕組みが挙げられます。赤字の診療科を黒字に転じさせるには何人の患者受け入れが必要なのか、あるいは在院日数をどこまで短縮すれば病院経営にとってプラスになるのかを明確に伝えれば、医師にとっても行動指針がクリアになります。

2-3. 報酬制度と連動したモチベート

医師の行動変容を促すためには、評価結果と処遇を結びつける工夫が大きな効果をもたらします。年功序列が強い病院では、若手や積極的に手術を行う医師が報われる仕組みが乏しく、不満がたまりやすいという弱点が指摘されています。そこで、多職種による360度評価を踏まえたうえで、一定以上の成果を上げた医師に対して特別手当や追加報酬を与える方法が用いられるようになってきました。特にグループ病院では、各病院でバラバラだった手当を整理して評価給の原資に充てるなど、既存の賃金体系そのものを再編する取り組みも進んでいます。

3. 病院の規模別・医師マネジメントの実例

3-1. 中小規模病院(100~200床程度)

ベテラン医師が中心となっている病院では、若手医師を採用したいという目標を立て、開業志望やワークライフバランスを重視する医師に合った勤務形態を提案しています。病院だけでなくサテライトクリニックも活用しながら、新しい医師が手術件数を積みつつクリニック院長のような経験も積めるように配慮し、経営トップや事務方が個別面談を重ねる形で将来設計のサポートを実施しています。こうした取り組みによって医師の納得感が得られやすくなり、結果として病院全体の利益向上に寄与するという好循環が生まれつつあります。

3-2. グループ病院(300床以上・複数病院展開)

複数の病院を束ねるグループでは、診療科別の原価計算を毎月実施し、赤字診療科の状況を可視化することで、材料費や検査費のコントロールを医師自らが意識できるように工夫しています。初めは反発の声もありましたが、継続して数字を見せ続けるうちに、各診療科の部長やスタッフが具体的な改善策を考える風土が育ちました。行動面については、多職種の視点を取り入れることで、単に「オペ件数や患者数だけを追う」のではなく、チーム医療全体の質を高める動きへと発展しており、医師のやる気と収益の双方がプラスに動く好例となっています。

3-3. グループ病院(総病床数5,000床以上、複数病院展開)

大規模なグループ法人では、病院間で処遇ルールが統一されていなかった問題を解消し、調整手当と評価給を柱とする報酬体系を新たに導入して、ガバナンスを効かせやすい組みに転換した事例もあります。成果を上げた医師に高い加算を付与する形で採用力を高めつつ、単に年功序列ではない処遇を可能にしたことで、グループ全体としての収益向上を後押ししています。さらに、本部機能が評価基準を一定に保つため、病院間で不公平感が生まれにくい点や、評価や報酬の根拠がわかりやすい点も、医師に納得して働いてもらううえで有効な手段になっています。

4. まとめ医師マネジメント強化 実践のヒント

物価高や人件費などのコスト上昇が続く中で、病院経営を安定させるためには、医師の高度な専門性を単なる個人技で終わらせることなく、組織的に結集して利益創出へと結びつける戦略が不可欠です。そのためには、ただ数字を突きつけるだけでなく、医師に「地域や患者のためにこういう行動が必要で、その結果として病院の利益が上がる」という筋道をわかりやすく示すことが重要になります。
定性評価と定量評価の組み合わせはもちろん、評価結果を報酬へどう反映するか、そして複数病院を束ねている場合は本部機能がどうガバナンスを発揮するかといった要素も病院経営を安定させるための重要なポイントです。

特に中小病院であれば、開業志望、ワークライフバランス重視の若手医師を採用しやすいコース設計が魅力です。大規模・グループ病院であれば診療科別原価計算を駆使して診療科ごとの経営状態の可視化と目標管理を進めるなど、組織の規模や特性に応じたアプローチが考えられます。
医師マネジメントは決して短期の施策で完結するものではなく、コミュニケーションを通じて制度や運用を絶えず磨き上げながら長期的に定着させることが大切です。こうした継続的な取り組みによって、病院のガバナンスを高め、地域から信頼される医療を提供しながら、厳しい経営環境を乗り越えていける病院経営の土台が整っていくでしょう。

私たちは、医師マネジメントを高次化し
貢献行動促進」「モチベーション向上」「病院収益の向上」に貢献します

本稿の監修

山﨑 太郎(やまざき たろう)
株式会社日本経営 組織人事コンサルティング部 チームリーダー

日本経営入社後、病院・介護施設における人事評価制度構築や職員研修など人事マネジメントに関わる支援中心に行っている。現在は医師人事評価制度整備支援や原価計算やBM データを活用した科別の目標設定支援、 業務改善支援、RPA の導入支援を主に行っている 。

福田 洸(ふくだ ひかる)
株式会社日本経営 組織人事コンサルティング部 チームリーダー

これまで100床~300床規模の病院の人事制度改革に携わる。人事制度を単なる管理のツールではなく、組織が期待する職員を引き上げ、更なる貢献を引き出す仕組みとするコンサルティングを行っている。また、研修など職員教育の領域では、それぞれの組織に合わせた研修を設計し、再現性と実効性を重視した研修を行っている。

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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