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病院DXは、病院ダイエット? 

  • 業種 病院・診療所・歯科
  • 種別 レポート

医療DXコンサルティング02

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コスト構造変革待ったなしと病院DX

前回レポートで、「デジタル化≠DX」であることを解説しました。
参考記事:医療DXとは?取り組み事例からみるDXの必要性と進め方~「デジタル化≠DX」を踏まえた医療DX~

DXとは、デジタル化で組織変革やコスト構造の変革を行うことです。病院について言えば、「人員配置を見直して病棟の施設基準の類上げ(入院料の変更)を行う」「一部の事務職員を地域連携部門の渉外担当や健診部門の企業健診・人間ドックの営業担当に再配置する」などの組織変革を行い、コスト構造変革を行うことです。

一般病院の利益率は1~2%と、薄利な事業体質になっています。「平成30年度 病院経営管理指標」によれば、医療法人・一般病院(N=238病院、平均稼働病床数141.5床)の医業利益率は1.4%、経常利益率は2.0%です。このような薄利な事業体質では、昨今の原油高・物価高騰、就業人口の減少に伴う採用コストの増大などに、全く対応できません。病院のコスト構造変革は待ったなしです。

病院DXは、ダイエット?

こうした環境下で重要性を増すのが、「コストセンターのプロフィットセンター化」です。病棟や診療科の原価計算を行う場合、医師や看護師などはプロフィットセンターと呼ばれます。収益・粗利益に直接つながる部門のためです。

一方、収益・粗利益には直接つながらないけれども、間接的に貢献する医療技術部門や事務部門などは、コストセンターとして区分されます。このコストセンターを組織変革して、プロフィットセンター化することが、経営的には重要になってきます。

具体的には、コストセンターを共有化(シェアリング)し、余剰人員のプロフィットセンター化を進めることになります。人間に例えると脂肪を燃焼させて、筋肉を増やすダイエットです。「コストセンターのプロフィットセンター化」は、まさに病院におけるダイエットです。利益率が1~2%という薄利な体質は、コストセンターの人件費比率が高く、贅肉が多い肥満体質になっている状態です。体質改善して、筋肉質な組織へ変革する必要があります。

プロフィットセンターへのシフトと病院利益率

医療技術部門や事務部門のコスト割合を抑えて、プロフィットセンターの割合を高めることが重要になります。

前述した「平成30年度 病院経営管理指標」によると、医療法人・一般病院では、医師人件費比率(常勤・非常勤計)15.2%、看護師人件費比率(常勤・非常勤計)18.3%、その他職員人件費比率(常勤・非常勤計)20.2%となっています。

ざっくり把握すれば、プロフィットセンター(医師・看護師)が計33.5%、コストセンター(その他職員)が計20.2%。経常利益率が2.0%なので、コストセンターを3%効率化(20.2%⇒17.2%)できれば、経常利益率は5.0%になります。

名経営者として名高く、京セラ株式会社の創業者である稲盛和夫氏は「10%くらいの利益率が出せないようでは、経営のうちに入らない」と述べられていました。規制産業の病院経営でも、せめて利益率5%は実現したいものです。

経営改善・コスト構造変革を実現する病院DX

ちなみに前述の統計データでは、平均稼働病床数141.5床、職員1名当たり入院患者数が0.5名、医師1名当たり入院患者数が5.5名、看護師1名当たり入院患者数が1.1名となっています。(病床数と入院患者数比率を組み合わせることで)平均総職員数は283.0名、うち医師数が25.7名、うち看護師が128.6名であることが分かります。(平均総職員数から医師数と看護師数を引くことで)その他職員数は128.7名となります。

「その他職員128.7名」を効率化するか、院内で配置転換してプロフィットセンター寄りの業務に転換する「コストセンターのプロフィットセンター化」することが、経営改善・コスト構造変革のカギになります。

ここで避けられないのが、「病院DX」です。利益率5%を実現するには、コストセンターの人件費比率20.2%を17.2%にすることが求められます。これはコストセンターを85%(15%減)にすることを意味します。その他職員数128.7名であれば、単純計算で約19.3名相当の効率化です。それは並大抵のことではありません。人間のダイエットでも、短い期間で10kg以上の体重減などを行うと体調を崩してしまいます。病院も同様で、無理なダイエットを行うと離職が続いたりして、却って経営状態が悪化します。

効率化ではなく配置転換を進めるとしても、「事務職員を地域連携室の渉外部門や健診部門の営業担当へ」と多くの職員を配置転換するのは至難の業です。電子カルテやRPA、タブレットPCなどデジタル製品を導入する「単なるデジタル化」や「業務効率化」では成し遂げられないでしょう。組織のあり方を根本から変革する必要があります。

「複数で取り組む」病院の組織変革

では、どうすればいいのでしょうか? ここでも、人間のダイエットが参考になります。一人でダイエットにチャレンジすると失敗してリバウンドしたりしますが、パーソナルジムでインストラクター・コーチが付いて、食事・運動・休養など日々管理したり、仲間とともにダイエットの状況をSNSで共有しながら取り組むと、上手くいくケースが多いと思います。まさにコーチや仲間のように「複数で取り組む」ことが大事です。

グループ病院では、各病院のシステムを共通化して、複数病院の事務管理部門を基幹病院に集約する。地域医療連携推進法人では、加盟する複数医療法人のシステムを共通化し、人員は地域医療連携推進法人本部に集約する。これらの組織変革の結果、創出された人員を地域連携部門の渉外担当や健診部門の企業健診・人間ドックの営業担当などのプロフィットセンター寄りの業務へ再配置する。こうしたシェアリング(共有化)を複数の病院で行います。そして、複数の病院の各部門でこうした取り組みを積み重ねていくことで、大きな組織変革が可能になります。

同じようなことは、銀行など金融機関でも進められています。持ち株会社を用いてグループ化(ホールディングス化)し、隣接店舗を統廃合したりシステム統合などを進めています。「コストセンターのプロフィットセンター化」です。そこにデジタルが活用されます。

事務管理部門が取り扱う内容は情報が多く、デジタルで共有がしやすく、コスト構造変革がしやすい領域です。デジタルで一ヵ所に集約化したり、リモートにして域外の方に委託したりするなどコスト構造の変革は可能です。こうした「デジタル化による組織変革」こそが病院におけるDXです。その結果、「コストセンターのプロフィットセンター化」が進みます。DXによりコストセンターをプロフィットセンターへと変革することで、利益率5%以上が見えてくると考えます。

病院DXのインストラクター・コーチとして

ダイエットを目指す方向けのパーソナルジムのインストラクター・コーチ同様に、弊社では利益体質を目指す病院のインストラクター・コーチ役としてご支援しています。パーソナルジムで最初に行うのが体重測定や初期カウンセリングですが、弊社でも最初に、病院DXの初期診断を行います。

具体的には、経営層のヒアリングで組織変革(CX:Corporate Transformation)や産業変革(IX:Industrial Transformation)のゴールイメージを把握し、現状とのギャップや課題箇所を特定するために現場担当者ヒアリングや現場ラウンドを行う「病院DX初期診断」を行います。ここでもポイントは、電子カルテやRPA、タブレットPCなどデジタル製品を導入する「単なるデジタル化」にならないように、最初に目的を定めることを重視しています。

病院DX、目指したい組織は?

デジタル化と組織変革のための人事システム

これまでご説明してきたように病院DXは単なるデジタル化ではなく、組織変革やコスト構造変革にまで至る必要があります。デジタル化だけでは目的を達成することができません。弊社がご支援する場合は、法人・病院内での配置転換をしやすくするように人事制度の見直しを行うこともあります。複線型人事制度を導入し、配置転換の有無を選択できる人事コースを設計することで、配置転換を受け入れる職員へのインセンティブとします。その結果、配置転換を受け入れる方を促す仕組みです。真の病院DXを行う場合は、デジタル化と合わせて人事制度の見直しも必要でしょう。

中小病院向け人事制度構築支援

病院DXによる総合的変革(デジタル・組織・戦略・管理)

こうした背景があるため、弊社が病院DXのご支援する場合には、病院業務やデジタル化に詳しいスタッフだけでなく、病院の組織人事コンサルタントともチームを組んでご支援しています。

まず、CX(組織変革)の目的とゴールを明確にし、場合によって、病院の戦略コンサルタントもチームに加わり、地域医療構想などを踏まえた病棟機能再編、地域医療連携推進法人設立やM&AなどのIX(産業変革)にかかわる提案も行います。

コスト構造変革も目的なので、管理会計の視点も忘れずに進めます。税理士法人を祖業として、病院に業種特化してデジタル化・組織人事・戦略策定をワンストップでご支援している弊社ならではの支援かもしれません。

ダイエットでは食事制限だけでなく、食事内容の見直しや運動習慣の見直しなど生活習慣全般の見直しが必要です。病院DXでも、単にカットするのでなく、総合的な取り組みが必要です。こうしたCX・IXの目的・ゴールを明確にした上で、必要なデジタル化を進めていくことが、病院のダイエットである病院DXでは不可欠でしょう。

本稿の執筆者

太田昇蔵(おおた しょうぞう)
株式会社日本経営 副部長

大規模民間急性期病院の医事課を経て、2007 年入社。電子カルテなど医療情報システム導入支援を経て、2012 年病院経営コンサルティング部門に異動。現在は、病院CX (組織変革)のための人事制度改革を支援するとともに、D(デジタル化)のための医療情報システム・RPAの導入支援を手掛ける。2005年西南学院大学大学院経営学研究科博士前期課程修了、 2017 年グロービス経営大学院 MBA コース修了。

株式会社日本経営

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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