物価高騰の中で、建て替えを実現するための病院DX
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業種
病院・診療所・歯科
- 種別 レポート
医療DXコンサルティング05
2022年8月に以下の「医療DXとは?取り組み事例からみるDXの必要性と進め方」というレポートを公開しました。
上記レポートの中で「病院建て替えへの応用」という章への反応が大きかったので、今回は少し深堀りしてお伝えしたいと思います。
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10年で建築単価が倍以上に!
福祉医療機構の「2021 年度(令和3年度)福祉・医療施設の建設費について」によると、2021年(令和3年度)における病院建築の㎡単価は 423千円です。
出所:「2021 年度(令和3年度)福祉・医療施設の建設費について」
(図表 9)病院・介護老人保健施設の平米単価の推移
また、全国公私病院連盟が行った「令和3年病院運営実態分析調査の概要」によると、2021年度の100床当たり建物延床面積は【総数】7,439㎡、【私的】6,323㎡となっています。
出所:「令和3年病院運営実態分析調査の概要」
この2種の統計を踏まえて、2021年の1床当たり建築単価を試算すると【総数】31,467千円、【私的】26,746千円となります。
同様に10年前の2011年の両データで1床当たり建築単価を試算すると【総数】14,533千円【私的】12,320千円となるので、双方とも10年間で約2.17倍です。この計算に拠れば、10年間で建築単価が倍以上に跳ね上がっている計算になります。
建築価格高騰下でも、待ったなしの建て替え
ところで、2021年度の1床当たり建築単価から試算すると、以下のような建築価格となります。
150床の病院建て替えケース | 【総数】約4,720百万円 【私的】約4,011百万円 |
300床の病院建て替えケース | 【総数】約9,440百万円 【私的】約8,023百万円 |
このように建築価格が巨額になってきています。
併せて、総務省統計局が公表する2022年の年平均物価上昇率は対前年比2.5%となっており、物価高騰は止む気配がありません。建築単価の高騰・高止まりは、今後も続くものと推測されます。
一方で、全国の多くの病院が、病院建て替え「待ったなし」の状況です。旧耐震基準の建物であったり、施設基準を満たすためであったり、雨漏りなどの経年劣化であったり、理由はさまざまです。
そうなると、まず最初に検討されるのは、延床面積を小さくすることです。無駄なものはどんどん削ぎ落としていくのですが、それでも病棟など直接貢献部門の面積圧縮には限界があります。医療サービスの質低下につながり、本末転倒になってしまうからです。
管理部門の延床面積を圧縮する
先ほどの「令和3年病院運営実態分析調査の概要」を詳細に見ていきましょう。すると、100床当たり建物延床面積のうち「管理・サービス部門」という内訳があります。
2021年度 100床当たり建物延床面積 | 【総数】7,439㎡、【私的】6,323㎡ |
うち、管理・サービス部門 | 【総数】2,490㎡ 【私的】1,889㎡ |
「管理・サービス部門」は全体の延床面積のうち、【総数】約33.5%【私的】約29.9%と、実に三割を占めています。建築単価が高騰する中で、病院によって大きく方針が分かれるのが、この管理部門の延床面積です。
管理部門の延床面積はどこまで圧縮できるでしょうか。
実際に検討してみると、そう簡単には圧縮できません。そこで働く人の人数に応じて、デスクやパソコン、ロッカーや会議室などが必要になるからです。
ここで大きな威力を発揮するのが、事務管理部門のDXです。単に業務をデジタルに置き換えるのではなく、「組織変革も伴う真のDX」を進めるのです。
病院建て替えとDX組織変革は、ワンパッケージに
医療職については施設基準上の人員配置基準がありますし、そもそも患者サービスの直接業務ですので省人化すればよいというものではありません。
しかし、事務管理部門については、施設基準上の人員配置基準が少なく、場所を問わずに働いたり、DX化により省人化できる領域がかなりあります。
例えば、地域医療連携推進法人を見てみると、参加する複数医療法人で共通のデジタル製品を導入するだけでなく、「事務管理機能そのもの」を地域医療連携推進法人本部に集約する事例があります。
グループ病院の場合も、事務管理部門の機能をデジタル化により集約・一元化し、「新病院では必要最小限の事務職員しか配置しない」ケースがあります。
このように建築単価が高騰・高止まりする中で、今後ますます病院建て替えとDXによる組織変革は同時に検討され、ワンパッケージになっていくと考えます。
電子カルテリプレイスと同期させた大きな変革
病院建て替えと電子カルテのリプレイスも、同じように相性がよい組み合わせです。
特にグループ病院の場合は、電子カルテのリプレイスと病院建て替えを同時期に戦略的に展開することで、大きな変革が可能になります。
例えば、グループ病院内で建て替えを予定しているA病院があります。一方で、電子カルテのリプレイスを予定しているB病院があります。
B病院の電子カルテのリプレイス時に、A病院の電子カルテもVPN接続してレセプト請求処理ができるように導入すると、B病院の医事課にA病院のレセプト請求処理の大半を集約することができます。
建て替えするA病院は、受付業務など必要最小限の医事課スタッフのみを配置し、医事業務をB病院に集約させます。事務管理部門を集約化するとともに、建築延床面積を圧縮することができます。
当然、同一グループの病院であっても、それぞれ業務フローは異なっているでしょうし、電子カルテのベンダーが異なることも、しばしばあります。
それによって、不合理で非効率であったとしても、通常のリプレイスのタイミングではそれほど大きな変革はできません。建築単価が高騰する今だからこそ、検討ができます(検討が避けられません)。
ちなみに、電子カルテを中心とした病院情報システム(HIS)は、放射線部門システムや薬剤部門システムなど種々な部門システムを接続・連携して構成されています。そのため、電子カルテの話は電子カルテだけでは終わらず、病院全体に及ぶ大きな変革に繋がります。
建て替えと同時に、DX戦略を大きく描く
今回は、病院建て替え(建築単価高騰)と管理部門の組織改革(一元化・延床面積の圧縮)、電子カルテほかHISリプレイスについて事例をご紹介し、それぞれが別個のものではなく、DX戦略として一体的に展開することが大きな変革・コスト削減に繋がるということを、ご紹介しました。
これからの病院経営において、DX戦略は間違いなく戦略の核となり、事業を大きく左右するはずです。実際にお客様からも、「このままシステム中心で進めてしまって大丈夫か」「DXによってどのような効果を出せるか把握したい」「DX戦略の方向性を見定めたい」などのご相談をいただくようになってきました。
そのようなご対応の中からエッセンスを抽出し、より安価にご提供できる「病院DX初期診断」を整備しました。経営層にヒアリングしてゴールイメージを明確にするとともに、現場担当者へのヒアリングや現場ラウンドを通して、現状とのギャップや課題箇所を特定していきます。
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本稿の執筆者
太田昇蔵(おおた しょうぞう)
株式会社日本経営 副部長
大規模民間急性期病院の医事課を経て、2007 年入社。電子カルテなど医療情報システム導入支援を経て、2012 年病院経営コンサルティング部門に異動。現在は、病院CX (組織変革)のための人事制度改革を支援するとともに、D(デジタル化)のための医療情報システム・RPAの導入支援を手掛ける。2005年西南学院大学大学院経営学研究科博士前期課程修了、 2017 年グロービス経営大学院 MBA コース修了。
株式会社日本経営
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