お役立ち情報

働き手不足時代の病院エリア別組織戦略

  • 業種 病院・診療所・歯科
  • 種別 レポート

2023年に入り新型コロナウイルス感染症が落ち着いてくる中で、逆に医療機関では看護師をはじめとした人員不足が顕在化してきました。2020年以降のコロナ禍という緊急事態への対応の中で見えなくなっていましたが、その期間も生産年齢人口の減少は進んでいました。

その結果、コロナ禍という緊急事態への対応が明けて、3年間無理をして頑張った方が退職すると、その不足分を採用できないという働き手不足が顕在化しています。

こうした働き手不足のご相談が増える中で、弊社が経験してきた知見をまとめて紹介します。

人的リソースが病院収益の源泉

いきなり働き手不足の論点に行く前に、そもそもの病院経営のメカニズムを考えてみたいと思います

先日、弊社お役立ちレポートで解説しましたが、病院の売上(医業収益)のメカニズムを考えると「①高齢者人口」「②病床構成」「③診療科構成」「④生産年齢人口と採用力」の4つが重要になります。

このうち①③④は、病院が所在するエリアの人的リソースに影響を受けます。人的リソースは、どう確保するか、いかに効率的に確保できるかが重要になります。そのため、再編・統合によるグループ病院化や地域医療連携推進法人の活用などの論点が出てきています。(参考:グループガバナンスを高める医師マネジメント

エリア別の需給バランスで考え

「③診療科構成」は、医師の確保ということですが、医師の確保は高速道路・新幹線を活用した遠距離通勤や平日の単身赴任で対応できるケースがあります。

しかし、「①高齢者人口」と「④である医師以外の医療職」については、生活圏の中で受診・通勤できる必要があるので、病院の所在エリアの影響が大きくなります。つまり、エリア別に異なる動向・トレンドを示します。

一般的に“2025年問題”と言われてきたように、①の高齢者人口は多くのエリアでまだ増加傾向です。しかし、地方部ではすでに高齢者人口も減少傾向になっているエリアもあります。

④の生産年齢人口については、“2040年問題”と言われるように今後大幅に減少していきます。一部の大都市部以外では、すでに大半のエリアで減少傾向になっています。しかし、一部の大都市部は他地域からの流入によりまだ増加傾向を示すエリアもあります。

このように、エリア別に医療需要と医療職供給の需給バランスは大きく異なります。

そこで弊社では、以下のマトリクスで類型化して、エリア別に組織戦略の方向性を考えることをお勧めしています。

エリア別組織戦略を具体化する複線型人事制度

では、それぞれの類型ごとに組織戦略の考え方をまとめていきます。

まず、エリア別組織戦略を具体化する施策として複線型人事制度があります。先日、弊社お役立ち情報として以下のレポートを公開しました。(参考:イノベーションを生み出す人事施策

このレポートでは、「イノベーションを生み出すためにダイバーシティを高める」という文脈の中で、組織の多様性を高めるための人事施策として複線型人事制度(コース別人事制度)をご紹介しました。

ダイバーシティを高めるためには、誰もが働きやすい職場環境、多様な働き方を受容できる人事制度が必要になります。具体的には育児・介護との両立コースや定年後再雇用のシニア人材活躍コース、さらには高度なスキルを身につけることで今まで以上にバリバリと働く高度専門人材コースなど、複数のコースを設ける人事制度です。

このコースをどのように設計するかが、エリア別組織戦略の中で重要となってきます。

以下でその考え方をご紹介します。

エリア別戦略①一部の大都市型(積極戦略)

入院医療需要と医療職供給が共に増加傾向で、需給がバランスして市場拡大するエリアです。市場拡大を好機として積極的投資を行うことが考えられます。

そのためには、そうした積極戦略を推進する人的リソースの確保が重要になります。特定看護師を採用して、医師の業務を一部代替するなどタスクシフティングを進め、医師にはより高付加価値の業務に従事してもらうことが考えられます。

また、医療DX・病院DXを推進し、リソース効率を上げたり、コスト構造を変革したりすることが必要になります。DX人材の採用などが考えられます。こうした高度専門人材を採用するには、従来と同じ人事コースでは実現できません。

特にDX人材は医療業界だけで不足している訳ではなく、日本中で不足しています。事務職や医療技術職の給与表では採用できないほど、年収水準が高まっています。そのため、こうした高度専門人材を採用する別の人事コースが必要になります。

エリア別戦略②県庁所在地型(需給適応戦略)

多くの県庁所在地では、入院医療需要は増加していますが、すでに生産年齢人口は減少傾向に入っています。需給バランスが崩れているので、医療需要という市場機会を損失することに繋がります。

そこで、主に看護師などの医療職の確保が最優先となります。医療職は女性就業割合が高いため、女性特有のライフイベントに対応できる人事コースが望まれます。また、定年後の高齢者人材の活用も重要な論点です。高齢者人材の積極活用コースなども重要になってきます。

前述したお役立ちレポート「イノベーションを生み出す人事施策」でもお伝えしたように、多様な価値観の尊重が求められます。「育児中はAコース」、「定年後はBコース」のような紋切り型で設定するのではなく、エリア事情や組織で現に働いている方の多様な価値観を踏まえて複数設定することが重要になります。

また、各コースの間は、ライフイベントだけでなく本人の価値観変化も踏まえて移行できるようにしておくことがポイントです。そのため、コース設計とコース移行のルールをどう設計するか?が重要な論点となります。

コース設計によっては、法人が意図したコース別人員割合と大きく異なってしまう可能性もあります。そうなると勤務シフトが組めなくなってしまったり、人件費が増大してしまったりする可能性もあります。

そこで、実際のご支援の際には、「コース間の賃金水準の差」を工夫したり、事前に何度も「コース選択意向調査(アンケート)」を実施したりしています。まさに、ここに組織人事コンサルタントとしての“プロの塩梅”が求められています。

実際に本制度を導入したお客様にご意見を伺うと、「ワークライフバランスを考慮した人事コースができたということで、過去の退職者が戻ってきた!」という声をいただくなどしています。

こうした働き方の選択肢を増やすことで、定着(ライフイベントによる離職防止)だけでなく、採用にも好影響を与えます。採用・定着の双方で人材確保に有効です。

エリア別戦略③県庁所在地外市町村型(リソース共有化戦略)

上記2類型以外の多くの市町村では、医療需要が減少するよりも医療職の供給減が先行します。

一見、需給共に減少傾向で需給バランスがとれそうですが、2040年問題による生産年齢人口の減少が速すぎて、人的リソース不足が顕在化しています。医療需要も減少しているので、新たな採用を行うことが経営リスクにもなります。人的リソースを採用しても、それを需要でペイできない状況です。

そのため、新たに採用したりするのではなく、エリアに存在するリソースを共有(シェア)して対応する必要があります。地域医療連携推進法人の活用やM&Aによる再編・統合(グループ化)などが考えられます。(参考:グループガバナンスを高める医師マネジメント

このように、エリアの需給バランスによって採りうる施策は変わります。

リソース確保とリソース効率という観点で、複線型人事制度やシェアリング(グループ化・地域医療連携推進法人の活用)を工夫し、働き手不足時代の組織戦略を再考いただければ幸いです。

なお、弊社では各法人・病院に応じた「複線型人事制度導入」や再編・統合というグループ化に伴う「PMI(Post Merger Integration、統合後の組織融合)」なども対応しています。また、弊社のメンバーファームでは地域医療連携推進法人の設立支援も行っています。

メンバーファームも含めてトータルサポートしているので、お困りがあればお気軽にご相談ください。

本稿の執筆者

太田昇蔵(おおた しょうぞう)
株式会社日本経営 部長

総務省:経営・財務マネジメント強化事業アドバイザー(「DXの取組」領域)。民間急性期病院の医事課を経て弊社に入社。医療情報システム導入支援を皮切りに業務を行い、東京支社勤務時には医療関連企業のマーケティング支援を経験。現在は、医師人事評価制度構築支援やBSCを活用した経営計画策定研修講師、役職者研修講師を行っている。2005年に西南学院大学大学院で修士(経営学)を取得後、2017年にグロービス経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。

株式会社日本経営

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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