お役立ち情報

ブランド確立による医療職採用マーケティング

  • 業種 病院・診療所・歯科
  • 種別 レポート

2025年1月に弊社お役立ち情報で以下の2つのレポートを公開しました。今回はこの2つのレポートを踏まえて、ブランド確立による医療職採用マーケティングについて論考してみます。

【地域共生社会における“好循環のビジネスモデル”】
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-organization-quality-115148/

【パーパス実現のための従業員マーケティング】
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-finance-organization-quality-116110/

ブランド確立が採用力と資金調達の源泉に

まず、1つ目のレポートでは、地域共生社会におけるビジネスモデルについて以下の図を用いて解説しました。

【地域共生社会におけるビジネスモデル】

上図のように公的医療保険・介護保険だけでなく、農福連携やMaaSなど業界・産業をまたいだ周辺領域でも貢献することで地域共生社会に取り組み、地域に貢献するというパーパスを実現している病院では、そのブランドが確立していきます。こうしてブランドが確立することで、地域や社会からの信認が高まることにより、クラウドファンディングでの資金調達ができたり、地元住民の就職希望先として上位に選ばれたりしています。

このメカニズムを2つ目のレポートでは、マーケティングの視点として博報堂の嶋氏(※ⅰ) の書籍にある下図を用いて説明しました。

【市場の外に出て社会での役割を考える】

弊社では、近江商人の「三方良し(売り手よし、買い手よし、世間よし)」という考え方に“時間軸”を付加して、「四方善(相手善し、自分善し、社会善し、将来世代善し)」と呼んでいます。こうした地域共生社会を志向した“社会善し”という考え方は重要になると思います。この“社会善し”を実現する上で、“将来世代善し”は重要なファクターになります。

弊社では2025年5月に以下のセミナーを開催しました。そのセミナーでは、グロービス経営大学院:副学長(当時)の田久保善彦先生に、ご自身の著書でもある「創業300年の長寿企業はなぜ栄え続けるのか」(※ⅱ) というテーマで講演いただきました。その講演内容を踏まえると、ファミリー企業(病院)はオーナー家による事業承継を見据えて“将来世代善し”という将来投資が行いやすく、長期を見据えた“社会善し”での行動が行いやすい傾向があると感じます。ファミリー企業(病院)は、自身の子や孫に承継していくので、短期視点での利益回収ではなく、地域社会への貢献という長期投資が実施しやすい傾向があります。

【2025/5/24開催】明日から使える経営のヒントと“仲間”が見つかった一日
「病院経営エクセレンスセミナー」

https://nkgr.co.jp/seminar/hospital-strategy-122019/

パーパス・キャリア・システムのマッチングが重要

それでは、前述した採用力強化という面では何が大事になるでしょうか。先ほどの論考のように、パーパスを実現してブランドが確立することで、地域や社会からの信認が高まることにより、地元住民の就職希望先として上位になります。しかし、医師採用などは、地元住民だけで採用するわけにもいきません。広域からも医療職を採用するためには、以下の3つの側面から考える必要があります。

【パーパス・キャリア・システムの3つのマッチング】

まず、パーパスのブランディングは、以前のレポートや本レポートの冒頭でも触れたように、地域や患者に貢献するという病院事業の本質的なパーパスを実行できているかだと思います。特に、医師以外の医療職は地元密着型の傾向が強いので、地域への貢献は地元住民への認知度向上というブランディングにより、長期的な将来世代の医療職育成と採用強化につながります。弊社の顧客でも、病院の“ゆるキャラ”を作り、そのゆるキャラを活かした交通安全看板(飛び出し人形)や防犯ブザーを地域に配布している病院があります。こうした活動は、長期的な地元でのブランド形成や将来的な採用力の強化にもつながると思います。

次に、キャリア面でのマッチングとブランディングです。弊社では医師マネジメントの支援も多く行っていますが、特に医師は自身のキャリア形成志向が強く、誰の下で経験を積めるか?誰と一緒に働くか?は重要になってきています。

最近は、将来的な開業を見据えた医師採用マーケティングとして、家庭医プログラムなど臨床スキルの経験を積めることを訴求している病院も増えてきています。また、一部の都道府県や優良病院では、院内(または都道府県単位での)MBAプログラムを構築したり、既存のMBAプログラムへの受講補助を行ったりしています。これは、臨床スキルだけでなく、将来的な開業に備えてマネジメントスキルも学べることを訴求するという医師採用マーケティングです。実際に、私が通っていたビジネススクールでも、病院の受講補助でMBAを取得していた医師が複数いました。この傾向は年々強まっており、医師のMBA取得者が増えています。こうした臨床スキルとマネジメントスキルの双方のキャリアを積めるというブランドは確立すれば、広域からの採用も可能になるでしょう。

この論点では、こうした取り組みをしっかりとPR(Public Relations)して、様々なスタッフから利害関係者へ発信できているかも重要になります。PRの定義は冒頭2つ目のレポートで詳述していますが、こうした良いキャリア形成支援を、現在勤務している医師などスタッフに自ら発信してもらう必要があります。

最後にシステムのマッチングです。ここでいうシステムとは、人事制度などの組織システムです。給与制度や評価制度、マネージャー医師の役割を明文化した等級制度、そして、ワークライフバランスに応じて選べる働き方コースとしての複線型人事制度などです。弊社では医師を含む病院人事制度の構築支援をしていますが、公開できるレベルで医師人事制度が整備されていない病院も多くあります。さらに、整備されていたとしても、それが公開されておらず、求職している医療職が情報へリーチできない面が多数あります。

このように、採用においてはパーパス・キャリア・システムの3つの面でのマッチングが必要になります。特にパーパスとキャリアについては、内容を整備することでブランドが確立し、医療職の採用マーケティングにおいて大きな推進力になります。前述した家庭医プログラム・院内MBAプログラムなどのキャリア形成システムや公開できるレベルでの組織システムとしての人事制度の整備は不可欠でしょう。

また、冒頭2つ目のレポートで述べたように、人事制度における評価制度などは、まさにパーパスを“構造化・言語化”して、“第三者が発信する”ための“コンテンツ”となります。こうした取り組みを積み重ねることが、採用力強化につながるブランドの確立へと直結します。そこで、パーパス・キャリア・システムの3つの面でのマッチングを意識した取り組みが重要となるでしょう。

なお、弊社では院内MBAプログラムなどのキャリア形成システム構築の助言や組織システムとしての人事制度の整備を行っています。特に、難易度の高い医師マネジメントシステムの構築支援は、累計200病院(2024年4月時点)を超えており、多数の実績があります。ご相談があれば、下記よりお問い合わせください。

「医師マネジメントシステム構築支援」特設サイトはこちら

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※ⅰ嶋浩一郎「「あたりまえ」のつくり方-ビジネスパーソンのための新しいPRの教科書」

※ⅱグロービス経営大学院「創業三〇〇年の長寿企業はなぜ栄え続けるのか」
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本稿の執筆者

太田昇蔵(おおた しょうぞう)
株式会社日本経営 部長

大規模民間急性期病院の医事課を経て、2007年入社。電子カルテなど医療情報システム導入支援を経て、2012年病院経営コンサルティング部門に異動。
現在、医師マネジメントが特に求められる医師数の多いグループ病院・中核病院のコンサルティングを統括。2005年西南学院大学大学院経営学研究科博士前期課程修了、2017年グロービス経営大学院MBAコース修了。

株式会社日本経営

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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