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民間給与実態統計調査とは

  • 業種 企業経営
  • 種別 レポート

国税庁は9月、2023年分の「民間給与実態統計調査結果」を公表しました。延べ19,412事業所から回答を得ています。

同調査は、統計法に基づいて国税庁が昭和24年から毎年実施している調査です。民間の事業所における年間の給与の実態を明らかにし、税務行政運営等の基本資料とすることを目的としています。この調査の特色は、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」とは異なり、従業員1人の事業所から5,000人以上の事業所まで広く調査していること、給与階級別の分布においては役員報酬も対象となっていることです。

1. 正社員について

※グラフ、表は公表資料から当社作成

1年を通じて勤務した給与所得者(平均年齢47.0歳)について、平均給与は460万円(前年0.4%増、19千円の増加)となっています(ここでの給与とは、給料・手当及び賞与の合計額であり、通勤手当等の非課税分は含みません)。増加傾向は2021年から見られているものの、今回の上げ幅はほぼ横ばいにもとらえられる微増となっています。

男女別では、平均給与は男性569万円(0.9%増、52千円の増加)、女性316万円(0.7%増、21千円の増加)となっています。

給与自体は増加傾向にあるものの、その上り幅は2年ぶりに前年度を下回る水準となりました。この原因について、社会経済全体の要因、つまりマクロ要因として考えられることは以下の通りです。
なお、給与所得者個人や企業別の要因といったミクロ要因は、個別事情が高いため省略します。

  • インフレーションやデフレーション
    インフレによるコスト上昇に伴い、企業の利益が減ると(または大幅な減益を避けて)、昇給幅を小さくすることが考えられます。これは賞与額の減額も同様です。
  • 政府の政策や規制
    例えば、政策に伴う最低賃金の上昇、春闘によるベースアップ、あるいは賃金抑制政策が影響します。

現在賃金の上昇は続いているものの、同時に物価も上昇しつつあることで、企業のコスト上昇に拍車がかかっていると考えられます。その中で、全体としては人件費の急上昇を抑制する働きが見られたものと考察しています。
今後の給与水準と伸び率がまた変わる可能性を注視していく必要があるでしょう。

2. 正社員以外について

1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与を雇用形態別にみると、正社員(正職員)が530万円(1.3%増)、正社員(正職員)以外が202万円(0.7%増)となっています。

社会経済全体的な要因として考えられることは、正社員(正職員)以外(以下、非正規社員)の雇用形態の拡大です。企業が非正規社員の労働力に依存するようになり、非正規職員の待遇改善が進まないというということが考えられるでしょう。また注意したいのは、全体として正社員(正職員)の雇用割合も増加傾向にあるという点です。正社員(正職員)を増やして人件費が増える分、非正職員の人件費を毎年高水準で引き上げることは難しいという判断をしている場合も考えられます。

3. 事業所規模別について

1年を通じて勤務した給与所得者の1人当たりの平均給与を事業所規模別にみると、従業員30人〜99人の事業所では425万円(男性513万円、女性310万円)、従業員100人~499人の事業所においては447万円(男性536万円、女性326万円)、従業員500~999人の事業所においては494万円(男性602万円、女性348万円)となりました。

4. 業界別について

※グラフの数値と本文の数値が一部異なる部分がありますが、原文のまま記載しています。

1年を通じて勤務した給与所得者の1人当たりの平均給与を業種別にみると、最も高いのは、「電気・ガス・熱供給・水道業(775万円)」となっています。全体平均に満たない業種は、低い順に、「宿泊業、飲食サービス業(264万円)」、「農林水産・工業(333万円)」、「サービス業(378万円)」となっています。

全体としては上記の傾向ですが、このデータは、給与所得者の勤続年数、年齢といった個別事情は一切加味していません。

外部環境との比較の際には、「うちの業界では、勤続年数10年ほどでどの程度の給与水準なのか?」「うちの業界では、30歳~35歳にどの程度の給与を支給しているのか?」などといったことが気になるところです。
調査結果帳票内には、上記についても参考になるデータが載っています(年齢別では180〜181ページ、勤続年数別では194〜195ページ)。
給与見直しの際のベンチマークとして活用することも良いと思われます。

業界間の年収差については、業界の付加価値や利益率、どのようなリソースを集約した業種か(資本集約型か労働集約型かなど)、専門性、労働時間・働き方の違い、労働組合の強さなどが関係します。

業界間の年収差を均一化することは現実的ではありませんが、低賃金業界の底上げを図っていくことは、引き続き工夫が必要でしょう。特に最低賃金の見直しは、石破政権の目玉政策として、岸田政権時代よりもよりスピード感を持った取り組みとなることが予想されます。つまり、単年当たりの引き上げ額が、岸田政権時代よりも急上昇する可能性もあるということです。 

ここ2年の兆候からも明らかですが、今後一層、急勾配で上がり続けることが予想される人件費を、一辺倒に「抑える」ということは難しくなっていると考えた方がよさそうです。30年続いたデフレ経済下は終わったと考え、今後はインフレ基調の経済下で経営をしていく必要があります。人件費を「適切に分配する」という視点を持つことはもちろんのこと、経営全体を鑑み、人件費増に対応できるように売上向上、事業成長に臨むことがカギといえるでしょう。

※上記より、企業成長につながる「人事評価・賃金制度のポイント」について、
まとめたお役立ちBOOKをダウンロードいただけます。

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。


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