お役立ち情報

トップ方針を代弁する将来人材をどう育成するか? ~“武者修行”で活き活きしたミドル・幹部を育てる?~

  • 業種 病院・診療所・歯科
  • 種別 レポート

先日、以下のレポートを弊社お役立ち情報で公開しました。

【パーパス実現のための従業員マーケティング】
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-finance-organization-quality-116110/

今回は、上記レポートで触れた“トップ方針をミドル・幹部に代弁してもらう”という点について論考します。

なぜトップ方針が理解されないのか?

上記レポートでは、パーパスの浸透・実現の方策として、以下の内容を記載しました。

パーパスを実現するというトップ方針を中間管理職に代弁してもらうという実行プロセスが必要です。その際、従業員自身のワーク・エンゲイジメントが高まった状態で自ら行動するような組み立てが重要です。まさに、マーケティング的な“ストーリー性”や“ナラティブ(物語)”が求められます。

トップ方針をミドル・幹部に代弁してもらうことでパーパスが組織に浸透し、そのパーパスの背景を理解・納得した従業員のワーク・エンゲイジメントが高まることで、自ら行動するようになるのだと思います。

しかし、実際のコンサルティングの現場では、これと正反対のお悩みを聞くことが多数です。「なかなかミドルに考えが伝わらない」など、トップ方針へのミドル・幹部の理解が高まらないことへの相談を受けることが多々あります。

前回のレポートでは、「戦略マップ」や「行動評価表」などを用いて、“構造化・言語化”しておくこと、そして“自分以外の第三者が発信する”ために、それをサポートできるよう“コンテンツ化”することを提言しました。こうしたハード面のアプローチだけでなく、ソフト面として育成のアプローチも必要です。弊社も役員が交代で毎週動画メッセージをeラーニングシステムで配信し、その視聴状況を幹部間で共有し、理解を促す取り組みをしています。

【参考】医療・介護のeラーニング研修:Waculba(ワカルバ)

こうした課題の根本に、トップとミドル・幹部の“視座”“視野”“視点”の違いがあるのだと思います。一般的に“視座”“視野”“視点”は以下とされます。

 ◆ 視座:「どの立場で」物事を見るか/考えるか
 ◆ 視野:「どの範囲で」物事を見るか/考えるか
 ◆ 視点:「どの観点で」物事を見るか/考えるか

よく登山の例で説明されますが、視座は高さなので、高い視座になれば視野が広がります。山頂と登山口の平地では標高(視座)が異なるので、目に入る範囲(視野)が大きく変わります。視野が広がれば、観点(視点)も変わってきます。これから登る山道の大変さなのか?山頂からの風景の美しさなのか?というように視点も変わってきます。図で表すと下図のようになります。

まさに、トップとミドル・幹部の“視座”“視野”“視点”の違いがあるため、トップ方針を頭で理解したとしても“視覚のように体感的には理解できない”ことに理由があると思われます。

“視座”“視野”“視点”を広げる人事交流

そこで、疑似的にトップや幹部の立場に就けて、視座を高め、視野を広げ、視点を変えることが望まれます。京セラ㈱創業者の故・稲盛和夫氏が考案した管理会計の手法であるアメーバ経営(※ⅰ)も、役職に就く前の人をアメーバ長に就任させ、役職者としての“視座”“視野”“視点”を育成する意味がありました。

ミドル・幹部にトップの“視座”“視野”“視点”を持ってもらうために、昨今、病院間の人事交流について相談をいただくことがあります。下図のように“優良病院への武者修行(キャリア形成)”と“人材不足先への応援派遣による地域医療体制の維持”という2つの側面があると思います。

前者は「1,000床以上の●●病院で勤務」や「DPCの機能評価係数Ⅱで全国有数の●●病院で勤務」などキャリア形成目的です。イメージとしては、救急領域でJPTECやACLS、ICLSなどの各種コース修了者はユニフォームにバッジをつけていることがあると思いますが、こうした“勲章”的な意味合いです。

後者は、以前から地域医療連携が上手くいっているエリアで行われているように、急性期と包括期(旧:回復期)の病院間の人事交流をすることで双方のベッドコントロールを円滑にする取り組みの延長です。昨今は、地域医療連携、すなわち前方・後方連携の円滑化だけでなく、特に人手不足により後方連携体制の崩壊を防ぐ意味での応援派遣も検討されています。これらを昇格要件のキャリア要件として考えている病院も出てきています。

こうした異なるエリアや医療機能の他院で勤務することで、“視座”“視野”“視点”が変化し、トップの悩みや方針を示すに至った背景を理解できるようになることが期待されます。まさに山頂に登った人しか、山頂からの絶景は分かりませんが、人事交流を通して立場を変えることで、疑似的に“視座”“視野”“視点”を変化させる取り組みです。

活き活きした上司・先輩の実現

上記レポートで示したようにトップ方針を“構造化・言語化”し、それをサポートするように“コンテンツ化”して、“人事交流”を行い、“視座”“視野”“視点”を変化させさえすれば、トップ方針は浸透するでしょうか。

マイナビ 2025年卒大学生就職意識調査(※ⅱ) によると、就職観について当てはまると思うものを答えてもらったところ、これまでと同様に「楽しく働きたい」が最多で38.9%(前年同値)だったということです。採用においても“仕事の楽しさ”が大きな影響を与えています。やはり、現在のトップや幹部自身が活き活きと働いており、”仕事が楽しそう!”と部下に映っていないと、パーパスに基づくトップ方針は浸透しません。

私自身を振り返ると、最近、複数の部下から「仕事楽しそうですね」と言われ、また長女からも「お父さん仕事楽しそう」と言われる嬉しいことが続きました。トップや幹部自身が、パーパスの実現は価値があり、本当に役立つことだと実感し、それが日々の言動に表れていくことが重要なのだと思います。仕組みだけでは伝わらず、ひいてはミドル・幹部がトップの代弁者になっていくことは難しくなります。トップや幹部、そしてミドル自身が活き活きとしていることがポイントだと感じます。

前述した人事交流の目的の前者として、「1,000床以上の●●病院で勤務」や「DPCの機能評価係数Ⅱで全国有数の●●病院で勤務」などを例示しましたが、これも単なるキャリア形成(スキル習得)だけではもったいないです。全国的なブランド病院での勤務経験という“誇り”“自信”を身につけてもらい、人事交流での経験を生かして復帰後には院内で活き活きとし、周囲にエネルギーを与える存在になっていくことが重要です。

これは医師も同様です。最近、医師マネジメントシステムを構築中の病院のヒアリングでも同様の意見を聞きました。医師確保のため「ナショナルセンター(※ⅲ) 等への人事交流ができる研修プログラムを組みたい」という意見をいただきました。全国的なブランド病院での勤務経験という“誇り”や“自信”を身につけてもらうことは、活き活きした人材を育成するポイントとなります。そうした武者修行を経て“誇り”や“自信”をまとった幹部候補が、トップ方針を代弁することで、真のパーパス経営が実現していくでしょう。

こうした人事交流など多様な働き方を実現するには、上述した昇格要件の整備だけでなく、下記レポートに記載した「複線型人事制度」も重要な論点になります。

【働き手不足時代の病院エリア別組織戦略】
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-finance-organization-quality-103598/

弊社ではこうした人事制度の整備や医師マネジメントシステムの整備、さらには病院間の連携・人事交流に関するご相談などに対応しています。下記のように各種サービス案内をまとめていますので、ご参考になさってください。

■グループ病院ガバナンス強化パッケージ
https://nkgr.co.jp/wp-content/uploads/2025/01/250125A4.pdf
■医師マネジメント強化パッケージ
https://nkgr.co.jp/wp-content/uploads/2024/10/6d70ba3d46821142607fb26de721573e.pdf
■医師人事マネジメント事例集
https://nkgr.co.jp/wp-content/uploads/2024/09/cd2ff598dc066a512d2127b149198423.pdf
■職員アンケート(ESナビゲーターⅡ)事例集
https://nkgr.co.jp/wp-content/uploads/2024/11/85be7e4643a8ae9999ce3f2e1fcf346d.pdf

以上

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※ⅰ https://www.kyocera.co.jp/inamori/about/manager/amoeba/
  稲盛和夫OFFICIAL WEBSITE アメーバ経営
※ⅱ マイナビ 2025年卒大学生就職意識調査(2024年4月)
※ⅲ https://cruise-nc.ncgm.go.jp/about/001.html
   国立高度専門医療研究センター(ナショナルセンター:NC)に関するご案内
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私たちは、医師マネジメントを高次化し
貢献行動促進」「モチベーション向上」「病院収益の向上」に貢献します

本稿の執筆者

太田昇蔵(おおた しょうぞう)
株式会社日本経営 部長

大規模民間急性期病院の医事課を経て、2007 年入社。電子カルテなど医療情報システム導入支援を経て、2012 年病院経営コンサルティング部門に異動。
現在、医師マネジメントが特に求められる医師数の多いグループ病院・中核病院のコンサルティングを統括。2005年西南学院大学大学院経営学研究科博士前期課程修了、 2017 年グロービス経営大学院 MBA コース修了。

株式会社日本経営

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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