コンサルタントの視座・着眼「地域医療の将来を考える」

2019.10.28

地域医療の現在・過去、未来

株式会社 日本経営ホールディングス  副社長 山本 章

台風15号、17号、19号、それに続く集中豪雨で被災された方を謹んでお見舞いし、一日も早く日々の日常を取り戻されることを心よりお祈り申し上げます。

この20年間、病院経営は大きな変革を強いられてきた

私は他業界から転職してきて、20年あまり病院経営のご支援をさせて頂いています。ありがたいことに10年単位でご支援させて頂いているお客様も多くいらっしゃいます。

振り返るとこの20年間、病院経営は大きな変革を強いられてきました。当時はまだ老人保険点数が存在し、介護保険も始まっていない頃です。

そのような中、病院の経営者はいろいろな課題に直面し、その解決に向けてチャレンジして、今がある。

中でも、いつも勉強させてもらい、また感銘を受ける病院に、医療法人鉄蕉会 亀田メディカルセンターさまがあります。

このような災害下にあって、なぜ診療機能を維持できたのか

台風15号やその後の度重なる豪雨では、房総半島を含む千葉県全域で大規模な停電や断水が生じました。そんな中でも日常の診療体制を維持し、行政からの指示を待たずに災害対策本部を設置、対応にあたってこられました。

地域住民に対して電源やwifiを開放したことは、多くのマスコミで報じられています。確かに「テレビ映え」する話題ですが、この病院のもっと地道な活動、たとえば、「外国人向けの台風ガイド」などが作られていることを、皆さんはご存知でしょうか。

このような災害下にあって、なぜ診療機能を維持できたのか。それは自家発電を含めて、行政や電力会社が想定していないレベルで、「南房総の万が一」に備えて設備投資を行ってきたからです。

病院の運営や役割、そして及ぼす影響をどの範囲で考えておくのか、非常に重要だと改めて感じます。

前例のないことまでを想定、構想する

反面、前例のないことまでを想定、構想すると、世の中の基準で考えると「そろばんが合わない」ことも生じてきます。

その最たる例は電子カルテです。「カルテは患者様のもの」という当時としては異端とも言える理想を掲げ、亀田メディカルセンターさまは1995年にIBMと世界初のシステム構築を始めています。

当時、カルテの電子化はそもそも法律がなく、電子化したものをすべて紙で印刷して保管せざるを得ず、二重のコストが発生していました。考えられないことです。

今では、電子的にカルテが共有できるお陰で、鴨川・亀田メディカルセンターで手術された患者の定期受診は、東京駅前にある亀田京橋クリニックで行うことができます。

逆に、京橋クリニックで受診された患者の検査・画像データは鴨川でも共有され、内科、外科の専門医が集まってカンファレンスができるようにもなっています。

30年近く前からの投資がさらに大きく活かされているということです。

千葉県リーグ2部からスタートした、女子サッカーチーム

医療だけではなく地域づくりにも取り組まれています。たとえば、女子サッカーチーム・オルカ鴨川FCのバックアップです。

2014年に千葉県リーグ2部からスタートし、2016年にはなでしこチャレンジリーグ優勝を達成、2017年からはなでしこ2部に昇格しました。

2019年度は残念ながら念願の1部昇格を逃しましたが、最終戦まで首位争いを繰り広げるところまで来ました。

1部はもちろん2部にも、日本の誰もが知っているような企業や地元の銀行がバックアップしているチームがあります。

そのような中で、「南房総から世界へ!」を掲げて活動を応援しているのです。

チームのメンバーは、この1ヶ月は自ら被災しながらも被災地の支援に出掛けていました。

勝負の世界ですから、天災があろうと結果が全て。

来年こそ頑張って1部昇格を成し遂げてもらいたいと応援しています。

日本人はイザという時に、本当にものすごい団結力を発揮する

私も最終戦の応援では愛媛まで行きましたが、何より驚いたのは、チーム関係者だけでなく、千葉・鴨川から何人もの応援団が駆けつけていたことです。

チームが地域に確実に根を張りはじめていることを、改めて感じることができました。 

ラグビーワールドカップを見ても、今回の被災者支援を見ても、日本人はイザという時に、本当にものすごい団結力を発揮します。

しかしながら、何よりも大切なことは日常です。

毎日毎日をつないでいくことで、支援の輪、応援の輪が広がっていき、さらに強固になっていくのだと思います。

そして主役は誰か。

亀田メディカルセンターさまから学ぶことは、自分たちがやりたいからではなく、地域の住民の要請に耳を傾けていることです。

必要とされる医療は何か、地域活動は何か、時には先取りして準備を行う。

すなわち、主役は住民です。

私どもコンサルタントも同じく病院様あっての仕事であり、病院経営者を超えてご支援することなどできない、という当たり前のことを自戒の念を込めて自覚させられます。

おりしも、9月末には厚労省から地域医療における役割や機能について再検証が必要とされる病院が公表されました。

データの内容にいささかの疑問を感じますが、病院経営者が、それぞれの地域において現在と、そして将来を考えるよい機会となればと考えています。

本稿の執筆者

山本 章(やまもとあきら)
株式会社 日本経営ホールディングス 副社長

1998年の入社以来、病院経営コンサルティングの事業化・国際化を推進。戦略的意思決定、JCI認証取得支援、病院建替えコンサルティング、ビッグデータの活用(健康経営)など、顧客とのパートナーシップによるインパクトの大きな新分野のコンサルティングの開発を担う。

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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